第4話 ―最強の盾!?―
次の日。
「どうだ?持ちやすいだろ?」
「本当なのじゃ!」
お嬢様に大体あった剣。それをお嬢様は振り回していた。
「軽いのじゃ!そして振りやすいのじゃ!!」
お嬢様は、昨日の最強に硬いが重くて持てなかった剣と、最強に斬れるが切る事すら出来なかった刀を思い出し、比べていた。
「こうも違うと、凄いものじゃな!!とおー!!」
お嬢様はダンスを踊るように剣を振っては、クルクルと回っていた。
「ではとにかく、お嬢様の基礎の確認からだ!」
お嬢様は昨日とは、うって変わって動きやすい服装だった。
白い丸首長袖の綿シャツ。濃い茶の綿ヒモで結ばれている薄茶の八分ズボン。くるぶしが隠れる生成り色の靴下。靴は赤いカモシンを履いていた。
金髪ツインテールのリボンは、細い赤だった。
その側で昨日と同じく、大柄で体もがっしりし燕尾服(えんぴふく)着た、身なりの良い老執事が立っていた。
「では、構えかからだが」
「老執事に聞いてきたのじゃ!構えとは、こうであろう?」
お嬢様はさっそく前後に足を開くと、剣を店主の喉元に向けて構えた。お嬢様は店主に誉めてもらえると思ったのも、つかの間。
「前もって勉強してきたみたいだが済まない。まず足は、前後でなく横に開いてくれ。次に基礎を見る為の『構え』を教える。なので昨日のように肩幅に足を開け」
お嬢様は、たどたどしく足を開く。その様子に申し訳なさそうに老執事が言った。
「余計な事を教えてしまい、お恥ずかしい限りです」
「いや、貴方は悪くない。こちらこそ申し訳ない。普通は前後だろうからな。とにかく、お嬢様の基礎の力を確認したいんだ」
店主は、丁寧に老執事に言った。
「俺が剣を抜こうとしたら、お嬢様も剣を抜き、片手のまま俺の喉元に剣先を向けろ。反対の手は鞘から離すな」
「なにっ!何っ!?」
「剣を抜くのと同時に足を一足分さらに開いて、膝を軽く曲げろ!あと、踵(かかと)は紙一枚分浮かせろよ!!それが基礎の構えだ」
「そっ、そんな一度に沢山など!?」
店主は口早(くちばや)に言った。これも素質を見る内だ!言われた事をどこまで処理出来るか?理解力も重要だからな!と、店主は思った。
「じゃあ、行くぞ!!!」
――カチャンッ!
店主がわざと音を立てて剣を抜いた。慌ててお嬢様も剣を抜く。お嬢様は同時にピョンっと一足分さらに足を開き、膝を曲げようとするが!
―ゴロンッ!!
「イタタタ!」
「はあ~」
お嬢様は構える事さえ出来ず、さらには転んでしまった。
「また昨日と同じ、尻餅をついたのじゃ!」
お尻の土を払う、お嬢様。その姿を見て店主は、大きなため息をついた。
「とにかく、出来るまでやるぞ!!あとは、執事さんとやれ!!」
「えっ!どうしてじゃ!?」
「その執事さんは、ただの執事なだけじゃないだろ?剣も、そうとう出来るぞ?てか、そうじゃなきゃ、この場に執事たった一人だけで、お嬢様の警護など出来んよ」
そう言ってグルっと辺りを見回す店主。店主の目は捉えていた。
「まあ他にも、馬車や見えない所に、色々と警護が居るけどな」
店主がそう言うと老執事は見破られたとばかりに苦笑いした。
「ははは」
そして、申し訳なさそうに頭をかいた。
「でも、執事の服じゃ動きにくいじゃろ。ましてや、汗をかいてしまうのでは?」
お嬢様は老執事の心配する。
「いや、執事さんなら大丈夫だろう。思うに息一つ上がる事もないし、目をつぶったて出来るはずさ」
店主に言われて、また頭をかく老執事。店主は言ったあと、本当に店に戻ってしまった。その後、お嬢様は、剣を構える老執事を相手にひたすら、基礎の構えの練習をした。
「では、お嬢様!いきますぞ」
――カチャンッ!
老執事もわざと音を立てて剣を抜いた。そして反復練習が始まった。お嬢様は、いわゆる簡単な抜刀をひたすら行った。
半刻たった。
『本当なのじゃ!』
確かに老執事は汗一つ、息一つ、かく事もあがる事もなく終始涼ししい表情だった。すると店主が戻ってきた。
「どうだ、出来たか?」
「ハアハア、出来るようになったのじゃ!」
「そうか!」
店主はそう言うと、腰の剣を音を立てて抜いた。
――カチャンッ!
―ザッ!
「おっ!自分なりに頑張ったようだな、転ばなくなったな!!」
店主は、お嬢様を誉めた。お嬢様は嬉しそうだった。嬉しついでに、お嬢様は店主に言った。
「ハアハア、ところで思ったのだが、盾はどうなのじゃ?」
それを聞いて店主の顔が曇った。
「盾?なんでだ?」
お嬢様はその瞬間、少し失敗したと思った。でも話を続けるしかなかった。
「だって、剣だけでは防げぬのだろ?」
店主は片眉を上げた。そしてちょっと考えて言った。
「なら試してみるか?」
そう言うと店主は店から盾を持ってきた。お嬢様はちょっと嬉しかった。
「ほら」
お嬢様に店主は盾を渡しながら持ち方を教えた。お嬢様は右手に剣、左手に盾を持った。
「その盾はスモールシールドだ。それなら軽くて持てるだろ?」
「本当に軽いのじゃ!!」
「じゃあ、行くぞ!」
店主は片手で剣を盾に向けて、下から軽く振り回した。もちろん、刃がつぶれないよう浅い角度になるように。
――カンッ
店主の剣がお嬢様の盾に当たる。すると、お嬢様の持ったままの盾は跳ねて……
―カツンッ!
「痛ーい!ひどいのだ!!」
剣の衝撃で盾のフチが、お嬢様のオデコに当たり、ツインテールが跳ね上がる。オデコは見る間に赤くなった。
「これで分かったろ?盾を持つにも技術がいるんだ。まあ、相手の正中心(せいちゅうしん)に剣を構えられたら、盾などいらんから、まずは剣の事だけ考えろ」
店主はそう言いながら店に戻ると、濡れたタオルを持って来て絞ると、グルグルと振り回した。
「何をしているのじゃ!?」
「ああ?こうやるとタオルが冷えるんだよ!気化熱だ」
そう言って冷やしたタオルを、お嬢様に渡した。
「色々な事を知っておるの?」
「まあな、生きるためさ」
お嬢様は店主からもらったタオルでオデコを冷やしながら、改めて盾の事を聞いた。
「ところで、盾がいらないとはどういう事じゃ!?」
「どんな敵であっても、相手の正中心が取れれば、攻撃は防げる!」
「正中心とはなんじゃ?」
「相手の中心と武器を結んだ時の重心って事だ。まあ、今はよく分からんと思う。それに防ぐ技術も必要だしな」
「???」
お嬢様は全く分からないといった顔をした。
「とにかく敵は体の中心、急所を狙うからな。急所は体の中心にある!だから、まずは自分の中心を意識して守れ!!」
「まさしく!剣かつ最強の盾ですね」
店主の言葉に思わず、老執事は感嘆の声を上げた。
「でも、最強の奴なら体力もあるから盾も持てますがね!要は最低限の基礎ですよ」
店主は苦笑いをして老執事に答えた。
「でも、手とか足を狙われたとしたら、どうなのじゃ?」
お嬢様の言葉に、店主は本当に目を丸くした。まったく戦った事がないのだな!と、思ったので言った。
「そのぐらい、よけろよ!」
「何じゃとっ!?」
「フフッ」
老執事はつい笑ってしまった。それをお嬢様は、キッ!とにらむ。
「まあ、半分は冗談だ。だから防具があるんだろ?」
「そうなのじゃ、わらはも知っていたわ!では、次は防具を」
お嬢様は恥ずかしさを隠して言うが、店主はすかさず言い返した。
「ダメだ!チャンバラ一つ出来ないのに防具を着けてみろ!重い腕当てやブーツ履いた所で、文字どおり足手まといだぞ!!」
でも店主の目は笑っていた。また冗談交じりに言ったのだ。あきらかにその対応は素人へのそれだった。
「むーーー!」
お嬢様は、ほっぺたを膨らました。
「フフフフッ」
そのやり取りを見て老執事は、優しく笑っていたのだった。
【ステータス】
☆お嬢様
・測定用両手持ち剣(柄赤-中-太=重心柄、重さ中、柄太め)
・リボンは、細い赤
・動きやすい服装(丸首で長袖の白い綿シャツ、濃い茶の綿ヒモで止められる薄茶の八分ズボン、肌着は白い絹のタンクトップ)
・靴(赤いカモシン)
・生成り色の靴下(くるぶし隠れる綿のメリヤス編み)
・『正中心』って言葉を知る
・グレーのパンティ(知ってるのは読者だけだ!サービスサービス!!)
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます