第41話 ―最終話・最強の次期女王!?―

 大広間にて、傭兵王を中心に夕食事会となった。


「なあ、ジャック!孫まだ?てか、どっちが嫁?」


「あのなあ!親父~!!」


 非常に軽い!王様だった。店主はとにかく面倒臭そうだった。


「まあ、女王が二人でもいいが。でも将来、女王が二人いたら国が揉めそう!?でも、そんな人生も面白いか!?で、どっち?どっち?本当に……どっちも!?」


「あーーーーーうるさい!!」


 店主は自分の食事ナプキンを取る。結んで、丸くした食事ナプキンを投げた。


――ポコンッ!


 傭兵王の頭に当たった!


「とにかく黙れ!デブヒゲ親父!!」


 若い側近たちはハラハラ、古くからの側近たちはゲラゲラ笑っていた。


「そう言えば、リリーが傭兵王に助けてもらったのはいつの事じゃ?」


 お嬢様は女戦士に尋ねる。


「ジャックのお父様が傭兵王になってすぐ、狩りをしていた傭兵王に助けてもらった。その時、城に連れて行ってもらった」


「その時、ジャックはいたのか?」


「そこでジャックにも会った。その時のジャックは……」


 女戦士は、お嬢様との話に盛り上がる。話しに夢中のお嬢様と女戦士を見てから店主は言った。


「そうそう、親父にいつか聞こうと思った事があった」


「なんだ!なんでも言ってみろ?」


「なんで、あの時、俺を殺さなかったんだ?」


 店主はさらりと言った。その言葉に、お嬢様が緊張した。女戦士も聞いていていた。


「どっちのだ?」


 傭兵王は思い当たる方を確認した。


「どっちもだ」


 店主の問いに傭兵王は遠い遠い目をした


「ああでは、まずはお前を拾った時の事から話そう。だが、その前にワシが信じているものは分かるか?」


「いや」


「ワシは、己の剣を信じる。あの時、剣を振って首を跳ねようとした。が、自分でも分からないのだが、なぜか剣が振れなかった」


「そんな事があるのか?」


 店主は驚いた。剣を極める先にそんな事もあるのかと思った。


「ああその時、剣の神がワシに、目の前の子どもを育てろ!と言ったのだと思った。そしてその瞬間、もしかしたらワシより強くなるかも!と思ったのだ」


「自分の子どもでもないのに?」


「ああ、子どもも居なかったから、まあ、いいかなっても思ったな」


「殺されるかも知れないのに?」


 本当に理解の外側にいる奴だ!と、店主は思った。


「殺されるなんて、その時は夢にも思ってもない。なんせ、ワシを殺せる奴などいないと思ってたからなあ」


「凄い自信だな。まあ、確かに殺せなかったが。でも、おかげでそれなりに強くはなれた」


「そうそう、お前を引き取る事には、あいつの方が何故か、俺より乗り気だんたんだよ。お母さんになれる!ってな」


「……」


 お母さんの一言に店主は黙った。


「そして、お前との日々は面白かった!母さんはクッキーを焼くのを楽しみにしてたよ。お前が唯一、来てくれるからって」


 そして傭兵王は優しい目のまま、遥か昔の風景を見ていた。




   もしも、あなたが居なくなっても


   もしも、わたしが居なくなっても




「そうだ!お前は、それなりに強くなったと言っていたが、そんな事はない!!今のお前を倒せる者など、居ようもないだろう。お前が最強の男だ」


「……」


 店主は黙って話を聞いた。


「さあ次ぎは、お母さんが事故で死んだ時の話だな」


「事故?」


「ああ、事故だ。ただのな。なるべくしてなったんだ」




   一緒に居た時の気持ちが


   あした、生きていく気持ちへと


   つながって行きますように




「俺が殺した」


「きっかけはそうかもしれんし、その通りだが……俺は責めん」


「……」


 傭兵王は店主をジッと見つめていた。


「大きくなったな、息子よ」


 そして傭兵王は言った、これが自分の最期の言葉と思って。


「まだ、怨んでいたら






 

 殺してもいいのだぞ」




   残った思い出が


   過ごした日々が


   辛いだけではなく


   やわらかく温かい


   心へと、つながって行きますように




 店主の目に涙があふれていた。








「そんな事……そんな事、する訳ないだろ?……








家族なんだから」


 王の目にも涙があふれていた。お互い不器用で、剣でしか世界を測れない二人だった。


 その後、王と店主は酒を酌み交わした。




「よかたいよかたい、ばってん酒が旨か!!あはははは!」


 その様子を見て女戦士が呟いた。


「ここは明るい、そして温かい。すごく嬉しい」


 笑顔になる。


「リリーの嬉しそうな顔を久しぶりに見たよ。以前は、いつだったかな?」


「~からだ」


「えっ?」


「ジャックが私に」


「えっつぃい!な事したから……だろ!?」


 投げる物がなくて、立ち上がる店主。


――パコッ!


「頼むから!王様の頭を殴らないで~!?」


「リリー!?」


「お父様、話のじゃま!!」


 傭兵王の頭を殴ったのは女戦士だった。ごめんごめんご~!と、傭兵王は言った。


「ジャックが私に半分、林檎をくれた。あの時、私は嬉しくて何度も思い出しては、胸がくすぐったくなった。あんなのは生まれて初めてだった。生きていて」


 女戦士の表情が崩れた。


「生きて……うぐっ、いて……本当に、ううっ……ジャックに会えて私……良かった!」


 しゃくり上げて泣いた。


 話はこうだった。傭兵王に助けてもらった後、村を救うために傭兵や冒険者たちが集められているのを聞いて行った。


 そこには、ちょうど城を飛び出した店主の姿もあった。そして村が危機にさらされた。


 その時、女戦士が狂戦士になった。


 でも、元に戻ると冒険者たちも村人も、誰も相手にしてくれなかった。その時、たった一人だけ、女戦士に気をかけてくれたのが店主だった。


 もちろん、女戦士を止めたのも店主だった。身を挺(てい)して助けてくれたのだ。


「そんな事もあったな。俺は親父を殺すのをやめ、そして城を出て傭兵を始めた頃だ」


 ふと女戦士は、お嬢様の視線を感じた。だから、お嬢さんに向かって言った。


「その後、色々と放浪をしていて時々、ジャックと隊を組んだ。そのうち、ジャックが店を始めたと聞いた」


「そうであったか」


「私はいつも一人だったけど、ジャックの林檎の事を思い出し、生きて…うぐっ…きたっ」


 また我慢できず、しゃくり上げている。そんな女戦士の背中をお嬢様はなで、そんな二人を店主は抱き締めた。


 その様子を、傭兵王と老執事は、目を見合わせ温かく見ていた。


 ひとしきり落ち着いた所で、老執事は言った。


「さあ、お食事も終わった事ですし、お嬢様!」


 老執事はニヤリとした。


「そうだ、リリー!」


 傭兵王もニヤリとした。老執事と傭兵王の二人は目を合わせ言った。


「「欲しいものは、自分の手で勝ち取れ!!」」


 その言葉を聞いて、お嬢様と女戦士が立ち上がった!


「そうなのじゃ!どっちが次期女王にふさわしいか勝負するのじゃ!さあ、剣を取れ、リリー!!」


 従者たちが、お嬢様と女戦士に刀と剣を渡す。その瞬間!




――――キラッ!!


 一瞬で現れた刃。音無く抜かれていた。


「おい、ロニー!城内で抜くな!!」


 店主は、お嬢様をロニーと呼んでいた。


「いいわよ!この私の最高の剣と剣術で、二度と立ち上がれないようにするわ」




――――シュー!!


 見えない黒い霧が立ち込める。


「おい!リリーも剣を抜くな!!しかも、魔剣にするな!!!」


 見えない黒い霧が女戦士を包む。それに対してお嬢様は、再び刀を鞘に納めると姿勢を低くし、『最速抜刀』の構えをした!!


「よかたい!よかたい!二人とも、心置きなくやり合え!!」


「おい!デブヒゲ親父!方言になるな!!てか、お前も止めろよ!お前の城だろ?王様だろ!?」


「だって次ぎの王様は、お前だよ~ん!早く、ジイジにしておくれ!!」


 老執事が叫んだ。


「お嬢様!お嬢様が勝ったら、帝国とは親戚国です!!これは国家最優先事項ですぞ!!」


 魔法使いが叫んだ。


「リリー頑張ってぇ!!人間とエルフの命運がかかっているわよ!!」


 槍使いが応援する。


「乾坤一擲でござる!!」


 僧侶は冗談を言う。


「時々ぃ!ラッキースケベぇを、狙うのよぉぉぉぉ!!」


 弓使いは爽やかに言った。


「どちらも、頑張って!!」


 大広間にて、みんながワーワーと盛り上がった!


「ジャックは私のもの。だから渡さない!!」


★女戦士

・黒のブラ、黒の紐パンツ


女戦士は、お嬢様に向かって叫んだ。




「なら、わらはの最強の剣を受けてみるのじゃ!!」


☆お嬢様

・黄色の紐パンツ




 そう言うと、お嬢様が女戦士との間合いを詰めた!


「だから!お嬢様っ!!」


 店主が叫ぶ!


「ジャック、なんじゃ!?」


――カチャ


 お嬢様はそう言って、鯉口(こいくち)を切った。


 店主は、お嬢様に改めて言った!


「だから……







最強の剣なんてねーよっ!!」


 店主の声を皮切りに今、二人の次期女王の戦いが始まった。


「勝つのは、わらはじゃーーー!!」


「私だーーー!!」








――――シャキン!!


最だら・完


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