第8話 ―最強の警備!?―

「今朝は遅かったな?」


 店内のカウンターで剣の手入れをしている店主は、ドアから入って来たお嬢様に言った。


 金髪のツインテールは今日も艶(つや)やかだ。薄い黄色のカッターシャツに、青い綿の八分ズボン。靴下も薄い黄色だった。


「すまぬ、待たせたのじゃ!」


 細いリボンと同じ色の、足首が少し隠れる柔らかな革靴は明るい茶色で、今までよりも深く、踏み込みしやすそうだった。


「道が凄く混んでいて、馬車が通れなかったのじゃ!今日は何かあったのか?」

 

 そう言う、お嬢様に店主は、えっ!?と、思いつつ答えた。


「まあ、今日は祭りだからな」


「なにっ!祭り?本当なのか!?」


 店主のなにげない一言に、お嬢様はカウンターから身を乗り出して店主に聞いた。


「えっ!?」


 お嬢様の凄い反応に店主は改めて驚いた。


『お嬢様は、マジで知らないのか?』


 と、店主の目が老執事を見ると、こりゃまずい!とばかりに老執事は、スッと目をそらした。なので店主はこれ以上、この話をする事をやめた。


 それからは、いつものごとく裏庭に行った。


「ふんっ!はっ!!」 


「声はいいな」 


 だがしかし、その日のお嬢様は稽古に身が入らないようだった。どこか、心ここにあらず!といった感じだった。


「どうしたんだ?体調が悪いのか?」


 ツインテールも踊る気配はない。


「大丈夫なのじゃ!」


 お嬢様はそう言って剣を改めて握り直すが精彩さに欠け、せっかくの服装も色あせて見えた。


「でも、もうやめよう」


 そう言って店主は剣を置いた。怒ってはいなかった。むしろ、『お年頃』のお嬢様の体調を心配していたのだ。


「すまんのじゃ」


 お嬢様は素直に詫びた。


『ああ、もう気になってしかたないのじゃ!』


 そして、お嬢様は静かに剣を鞘にしまうと、ふせ目がちに恐る恐る、店主に尋ねた。


「笑わないで聞いてくれるか?」


「ああ」


 店主は優しく答えた。


『やっぱり、体調が良くないんだな。月のものか?』


 と、店主は思ってた。


「わっ、わらははその……その……オマツリ……」


 言ったら怒られる!そんな今にも泣き出しそうな、消え入りそうな、そんな切実な言い方だった。 だから店主はさらに優しく言った。


「どうした?」


 お嬢様は店主のとても優しい言い方に、意を決して言った。


「おっ、お祭りに行ってみたいのじゃ!!」


 その言葉に店主は、ふと遠い日の記憶が呼び起こされた。




――お祭り一緒に行ける?


 目に涙をため、下から見上げる小さな瞳。


「うっ」


 急に目頭が熱くなった店主は、自分にビックリした。


――ぃちゃん、お祭り一緒に行ける?


 記憶の奥底から、声が、声が聞こえた。




「お祭りに……行ってみたいのじゃ」


 目の前にいる、お嬢様と記憶の中の小さな姿が、重なった。


 気づくと店主は……


「お祭り、行こう」


 と、思わず言っていた。


 が、その時だった。


「なりませぬ!そればかりは、なりませぬぞ!」


 老執事のカイゼル髭がピンと伸びた!そして、老執事に猛烈に反対されのた。それは今までの物静かな姿からは想像出来ないような、あまりの剣幕だったので店主はとても驚いた。


「どうしてだ?警護なら、隠れてる奴らで十分だろ?」


 店主はそれで十分すぎると考えていた。


「いえいえ!それだけでは、不十分過ぎます!!」


 その言葉にさらに店主は驚いた!


「おいおい!一体全体、どこぞのお嬢様なんだ?実は、お嬢様ならぬ、お姫様なのか!?」


 店主が冗談で言うと、その場が凍りついた。お嬢様は非常に困った表情をしていた。老執事は下を向いて目を合わそうとはしなかった。


『おいおい!マジか!?やっぱりなんかあるのか?この、お嬢様には!?』


 その様子を見て、店主はそれ以上の追及は面倒な事になりそうなのでやめた。


「う~ん!」


 しばし、店主は考え込んだ。そして、店主は言った。


「分かった!」


 その一言に、お嬢様は目を伏せた。


『ああ、やはり行く事など、夢叶わぬか』


 と、お嬢様は思った。しかし、その時だった。


「俺が、『最強』の警護装備で警護する!!」


 と、店主は言って、お嬢様に向かって親指を立てながら、二ッ!と笑った。


「ぷっ!」


 そのワザとらしい『最強』という店主の言い方に、お嬢様はつい笑ってしまった。


「そうですか」


 老執事は、その店主の覚悟を見ていつも通りの、にこやかな表情を浮かべ動き出した。


「では、わたくしめにも出かける用意がございます」


 老執事は馬車へ向かっていった。そして全員の『お着替え』が始まった。


 しばらくして店内に、店主と老執事が二人が横ならびに並んだ。すると、お互いを見て苦笑した。


「なんだ、気が合うな!」


 店主が、ニッと笑う。


「まことですな!」


 老執事はにこやかに笑っていた。店主と老執事は同じ格好をしていた。


 頭に白いターバン。首に白い布。ダボダボの足首までの長袖の服。その上に厚手のマントを羽織っていた。


 マントに隠れているが、ダボダボの服の腰には剣。背中には盾と予備の剣も装備していた。老執事は剣を左に差していたので、店主はその場で右に剣を差しかえた。


「そのマントの素材は?」


「帆布(はんぷ)でございます。そちらは?」


「奇遇だ!同じだ」


 二人とも、ニヤニヤしている。


 お互いダボダボの服の下には、プレートメイルを着こんでいた。金属が触れ合う所には、音がしないよう革が当てられていた。


 ターバンの下は、半ヘルメット。 首にまいた布は、首元から鎧が見えないようにだ。


 金属のブーツの表面には薄い革が貼られていて、普通のブーツのように見えた。まさに隠密用だ。


「まあ、これで爆薬を使われても俺たちで、『お嬢様』は守れるだろ?」


「そうでありますな!」


「「アハハハ!」」


 と、店主と老執事の気持ちの良い笑い声が響いた。そんな覚悟の入った重装備だった。

 

 まさに最強の警護装備だった!


 するとその笑い声と合わせたかのように、これまた『お着替え』したお嬢様が現れた。お嬢様も頭にターバン、そしてダボダボの服と似た格好をしていた。もちろんいざという時に備えて、剣を持たせていた。


 お嬢様には、首から下の手首足首までの鎖かたびらを着せている。違うのはマントで、顔が隠れる鉄板入りの襟(えり)の高いマントだった。


「なっ、お嬢様!防具着けると重いだろ?」


 店主がイジワルそうに言った。


「あっ、足が重いぞ。肩が重い、首が、首が……」


 お嬢様は、眉毛を八の字にしていた。でも、祭りに行けるとあって、とても表情は明るかった。


「警護の奴らに伝えて欲しい。まあ、訓練はされているかと思うが、八方眼(はっぽうがん)で探索する時に反応しないでくれって。なるべく普通にして欲しいと」


「八方眼ですか!承知しました」


 老執事は答えた。


「八方眼とはなんじゃ?」


「全ての周囲の見たり、気配を感じる事だ。また目も、どの角度からでも見られているような眼になるんだ。そうそう、もし『見つけられた!』って思ったらどうなると思う?」


 お嬢様に店主は尋ねた。


「わらはなら驚くであろうな!」


「そういう事だ!!気配を消しているはずの警護の者が、つい驚いた!!で気配が分かったらでは困るだろ?」


「なるほどなのじゃ!」


「それに、これも八方眼の力なのだと思うが、不審な者だけ色が違って見えるんだ」


「本当なのか!?」


 お嬢様はとても驚いていた。


「では、お嬢様!」


 お嬢様喜びに、無意識に店主も楽しくなってしまったのだろう。


「祭りに行こう!!」


 店主はつい、お嬢様の手を取ってしまっていた。


「きゃっ!///」


 そして、お嬢様の嬉しい悲鳴が店内に響いたのだった。


【ステータス】


☆お嬢様

・測定用両手持ち剣(柄赤-中-太=重心柄、重さ中、柄太め)

・頭にターバン(半ヘルメット)鉄板入りマント、首に布、生成りのダボダボの服、鎖からびら、隠密ブーツ、肌着は薄青のボタン止めのノースリーブ)

・テンション高く!薄青から黄色のパンティに替えた!!


つづく

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