第5話 ―最大の防御!?―
「では今日は、基本的な剣術を教える」
「待ってたのじゃ!」
お嬢様は、今日もちゃんと動きやすい服装で裏庭にいた。
『剣術とはいっても、これで図に乗られても困るから、しっかりといっておくか』
店主はそう思った。
「いくつか教えるが、あくまで適正をみる為の基本の剣術だ。他にも色んな技があるが、知りたければ、どこかの剣術指南所に教わりにいけ」
店主は冷たく言った。
「分かったのじゃ。では、早く基本を教えるのだ!」
が、お嬢様は気にしていなかった。
『おっ!いい感じだな。これなら大丈夫か!!では……』
店主は基本の話を始めた。
「まあ、急かすな。その前に剣の握り方だ。両手の場合、鍔(つば)近くを利き手で握る。お嬢様の場合は右手だな」
「こうか」
「左手は、柄の端近くを握る。そうだ、その位置だ!大事な事は、握った拳(こぶし)は離しておくんだ」
「どうしてじゃ?」
お嬢様は分からない事はすぐに尋ねてきた。
「テコの原理を知ってるか?」
「そのぐらい知っておるわ!重いものを動かす為のアレであろう?」
『テコの知識はあるようだな。なら助かる』
店主は言葉を続けた。
「じゃあ、分かるだろ?握りが離れてた方が、速く強く力が出るんだ」
「そうなのか!ではいずれ柄の調整もあるのか?」
お嬢様は、なかなか察しがいい。
「ああ、そうだな。このまま上手くなれればだがな!」
「ならその時は頼むのじゃ!」
店主は、もしも本当に上手くなるのなら良いかと思った。まあ、無いとは思っていたが、一応、約束をした。
「分かった、柄の長さも調整しよう」
「お願いするのじゃ」
ツインテールが弾み!八重歯が光る!!お嬢様はとっても嬉しそうだ。
「では、お嬢様は右利きだから、右足を前にし前後に足を開き、相手の喉元を狙うように、剣を直ぐ構えて」
「真っ直ぐに構えたのじゃ」
「そしたら、そのまま」
「そのまま?」
お嬢様は次の指示を待った。
「前へ行け!」
「なにっ!?」
お嬢様は、店主をにらんだ。
「からかっているのか?前に行くだけとはなんなのじゃ!?」
お嬢様は店主の言葉を信じてはいなかった。
「おい!これは基本中の基本だぞ!!」
「本当か!?」
お嬢様はあまりの簡単な動作に店主を疑った。
「なんだ?信用しないのか!?じゃあ、俺に向き合って本当に頭を、思い切り打ちに来い!」
店主はやって分からせる事にした。店主は自分の剣を抜き構えた。
「分かったのじゃ!」
お嬢様はためらいもなく、剣を振り上げる。
その瞬間!
――ピタッ!
「わっ!!」
お嬢様の喉元に、キラッとした店主の剣先が光っていた。お嬢様が剣を振り下ろす前に、店主が一歩踏み出していたのだった。
「なっ!お前が振りかぶった瞬間に、前に出ただけだろ?ちなみに、この技は『突き』と言うんだ」
コクン
お嬢様はそれを聞いて黙ってうなずいた。素直にうなずくその様子を、老執事はにこやかに見ていた。店主の説明が続く。
「この『突き』という技は、剣先が最短で相手に届くんだ。そして、攻撃した相手が下手したら、自分から刺さってくれる事もある」
「それは本当か!?なんるほど、だから剣が盾にもなるとういう訳じゃな」
お嬢様は目を丸くし、納得していた。
「ああ、だから相手は、よけて打ち込んでくるが、逆にその時がチャンスだ!そしたらすぐ攻撃しろ。だからそれまでは、構えこそが盾となる」
コクン
お嬢様は、また黙ってうなずいた。
「まずは、間合いの感覚を磨け!剣先は相手の喉元。大きい相手なら、自分が最速で剣を動かせる位置で構えるんだ」
「分かったのじゃ!」
「じゃあ、執事さんとやってくれ」
それから、お嬢様と老執事は『突き』の反復練習をした。店主は店に戻った。
そして半刻が過ぎた頃、店主は戻って来た。
「どうだ出来たか?」
「出来たのじゃ!」
店主は、お嬢様の動きを確認した。
「凄いな!出来てるじゃないか!!」
店主は驚いていた。
『凄い習得率だな!!』
なので、店主は次の話を始めた。
「次ぎは、『受け返し』を教える。まずは、左の受けだ。腕を伸ばして、自分の剣先を左肩の外側につけろ」
「こうか?」
「そうだ」
「所で、なんで左なのだ?」
「剣を持つ多くが右利きで、右からの攻撃がしやすいからだ。だから、受けるほうは左が多い。お嬢様から見て、中心から左の攻撃が多いから、徹底して覚えろ!」
「分かったのじゃ!」
「そしたら柄を上に上げろ。その形が受けだ。分かりやすく分けてやったが、本当は同時に、柄を跳ね上げながら『受け』るんだ」
「手がつりそうじゃ」
お嬢様の言葉を店主は相手にせず話を続ける。
「じゃあ俺に、右から剣を振って来い!」
「ふんっ!」
――シャッ!
お嬢様の剣を店主は受ける。
「受けた瞬間が攻撃の……お『返し』の瞬間だ!!」
――シュン
―ピタッ!
「わっ!」
お嬢様に頭上に、店主の返した剣先が止まる。
「反対も同じ要領な。出来るだけ浅い角度で受けたい所だが、まだ難しいだろうから、衝撃ににだけ備えておけよ」
お嬢様は店主にそう言われて、反対側で『受け』の構えをする。
「反対は、もっと難しいのじゃ!剣先が右肩の脇につけられないのだ」
「もっと肘をまげるんだよ。とにかく肩脇に剣の平をつけて盾にしろ!これで体への剣の直撃を防げる。じゃあ、打って来い!」
――シュンッ!
お嬢様が上段から振り下ろす。
―シャッ!
店主、左によけながら柄を上げると同時に、剣先を右肩へ滑らせて受ける。
ピタッ!!
店主の返し。店主の剣先が、お嬢様の頭上に寸止めされた。
「すごいぞよ」
無意識につぶやいていた。
「さっきの『突き』と、この『受け返し』を組み合わせれば、まあ、かなり最速の剣術となるんだ」
頭上の剣はピクリとも動かない。
「後の先(ごのせん)で『受け返し』てもいいし、先の先(せんのせん)で、剣の動きを察知してから前へ出て突いてもいいし、切ってもいい」
そう言って、お嬢様の頭上に置かれた剣を、音も無く『静か』に鞘へ戻す店主。
「まずは、この二つの基本を体に覚えさせろ!」
「分かったのじゃ!でもところで、後の先とか先の先とは何じゃ?」
「ああ、済まん。説明が必要だったな。先とは攻撃の事で、攻撃の仕方には三つあるんだ」
「三つの……攻撃?」
お嬢様は首をかしげた。
「先の先、先、後の先の三つな。相手が動く前に切れば先の先。相手が動いてから切れば後の先だ。先なら同時だ」
「なにっ!では、先なら相打ちではないか!?」
「だから、正中心を先に取るんだ!いいか?一対一なら、どちらかしか取れない!!どちらが先に取れるかで勝負がつくんだ」
「でも、横からでは互いに切りあい、相打ちではないか?」
お嬢様の頭の回転は速い!
「お前は負ける覚悟で戦うのか?相打ちになるのが分かって切る奴はいない。もし、そうなってたら、互いによけるだろ?」
「あっ、そうであったか!」
店主は心配ないように言った。
『だが、しかし。相手が死ぬ気なら相打ちになってしまうがな。でもそれは今、知る必要はないしな』
店主がそう思っていると、お嬢様は楽しそうに言った。
「そういえば、なんとも先だらけじゃな!」
八重歯が光る!そしてそのキラキラの笑顔につい店主もつられてしまう。
「まあ、だから攻撃こそ、最大の防御って事だろ!?」
二人は目を合わせて笑った。
「じゃあ、あとは執事さんとやっててくれ」
「分かったぞ!!」
その時、お嬢様の目がメラメラと燃えるのを、店主は見逃さなかった。
【ステータス】
☆お嬢様
・測定用両手持ち剣(柄赤-中-太=重心柄、重さ中、柄太め)
・リボンは、細いスミレ色
・動きやすい服装(丸首で長袖の紺の綿シャツ、紺の綿ヒモで止められる緑の八分ズボン、肌着は爽やかなスミレ色の絹のタンクトップ)
・靴(紺のカモシン)
・黄色の靴下(くるぶし隠れる綿のメリヤス編み)
・『剣の持ち方』『突き』『受け返し』を知る
・爽やかなスミレ色のパンティ
つづく
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