第38話 ―最適の選択!?―

「私は、レ○プっ」


 お嬢様は目を見開いた!!


「ちょっと待ったリリー!!それ以上、言うではない!!!」


 お嬢様は慌てて、両手で女戦士の口をふさいだ。もう、胸が張り裂けそうだった。限界だった。聞いてはいられなかったのだ。


「わらはは……わらはだけが、生ぬるい所で、ぬくぬくと……」


 自分だけ、世間知らずで浅はかで、とても幼くて恥ずかしかった。


『もう、わらはは、わらはは……何も知ってはいないのじゃ!!』


 モゴモゴと、女戦士が何か言っていた。お嬢様は唇を強く強く噛み締めていた。


「おい!唇の脇から血が出てるぞ!」


 店主が、慌ててお嬢様の頬を両手で挟んだ。お嬢様の手が、女戦士の口からはずれた。


「ぷはー!わっ私は、レ○プされそうになった所を、ジャックのお父様に助けられたのだ!!」


 やっと、女戦士は言う事が出来た!それを聞いてさらに涙ぐむ、お嬢様。


「うぐっ、リリー、そなたも苦労したのじゃな……」


 そう言うお嬢様の唇の端から、ツーと血が流れて落ちた。


「ろっ、ロニー!早く手当てしないと!」


 店主が珍しく大慌てになっていた!


「ジャック、構うでない!」


 下を向くお嬢様。


「血が出てるって!」


 いつになく冷静ではない店主。


「……」


 それを女戦士は黙って見ていた。


「ほっとくのじゃ!」


 下を向きながら、お嬢様は淡々と言った。


「あっ!今、拭くものがない。えーと、袖だと、汚いしなあ」


 本当にテンパッている店主!


「そうだ!」

 

店主は、お嬢様に顔を寄せた。


「仕方ない」


 そう言うと店主は、お嬢様の頬を両手で挟んだまま、血が出ている唇の脇をジッと見ていたかと思うと……







ペロッ!


「わっ!なっ、何をするのじゃ!?///」


 お嬢様は、真っ赤になって大慌てになった。


「何って、なめたんだよ血!!」


 店主はメチャクチャ真剣だ!!


「あー!!今、わらはの唇が奪われたのじゃぞ!?」


 お嬢様の切ない悲鳴が上がる!!


「えっ!脇だからセーフだろ!?」


『あー!この鈍感、鈍感、鈍感!!』


 お嬢様はパニックだ!


――パコン!!


「なんかムカつく」


 その時、女戦士が剣の平で、店主の後頭部を叩いた。クリティカル・ヒットだった。そのまま店主は気を失った。


「リリー!やり過ぎじゃ!!」


 倒れた店主を見て、お嬢様は言った。


「安心してロニー、平らな所だから。東洋で言う所の……







 ミネ・アタックって、やつだから」


◇◇◇


 店主が目覚めると、そこは店の中だった。目の前には、お嬢様の顔があって、頭の下には太ももがあった。


 天井を見ながら店主は言った。


「あれ!なんでここに?」


 店主は、傭兵王の親父の事を話したまでは覚えているが、その後の記憶が無かった。


「大丈夫なのか?」


 お嬢様は心配した。気絶するくらいに頭を叩かれたのだから。あの時の、女戦士の表情と言ったら、鬼の形相だった。


「ああ。そういえば、俺が親父に引き取られた所まで、話したんだったな」


 そう言う店主の言葉に、お嬢様は話を思い出して、とても辛そうな顔をした。


「どうしてじゃ?どうして自分の家族を殺した相手に、そんな風にできるのじゃ!?」

 

 お嬢様には理解出来なかった。


「さあ、どうしてだろうな」


 店主は飄々(ひょうひょう)と言った。


「殺したくは無いのか?」


 お嬢様の目に涙がたまってきた。


「まあな。でも、解釈で『事実は変わる』事を学んだよ」


「解釈?」


 お嬢様は店主に言われた事で、少しだけ考えた。


「殺された事は、たんなる『事柄』だ。それをどう『解釈』するかで心が変わるんだ」


「でも、そんな事!」


 お嬢様は、心が変わる事が信じられなかった。


「どう『解釈』するか?大切な者を殺された『事』からの恨みのみと解釈か?相手の『理由』を知ってから考える?かだ」


「……」


 お嬢様は沈黙した。大好きな店主の事を理解したい!でも、さっぱり理解出来なかった。それはとても、悔しく悲しかった。


「俺の本当の親父は、人売りをやっていた。俺や妹には良い両親だった。でも、逆から考えれば、俺たちは『人売り』で、生きていた事になる」


「でも、それはジャックが知らなかった事じゃろ?」


 お嬢様は店主を責めたくはなかった。


「知る知らないは関係ない。身内を売られた側にとってはな。逆から考えれば、一族全員が殺されても仕方がない。だって復讐が、恐ろしいからな」


「……」


 また、お嬢様は沈黙した。どうにか店主を理解したい!それだけがお嬢様の気持ちだった。


「なあ……」


「何じゃ、ジャック?」


「もし俺が殺されたら……







 ロニーはどうする?」


 お嬢様は、ハッとした!そんな事は一度も、真剣に考えた事などなかったからだ。でも、気持ちのまま、お嬢様は即答する。


「わらはは、わらはは、そなたが殺されるなんて……考えるだけで、うぐっ…」


 お嬢様は絶えられずに、すぐ泣いた。


「かっ、考えるだけで……胸が張り裂けそうじゃ」


 しぼりだすように、お嬢様は答えた。


「なら、分かるだろ?やり返すならどうする?」


 店主の言葉に、お嬢様の目が怖くなる。


『ジャックが殺されたなら、わらはは……」


「もちろん全員を……」


 お嬢様は自分で言って気づき、ハッとした。


「だろ?そういう事だ」


 お嬢様は今、言った言葉を振り払う!


「でも、でも、居なくなっては困るのじゃ!!」


 お嬢様のその言い方に、店主は妹の事を思い浮かべていた。


『お兄ちゃん』


 と、心配する妹の姿が店主の目に浮かんだ。甘えん坊の可愛い妹。店主は目の前のお嬢様に視線を合わせた。


「ああ、ありがとな。大丈夫だ、今しばらくは居なくならないよ」


『ジャック!……』


――ギュッ!


「わっ!」


 お嬢様は、店主の頭を抱きしめた。そこへ二階から戻った女戦士が、その様子を目撃した!


『私の居ない間に!!』


 もう一度、ミネ・アタックを考える女戦士だった。


 そんな様子を、にこやかに老執事が見ていると、店のドアが開いた。


「すみません!こちらに、ジャック王子!!ジャック王子はいますか?……」


 店に入って来た男と、店主は目が合った。


「あっ!王子!!」


「お前は!!ヤベッ、やっぱ見つかったか!?」


 入って来た男は大喜びした!!


「もう!探しましたよ王子!!」


 ドアから入って来たのは、店主が傭兵王の元に居たとき、店主の護衛として側にいた王子付きの付き人の男だった。


「天空の塔に行ったなんて話、すぐに広まるだろうとは思っていたが、まさか!こんなに早くとは……」


 店主は残念な表情をしていた。


「国王様が会いたがっていますよ」


 その言葉にお嬢様は反応した。


「ジャックって、本当に王子様だったのじゃな!!」


 改めて、確認したお嬢様だった。


「そして、ここには居ない皆さんも!」


 付き人の男は、魔法使い、弓使いの事も知っていて、誘っているのだ。


店主はこの状況を見て、もう、こうなったら!と、覚悟を決めた。




「仕方ない!一度、みんなで国に挨拶に行こう!!」


 かくして店主は、女戦士にお嬢様、そして仲間一同を連れて……







 店主の父、傭兵王に会いに行くことにしたのだった。


【ステータス】


☆お嬢様

・現在、切れ味最強の剣(刀)

・細い紫色のリボン

・動きやすい服装(浅黄色のすそが少し長めの丸首、綿の長袖。ズボンも同じく浅黄色。肌はピンクのボタン止めのノースリーブ)

・堅い革ブーツ

・白の紐パンツ


★女戦士

・真っ直で長い黒髪をポーにーテール

・魔剣(力を使うと狂戦士)

・皮製の服

・革のブーツ

・黒の紐パンツ


つづく


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