第7話 ―最速の抜刀!?―
「じゃあ今日は、剣術の基本の最後として『抜刀術(ばっとうじゅつ)』を教える」
裏庭にて、お嬢様は店主の言葉にコクリとうなずいた。続けて店主は話した。
「とは言え、これは東洋の『イアイ』と言う剣術の一つだ。本来は東洋の曲がった剣だからこその、最速の抜刀術なんだが」
「では、出来ないのか?」
お嬢様は、昨日の服装を誉められたのが嬉しかったのか、今日も同じ組み合わせの服装だった。もちろん新しい物だが。でも、見えない所はちゃんと替えていた。
「いや、やり方は同じだから剣対剣なら、抜刀術を極めれば最速の打ち込みが出来るようになる!が、それだけではない」
「それだけでないとは?」
店主の含みのある言い方に、お嬢様は質問した。
「ああ、それは……人間は、自分の出せる速度なら、目で追えるようになるからさ」
「目で追える?」
「そうだ。人間は自分の体で体験した速度を持って、周りの速度を測っているんだ。剣の速度、槍の速度、弓矢の速度と、自分の中に元となる速度がまずあり、それに反応出来る体を養えば、対応する事もたやすいのだ」
「本当なのか!?」
「ああ、そしてそれは今、まさにお嬢様の年齢が、一番の習得時期なんだ」
店主に言われて、お嬢様は自分にも出来るような気がした。
「なら、早く教えるのじゃ!!」
「では説明する。抜刀術には『抜刀』と、さらに『鞘抜(さやぬ)き』があるが……では問題だ!剣と鞘はどっちが重い?」
「なあ、わらはを馬鹿にしておるのか?そんなの剣に決まって……」
と、言った瞬間、お嬢様は何かに気づいた!
「あっ分かったぞ!もしかして、『鞘』の方を抜く事なのか!?」
「よく気づいたな!!重い剣はそのままで、軽い鞘の方こそ抜けば、それだけで最速だ」
「そうだと思ったのじゃ!!」
お嬢様は腰に手をやり、ちょっと偉そうにした。そして、イシシシ!と、笑う顔に八重歯が光った。
「だから、『鞘抜き』なんだ。刃が全部出てから手首を返し、その勢いで引いて斬りつけるんだ!!」
「その通りじゃ!分かって当たり前なのじゃ!!」
得意満面に威張って言った。店主に、まさか誉められるとは思ってなかったお嬢様は、ビックリし嬉しくなったが、嬉しさは一所懸命に隠していた。
「さらに『鞘抜き』には利点があるんだ。剣を鞘から抜くと、剣を抜く動作が丸見えだが、剣の柄だけを見せておいて」
「分かったぞ!その時に、鞘の方だけを抜くということか!!」
「大正解!お前、よく分かったな!!そして、慣れたら鞘と剣を同時に抜くと」
「もっと速くなる!!」
店主は自分でも気づかぬうちに、お嬢様をお前と呼んでいた。
「そうだ!えらいぞ!!」
「えへっ!」
お嬢様は満面の笑みで、ニッコリしてしまった。
『しまった!子どもっぽかったのじゃ!!』
お嬢様は、しまった!!と、いう表情をしていたが、その様子を老執事はニコニコと見ていてた。
「ちなみに、イアイとは座るという意味らしいぞ!」
「どうやって、座って戦うのじゃ?」
お嬢様は驚いた!
「あんがい座ってやる方法を考えていたら、鞘を抜くほうが早い!と、思いついたのかも知れないぞ!?」
「なるほど!そうであったか!!すごいのじゃ、そうかもしれんのじゃ!!」
お嬢様は目をキラキラさせて店主を見た。もはや、嬉しさは隠せてはいなかった。
「あと『鞘走(さやばし)り』って応用もあり、鞘で剣をこすり上げるよう、抜きながら跳ね上げる事で、剣の抜刀速度を上げる技もある」
店主は言ったあとで、しまった!と、思っていた。
『これ、奥義だったな!でも、まあいいか。出来る訳ではないしな』
とも、思っていた。
「なにっ!鞘で剣を跳ねあげたら、鞘が壊れるでわないか!!と、いうか跳ね上げるだけでは速くはならんだろう?」
「なあ、筒に小石を入れて、思い切り振ったらどうなる?もし、それが棒なら?」
「なるほど、そういう理屈か!!」
「まあな、でもこれこそ東洋の剣だからこそ生まれた技だろう。カタナを覚えてるか?」
店主は言葉を続けていった。
「あの片刃の剣の事か」
「刃のない方を、峰(みね)と言うんだが……実際に持ってきてやって見せよう」
店主は店から刀を持ってきた。
「まずは『鞘抜き』だ。カタナの刃は上にして腰に差す。握り方は、手首を返して構えるために刃に対して横から柄を握る」
お嬢様はうなずく。
「だからカタナの刃は、上から出てくる!なので顎(あご)を切らないように注意するんだ。この時、普通の剣のように鍔(つば)近くまで腰に差している状態から、後ろへ鞘を抜く技と……」
店主は、鞘を腰に深く差す。
「カタナの刃の長さ分、鞘ごとを前に出しておいてから鞘を抜く技の二つがあるんだ。今はその中間をやる。ゆっくり行くぞ」
「分かったのじゃ!」
「鞘で抜く速度と、同じ速度で出せるタイミングでカタナを抜く。このカタナでは、刃が2/3出た所がそうだ」
店主は抜刀を、ゆっくりとやって見せた。ゆっくりと抜かれた刃は、微動だにしない。
「では、いくぞ!」
店主は刀を鞘に納めた。そして抜いた。
――スッ!
音もなく抜かれた刀。
「速いのじゃ!!」
お嬢様はその速さに驚いていた。
「そうか、では『鞘走り』を見せる」
「もっと速いのか!?」
「ああ、まずはゆっくりやるぞ」
お嬢様はしっかりと見ていた。
「基本は『鞘抜き』と同じだが、鞘でカタナの峰をこするようにして跳ね上げるんだ!そして、持ったカタナの柄を手首を返しながら引くと」
「さらにと速くなるという事か!」
お嬢様の目が輝いた。
「そうだ!片刃だからこそ鞘で跳ね上げても、峰で鞘が切れず壊れない。両刃なら鞘を切って壊してしまうし、刃がつぶれてしまう」
「なるほど!」
「だから、しょっちゅうは使えない。が、少しでも速く抜かないといけない状況もあるから、覚えていても損はないだろう」
そう言って、『鞘抜き』『鞘走り』のやり方をもう一度、ゆっくりと見せた後、改めて店主は『鞘走り』を見せた。
「行くぞ」
―パッ!
「いつ剣を抜いたのじゃ!?」
シャッ!という、鞘が跳ね上げた音が後から聞こえた!と、お嬢様が感じるほど、目の前に突如として刀が現れた。
「後ろに壁がある状況、例えばダンジョンなど狭くて、『鞘抜き』『鞘走り』が出来ない時もある。だから気をつけなければならないが、まあ今は腰に吊った鞘から、剣を抜いて出すだけの『抜刀』を覚えろ。あとはとにかく音出すな!意識するだけで、剣の中心がつかめるようになり、それも正中心への道となる」
お嬢様は自分でもやってみたくて、無意識に自分の剣の柄に手をかけていた。
「さて、剣でのやり方に移ろう。剣は、上から柄を握り、抜くと同時に、下から剣を回して出すんだ。これだと、左右からの急な打ち込みにも対応できる」
お嬢様も、言われたように実際に剣を抜いた。
「なぜカタナとは抜き方が違うのじゃ?」
「片刃と両刃の違い。剣が真っ直ぐか曲がってるかの違い。そして、重さと握り方の違いさ」
「どういう事じゃ?」
「カタナは片刃なので刃が下向きでは、刃の向きを変えなくてはならないのだろ?」
「なるほど!刃が下向きから抜いたのでは、上に行った刃を、また下向きに変えて振り落とさなければならないのじゃな!!では、剣はカタナのようには抜けぬのか?」
「抜けるが、カタナよりも倍以上重い剣を手首の返しだけで構えるのは遅くなる。カタナは曲がっているからこそ、あの速さで抜ける!まあ、やってみれば分かるさ」
店主は、お嬢様に刀を渡した。お嬢様は刀を受け取ると、刃を上向きにし腰に差した。そしてゆっくりと抜刀した。そして次に、下向きを試した。
「おお!なるほどなのじゃ!カタナは上向きが抜きやすいのじゃ!!」
お嬢様は次に剣を腰にして、カタナのように手首の返しを使い抜いてみた。
「おっ!重いのじゃ」
「まあ、レイピアのような細い剣なら手首の返しで抜けるがな」
「剣によって抜き方が色々なのじゃな!!」
お嬢様は理解したようだ。
「さて剣の抜刀に戻ろう。剣をを下向きから抜いたら、そのまま剣先を先に伸ばしていき、最後に手首をひねると、構えの出来上がりだ。握りを見てみろ、柄を真っ直ぐに握ってるだろ?剣はこれが一番、力が入るんだ」
「本当なのじゃ!カタナとは違うのじゃ!!」
「ここまで片手で出来れば、盾が持てるようになる」
「剣を抜くのにもコツがいるのだな!」
「その通りだ!そして、相手の首を跳ね飛ばせるのが、鞘を横に寝かせての『横抜刀』だ。とにかく『抜刀』は、やればやるだけ剣先が安定する」
お嬢様は、真剣な表情で横抜刀をしていた。
「すると相手に対して、最速で切りかかれる間合が分かり、自分への絶大な自信になるぞ!」
「分かったのじゃ!」
「まあ、剣で『鞘走り』をせずに早く抜くなら、カタナでもやったていたように、ヘソの前で『鞘抜き』で抜き、返しの時に腰に向かって剣を引くと剣が素早く立つ。この『返し引き』なら、重い剣でもすぐに剣先を構えられるから練習してくれ」
「パッと、カタナが出たあれか!!色々と共通する事が多いのじゃな!!」
店主に習った『抜刀』の技術を、お嬢様はひたすら繰り返した。
――シュンッ!
―カチン
自分の最速を探して……
――シュンッ!
―カチン
と。
【ステータス】
☆お嬢様
・測定用両手持ち剣(柄赤-中-太=重心柄、重さ中、柄太め)
・リボンは、細い紫色
・動きやすい服装(浅黄色のすそが少し長めの丸首、綿の長袖。ズボンも同じく浅黄色。肌はピンクのボタン止めのノースリーブ)
・靴(茶のカモシン)
・紫色の靴下(くるぶし隠れる綿のメリヤス編み)
・『抜刀』『鞘抜き』『鞘走り』を知る
・テンション高く!黄色のパンティ
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます