第9話 ―最高のお祭!?―

「すすす、すごい!凄いのじゃ!!」


 馬車から見える大通りに、ずらっと屋台が並ぶ。その風景に、お嬢様は目をキラキラさせていた。


 馬車からは先に、老執事が降り警護を始めた。続いて静かに、でもソワソワしながら、お嬢様が降りた。そして店主は降りるとその瞬間、店主の目が八方眼(はっぽうがん)になった。


――ゾワッ!!


 鳥が飛び立った。視線を感じとり、目が合った者たちが、ビクッと複数動いた。


「今、反応した中に警護の者はいたか?」


 店主がつぶやいた。


「はい、『探索』に反応しないよう訓練してますが、何名かが反応しました。お恥ずかしい限りです。あとで注意しておきます」


 老執事は反応した警護の位置を店主に伝えた。


「でもまあ、お手柔らかに!では、絶えず探索してるから、反応した奴や不審な動きをマークしよう」


「分かりました」


 店主と老執事は簡単な打ち合わせを終えた。それから三人は大通りに入っていった。前に店主、そしてお嬢様、後ろの老執事の順で歩いた。横に並ぶ時もあった。


 その時は、お嬢様の右に店主が立った。それは老執事との暗黙の了解だった。


 つまり店主は右に剣を差しているからだ。それは鞘が警護対象者の側にある場合、抜くときに動かれると、誤って切る事があるからだ。なので、店主は右側に立った。


「美味しそうなのじゃ!!」


 お嬢様の口からヨダレが出ていた。それを見た店主がすぐに言った。


「親父!三本くれ。持ち帰りで」


「嬉しいのじゃ!!」


 お嬢様の目が、やった~!!と開く。八重歯がキラリと光った!


「いいのか?本当にいいのか!?」


 お嬢様はとにかく夢心地だった。


「ああ、だってお祭りだもんな」


 お嬢様に向かって店主は言った。


「お客さんたちはミッド・イーストから来たのかい?」


 三人の姿に焼き鳥屋が言った。


「ああ、そうだ」


「はいよ!焼き鳥」


 店主は焼き鳥屋に向かって、ニッコリすると、焼き鳥を受け取った。


「あはぁっ!!」


 店主が持つ焼き鳥が入った袋に、お嬢様の目が釘付けになっていた。


「さあて、どんどん店を回ろう!」


 その言葉に、お嬢様が反応する。


「なにっ!食べないのか!?」


 ツインテールが、シュンとなった。


「おいおい!」


 店主は、ため息をついた。そして、お嬢様の耳元で呟いた。


「なあ、毒が入ってたらどうするんだ?」


 はた目から見たら、二人はキスしているように見えたが、言われた言葉は文字通り毒々しかった。


『浮かれすぎじゃ』


 お嬢様は店主の言葉に冷や水を浴びた気がした。自分の置かれている立場を思い出し猛省した。


『そうなのじゃ。いくらお祭りに来られたからと行って、浮かれすぎてはいけないのじゃ。わらはにもしもの事があったら皆の者は……』


―――パシンッ!!


 お嬢様は両手で、自分の顔を平手打ちした。


「すまぬのじゃ!」


 お嬢様は気持ちを入れ替えた!

 

 祭りの屋台はたくさんあった。焼き肉、クレープ、射的、くじ引き!と、様々な店が何十軒とあり、人も沢山いた。


「わあ、わあ、わあ!!」


 お嬢様は涙が出そうな位、喜んでいた。いや、本当に嬉し涙を浮かべていた。そして、歩いていると、急に立ち止まった。


「どうした?」


 店主が振りかって、お嬢様に聞くと、お嬢様は店主の腕にしがみついた。


「あっ、ありがとなのじゃ」


 店主の胸に顔をうずめるお嬢様。


『わらはのわがままの為に、どれだけ……』


 するとお嬢様は。涙をこぼすまいと上を向き、目に涙をためていた。その姿を見た店主は、お嬢様の頭に手をやった。


「生きてたら……」


 店主の目に在りし日の姿が、お嬢様と重なった。




――お祭り行ける?


 目に涙をため、下から見上げる小さな瞳。遠い日の記憶。




「何か申したか?」


『生きていたら、このくらいか』


 と、店主は目を細め、お嬢様を優しく見ていた。




「生きてたら、嬉しい事あるよな!!」


 店主はとっさに誤魔化した。


 その時だった。


「おい!バカ野郎!!」


 怒鳴り声が通りに響いた。振り向くと目の前で男の子が、剣を腰にした柄の悪そうな男たちに囲まれていた。


「どうしてくれんだよ!汚れちまったじゃねえか!!」


 見ると、一人の男の服にクレープのクリームがついていた。


「だって、そっちが当たって」


 男の子は言い返した。


「何だと!言いがかりをつけるのか!?いい度胸だ!!」


 そう言うと男は剣の柄を握りしめ抜いた。その瞬間!


――カキンッ!!


「ダメなのじゃ!」


 お嬢様の剣が飛び出していた。参った!という顔の老執事。でも店主はその様子を面白がって、ニヤニヤしていた。


「何だ!お前?」


 お嬢様を見た男たちは、その側にいる店主と老執事を見て、ビビッてはいたが、引き下がれずにもいた。


「お前らには関係ないだろ!?」


 男に言われすぐに老執事が間に入った。


「その通りでございます。連れの突然の失礼、お詫び申し上げます。つきましてはこれにて、どうかお許しを」

 

 老執事は歩みより、周りに見えぬよう男に銀貨を一枚渡した。


「おっ、おう!」


 男は銀貨というそれなりの金が手に入り、驚いていた。そしてそれでお開きとなった。


「大丈夫であるか?」


 お嬢様は男の子に言った。


「うん……ううっ、うわああああん」


 男の子は我慢しきれずに泣きだした。そこに男の子の男親がやって来た。


「うちの息子が、何か!?」


 なので事の始終を老執事が伝えると……


「申し訳ありません!大変助かりました」


 と、頭をさげられ、さんざんお礼を言われた。それでも男親はお礼がしたくてこう言った。

 

「そこでお店をやっていますので是非とも来て下さい!」


 と、老執事の手を引き、一同を自分の店まで引き連れて行った。


「ここです!ここがお店です」


 そこはアクセサリー屋だった。店の外にまでアクセサリーが飾られていた。


「綺麗なのじゃ!!」


 お嬢様は興味深々だ。


「どうぞ、お好きなアクセサリーを、お選び下さい!」


「よいのか!?」


 男親に言われると、お嬢様の目がキラキラになった。そこに男の子が来て言った。


「とおちゃん、この二人、道でキスしてた」


 と、男の子。


「「ちっ違っ!!」」


 お嬢様と店主はハモッた。


「それでは、ペアの物を!!」


「いやいらない」


 即!店主は断った。マジで勘弁!と思った。


「えへへへ~、ダメなのじゃぁ、もらえぬのじゃぁ///」


 お嬢様は結構嬉しそうに、一応は断った。


「お客様は?」


 と、男親は老執事にも聞いた。


「では、妻に」


「「妻ぁ!!」」


 店主とお嬢様の声がまた、店内にハモって響いた。その後、男親のお礼がしたい!との、お願いから、仕方なしに?お嬢様と店主は、アクセサリーを選ぶ事になった。


「リングが素敵なのじゃ!」

 

「ダメだ」


「この腕輪もなよいのじゃ!」


「ダメダメだ!」


「では、ペンダントならどうじゃ!」


「もちろんダメに決まってんだろ?」


「では、なんならいいのじゃ!!」


「ペアでなければな!!」


 お嬢様と店主の言い合いは続く。


「しかし、『店の者』が、ペアで!と、申しておるのだぞ!?」


 お嬢様の言葉を聞いた男親が、ニッコリとして言った。


「もちろん他にない、お二人様だけの特別製にさせて頂きます!!」


 それを聞いて店主が悲鳴を上げる!


「かっ、勘弁してくれ~!!」


 結局、お礼にもらったのは、お揃いのキーホルダーになった。


◇◇◇


 屋敷にて、お嬢様はホクホク顔だった。買った食べ物は、警護の者たちが毒見をした上で……







「冷めても、美味しいのじゃ!!」


 お嬢様が美味しく頂いたのだった。


【ステータス】


☆お嬢様

・測定用両手持ち剣(柄赤-中-太=重心柄、重さ中、柄太め)

・頭にターバン(半ヘルメット)鉄板入りマント、首に布、生成りのダボダボの服、鎖からびら、隠密ブーツ、肌着は薄青のボタン止めのノースリーブ)

・テンション高く!黄色のパンティ!!

・『抜刀』が出来た!

・二人だけのペアキーホルダー


つづく



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