第37話 ―最大の立ち位置!?―

――シャッ!


―シャ、シャンッ!!


 店主の店の裏庭で、いつものように剣のこすれ合う音がする。結局、謝恩会の後、お嬢様も店主の店に泊まるようになった。


「では、娘をたのむ」


 公爵からのお墨付きとあって、もはや、店主の店に住んでいると言っても過言でない、お嬢様。それは、女戦士も同じであったが。


 そうそう、槍使い、弓使い、魔法使いに僧侶の面々は……


「ぜひ!稽古をつけて頂きたい!!」


 との公爵のお言葉から、屋敷にて冒険好きの公爵の師範をしばらくやる事になった。まあ、特にやる事がないので、渡りに舟とばかりに、仲間たちは楽しんでいるようだった。


――シャッ!


―シャ、シャンッ!!


「そういえばじゃ!ジャックのお父様は、ご健在なのか?」


ピクッ


 お嬢様のその質問に、女戦士がわずかに反応する。


――シャッ!


 その隙を見て、店主が打ち込む!


 天空の塔から帰ってからは、お嬢様も腕をあげ、お嬢様、店主、女戦士での三つ巴(みつどもえ)の打ち合いも出来るようになっていた。


――シャキン!


 女戦士が受ける!


「俺の親父か?ああ、隣の国で傭兵王をやってるよ」


 嘘をついても仕方ないと思って、店主は正直に答えた。店主は間合いを取った。


「やってるよとは、ジャック!さらりと言うではない!!だったらジャックは、王子ではないか!?」


 お嬢様は、自分で言った瞬間。


『えっ!おっ、王子、様!?』


 と、思った。


――シュン!


 店主の突きが来た!


―シャキン!


 それを払うお嬢様。すぐに横に飛び、女戦士とも間合いを取った。まさに三つ巴!絶えず、周りを見ないとすぐに打ち込まれてしまう。


「お前、顔赤いぞ?大丈夫か!?」


 店主は下から斬ってきた。


――シャンッ!


 店主の剣を跳ね上げる、お嬢様。店主はすぐに対応し剣を構えなおした。


「じゃ、ジャックは本当に、王子様なのじゃな?」


「ああ、そうなるな」


 お嬢様はもう、限界だった!


『やっぱり、王子様なのじゃ!!』


「あー!もうなのじゃ!!」


――ポカポカポカ!


「イテテテテテ!!なんで、叩くんだよ!?」


 お嬢様は店主を叩いた。


 なんだか、分からない気持ちだった。その間、女戦士は剣を構えたまま、二人を待っていた。


「おいおい!剣を放り投げて、グーで叩くなよ!そういう練習は、まだ早い!!」


 そこに、見ていた老執事が会話に入った。


「実は遥か昔、わたくしめは、ジャック様のお父様と隊を組ませて頂いたことがあります。まさに鬼神のごとき剣撃でしたよ」


 お嬢様は老執事に振り返えった。


「なんと!そうなのか!?」


 うなずく老執事。


「私も、ジャックのお父様の事、知ってる」


「リリーもか!?」


『なんと!こんな身近に!?』


 お嬢様は世間の狭さに驚いていた。


「私も助けてもらった事がある。凄く強い人だった。最強の男、それが傭兵王だ」


 リリーはとても恩義を感じてるようだった。


「でも、今ではただの……デブヒゲ親父だけどな!」


 店主の冷たい一言。お嬢様は、何か納得いかなかった。


「でも、ジャックのお父様だし、ジャックは次の王様なのじゃろ?」


 なので、店主に尋ねてみた。


「いやいや俺には、親父のように国を治める力なんてない」


 そう言って、お嬢様に向けて店主は剣を構えた。


「そうは言ったってなのじゃ!」


「だから、この国に来て武器屋になったんだ!!」


 店主は面倒臭くなって、お嬢様に強く言った。

 

「とはいえ、最強の王なのじゃろ?どのぐらい強いのじゃ?ジャックのお父様は?」


 店主に強く言われ、でも、お嬢様は話したくて話を変えた。その時、女戦士が間に入った。


「その昔、この世界に『魔界の門』が現れた。その時、いち早く門に気づき開くのを止めようとしたのもが居た」


 女戦士は、お嬢様に昔話を始めた。


「それは数人の冒険者たちで、最強の戦士、元帝国軍楽騎士の吟遊詩人、稀代の魔法使い、最強のドワーフ、風使いのエルフだった」


◇◇◇


 決断の時が迫る。


 最強の戦士は悩んでいた。皆が戦士の声を待っているからだ!


「あと、もって半刻です……」


 稀代の魔法使いが、冷静に言った。その言葉と裏腹に、魔法使いの表情は険しい。大昔、星が落ちて出来たと言われる大きなくぼみの中に、見上げるほど大きな巨大な扉があった。魔法使いがかざした両手の向こうには、その巨大な扉があり、魔法での食い止めるには限界が近付いていた。


 その側で吟遊詩人は、魔法使いの労を労う詩を奏でた。元帝国軍楽騎士の彼女の歌声は、戦場で数千という兵士の心を癒し、士気を高揚させた。

吟遊詩人の歌声は、確かに魔法使いの心に届いていた。


「ぐぐぐっ」


 たわむ巨大な扉の隙間から、ドス黒い煙が漏れだした。そして漏れでた、ドス黒い煙が魔物の姿に変わった。


「බිත්තිය හුරුවී!!」


 風魔法の使い手エルフの女は仲間を守る為、呪文を唱えると精霊達で壁を作っていた。壁が魔物たちを抑えた。すると、戦士とドワーフが剣と斧で抑えた魔物を打ち倒した。


「しかし、魔界の門が本当にあったとは……」


 戦士は呟いた。戦士たち冒険者だけなら、魔法使いの魔法で、地の果てに逃げる事が出来た。だがしかしそれは、時間稼ぎにしかならないだろうと思っていた。


 魔界からの軍勢は、何千万とも何億とも分からなかった。そして、いつかは戦う事になるのだ。吟遊詩人は心配そうに戦士を見た。打ち下ろした戦斧を、また構えてドワーフは言った。


「俺たちのリーダーは、あんただ!あんたが決めてくれ」


 ドワーフの言葉に続けて、巨大な扉に両手を向けたまま魔法使いが言った。


「命は……とうに……預けていますっ!!」


 エルフの女も言った……


「精霊の身名(みな)において、貴方様との契約を守ります」


 吟遊詩人は唄いながら、戦士に優しく微笑み、うなずいた。




 今、戦うか?


 それとも、仲間と逃げるか?




「もはや限界です!」


 魔法使いが叫んだ!


 隙間だった扉が、少しづつ開き、得体の知れない何かが、その隙間から飛び出して来た!




 その時だった!


 幾万の矢が飛んで来たかと思うと、敵を次々と打ち倒していった。そして声がした。


「待たせなあ、貴様!!」


 振り返ると、くぼみのへりに立つ男がいた。それは戦士の宿敵、帝国の全軍を束ねる、万騎長(ばんきちょう)だった。そしてその後方には、数千万はいるだろう帝国兵の姿があった。


「今は話せる時はない!」


 万騎長は馬上から敬礼をし、戦士に言った。


「我が帝国は、ただ今を持って全軍、貴殿の指揮下に入る!」


 戦士は帝国が動いたのを知った。




―――ボコッ!


 左手に大穴が開いた!


「ホホ~イ!来ましたぜ、王様~!」


 それは、ドワーフの仲間達だった。出て来たドワーフの仲間達は、戦士の隣のドワーフに頭を下げた。


「王様、遅れてすいやせん!工期の関係で……」


「お前ら、遅いんじゃ!!」


 ドワーフは、こう見えても、地下ドワーフ帝国の王であり幾千万のドワーフ達を束ねていた。屈強のドワーフ達が、穴からワラワラと現われて、次々に得体の知れない者を打ち倒していく。


「人間の若造!早く指揮をとらんかっ!」


 ドワーフ達が叫んだ!!




 すると右手のからは……


「えっ、本当ですか!?」


 エルフは何かに気付いたようだ。エルフの目に涙がたまる。一陣の強い風が通り抜けると、扉から漏れ出た敵を一掃した!


 空に声が響いた……




「我が名は、エルフの王。今しばらく、そなた達に加勢する所存だ!」


 エルフの王を筆頭に、幾万のエルフたちが、魔法と弓を構えていた。


「お父様……」


「娘よ……よくよく立派に成長されたものよ」


 エルフの王が戦士を見下ろす。


「人間よ……礼を言うぞ、娘のこと大儀であった」


 エルフの軍勢が集まった。




―――――ギギギギッ!!!


 魔界の門が今、完全に開かれた!!


 生きて帰れる保証は、どこにも無い。


「皆に声をーーー!!!」


 万騎長が、戦士を用意した騎馬に乗せた。馬上より、戦士は剣を天に掲げ叫けんだ!!


「我が剣の元に集まりし者よ!







 今一度、我に命を預けん!!」


 一瞬の静寂……


「全軍、紡錘(ぼうすい)隊形をとり、突撃―――!!!!」


 戦士の指揮の下、地上の生きとし生きる者と、魔界の者との戦いが始まったのだ!


◇◇◇


「そして、多大な犠牲を出しながらも、魔界の門は閉じられた」


「その、最強の戦士というのが、もしかしたらじゃ?」


「そう、ジャックのお父様であり、傭兵国の王よ」


 そう言い終った女戦士の事を、老執事は懐かしそうに見つめていた。


「もしかしたら、一緒に居たのか?」


 お嬢様は、老執事を見た。


「ええ、その時に帝国の兵士として微力ながら、お手伝いをさせて頂きました」


 老執事はニコリとしながら言った。


「じゃあ、このまま休憩にするか!」


 そう言うと店主は、刀の調整の為に店に入っていった。


「ジャックは次期、国王であるか?」


 どうしても気になる、お嬢様は女戦士に尋ねた。


「そうとは限らないわ。ジャックのお父様は、変な人だし、それに」


「それに、なんじゃ?」

 

 お嬢様は、剣を鞘にしまった。


「だって、ジャック。お父様とは、血はつながってないから」


「なんとっ!?」


 お嬢様は驚いた!


「だって、ジャック。拾われたから」


 そう言うと女戦士は裏庭にある切り株に、お嬢様と座りながら、ジャックの話を始めたのだった。


「ジャックのお父様が、まだ傭兵だった頃、ある大規模商隊を襲ったのよ」

 

 そう話す、女戦士の長い黒髪がサラサラと風に揺れた。


「その商隊のオーナーが、ジャックの本当の父親で、その時のジャックは12歳の少年だった」


 お嬢様は、ゴクンと唾を飲んだ。


「という事は、ジャックは……」


 お嬢様はすぐに理解が出来なかった。


「ジャックのお父様は二人いるという事か!?」


 それが、お嬢様の理解できた事だった。




「ああ、覚えているよ」


 そこにジャックが戻って来た。


「ジャック!?」


 お嬢様はビックリした。


「その夜、傭兵王の親父が俺の……」


 店主も、切り株に腰を下ろした。


「俺の本当の親父とお袋と妹を、目の前で殺したんだ」


 店主はそう言った。


「本当なのかっ!?」


 驚きの余り、お嬢様はジャックの両そでをつかんだ。


「ああ、だけど変でな。俺は、淡々とその風景を見ていたんだ。本当の両親や妹が殺されて、ただ」


「ただ、なんじゃ?」


 お嬢様は、泣きそうな顔で店主に尋ねた。


「その辺にあった棒を持って、傭兵の親父に向かって構えたんだ。殺してやろうって」


 もう、お嬢様は訳が分からなかった。だた店主が、家族を殺され、その復讐をしよとしたのは分かった。


『自分の家族じゃと!?』


「うっ!」


 お嬢様は自分の口を押さえた。もの凄いショックがお嬢様を襲っていた。まだ、13歳の少女には辛い話だったのかもしれない。


「大丈夫か?」


 お嬢様は気づくと、ジャックに背中をさすられていた。でもつい、恥ずかしくなって、ジャックから離れ立ち上がった。涙が出ていた。


「そして、傭兵の親父に棒を振り降ろしたら、その瞬間。俺の棒は傭兵の親父の剣で、真っ二つになったよ」


「そっ、それでどうなったのじゃ?」


 鼻をすすりながら、お嬢様は聞いた。それは、自分が聞いた以上の責任と思っていたからだった。


「ほんの一瞬の判断だったんだ。切られて短くなった棒の先は、斜めになっていて、これは刺せると思ったんだ。だから、すぐに刺した」


「刺さったのか!?」


「ああ、振り降ろし、切られた瞬間に、尖った先を相手に刺し立てたんだ」


 お嬢様は目を細めた。


「棒は膝の内側の、鎖かたびらに刺さった。少しは体に刺さったようで、抜くと先に血がわずかについていた。その血を見てたら、気づくと俺の首の横に剣があり、傭兵の親父が……」


「どうしたのじゃ!?」


 殺される!と、お嬢様は思った。今、ここに店主がいるのだが。


「お前凄いな!良くやった!!俺の体に傷をつけた者は、この10年居ない!って……笑ってた」


「よっ、良かったの…うぐっ…じゃ」


 お嬢様は安堵し、涙をポロポロ流しながら、ジャックの胸に抱き付いた。


「そして、いつでも俺を殺しにこい!!って、こっちが気持ちいいほどの、大笑いをしてた」


 店主を見ると泣いていた。上を向いた店主の頬に、お嬢様と同じように、ポロポロ涙が流れていた。


「それから傭兵の親父は驚いた事に、俺を引き取り育てたんだ。それから毎日、親父を殺そうとしているうちに……剣術を自然と親父に教わってしまった」


 お嬢様は上を向いている店主の涙を、頬に受けた。涙は温かだった。


 すると、女戦士がしゃべり出した!


「私は、レ○プっ」


「ちょっと待ったリリー!!それ以上、言うではない!!!」


 お嬢様は大慌てで、女戦士の口を押さえ止めたのだった!!


【ステータス】


☆お嬢様

・現在、切れ味最強の剣(刀)

・細い紫色のリボン

・動きやすい服装(浅黄色のすそが少し長めの丸首、綿の長袖。ズボンも同じく浅黄色。肌はピンクのボタン止めのノースリーブ)

・堅い革ブーツ

・白の紐パンツ


★女戦士

・真っ直で長い黒髪をポーニーテール

・魔剣(力を使うと狂戦士)

・皮製の服

・革のブーツ

・黒の紐パンツ


つづく


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