第2話 ―最良の受け!?―
「と、その前に基本的な事と聞くぞ!怪我が恐いんでな」
店主はお嬢様に尋ねた。結局は、お嬢様にとっての最高の剣探しといった形になってしまったが始める以上、相手に合わしていかねばと店主は思った。
「ああ、よいぞ」
お嬢様は、なんでも聞いてくれとばかりな態度だ。
「剣の受け方って知ってるか?」
店主のその言葉に、お嬢様の目が怒りに満ちた!バカにされたと思ったようだ!!
「何を言っておるのじゃ!剣は剣で受けるに決まっておるじゃろ!?いったいどこで受けるのじゃ!どこで!?」
お嬢様の様子に、店主は首を傾け頭を押さえた。
「ああ、なんか頭痛くなってきた。あのなあ、俺が聞いてるのは、剣の刃のどこで、相手の刃を受けるかを聞いてるんだ!!当然、知ってるよな!?」
店主は意地悪く言った。
「そt、そういう意味であったか!」
どうやら質問の意味が違うらしい!と、少し冷静になるお嬢様。
「受け方?そんなものがあるのか?」
お嬢様は確認の為、後ろにいる老執事に振り向いて聞いた。
『本当か?』
と、いうお嬢様の顔に老執事は静かに、静かにうなずいていた。どうやら、基本中の基本の話のようだ!と、お嬢様は気がついた。
店主は店内から二本の両手持ちの、お嬢様にとっては長めの剣を持ってくると、一本をお嬢様に手渡した。
「じゃあ、剣を鞘から抜いてくれ」
「こうか?んっ!この剣はなんと長くて、抜きにくいものなのじゃ」
「剣だけじゃなくて、もっと両手を広げるようしにて、鞘の方も動かせば抜ける」
「なんとっ!本当なのじゃ!!」
そうこうしている内に、お嬢様は剣を抜いた。
「では、俺が剣をゆっくり振り下ろすから、その剣で受けるマネをしてみろ」
お嬢様の頭上に店主は剣を下ろしていった。
「こうか?」
お嬢様は下から剣を上げていく。
――カチッ
互いの刃が向き合い、少し触れるところで店主は剣を止めた。
「なあ、見てみろよ?」
「???」
お嬢様は首を曲げた。
「これだと刃が、つぶれると思わんか?こんな一番深い角度だと?ぶつかり合って」
「つぶれる?でも、そもそも剣は、こうやってカチンカチンと、刃をぶつけ合うものなのであろう?」
「はあ、参ったなあ。それは劇かなんかで見たやつだろ?本当の剣の戦いは見たことあるのか?」
店主はまったくの呆れ顔だ。
「劇でも同じであろう?」
お嬢様は強気で言った。しかし、店主も負けずに言った。
「本当の剣の戦いは?」
「うっ……」
お嬢様はジッと見つめる店主の目の迫力に素直に従った。
「ないのじゃ」
「そうか。では話の続きだが、深い角度で受けると刃がつぶれる。と、いう事はそれだけの衝撃が剣にかかるって事なんだ」
「衝撃がかかるとどうなるのじゃ?剣が折れるのか?」
「まあ、折れる時もあるが、まず自分の手に衝撃が来る!そのまま剣が落ちれば良い方で、ひどいと手首を捻挫(ねんざ)したり、神経や骨がやられる場合もある!!」
「なんとっ!」
お嬢様は驚いていた。
「受け方一つで、そんな事になってしまうのか!」
「ああ、そういう危険もあるって事だ。じゃあ、正しい受け方を教える。もう一度やるぞ!」
お嬢様はゆっくりうなずく。
「ゆっくりと剣を振り下ろすから、刃全体の半分より手前で、そして相手の刃を浅い角度で滑らすように受けるんだ」
「そうなのかっ!!」
お嬢様は、真剣な表情で身を乗りだして来た。
「これなら刃が痛まないし、滑ってきても手元の鍔(ツバ)が手を守ってくれる。なによりも、滑らす事で衝撃を吸収出来るんだ」
ゆっくりと剣を下ろす店主。
「でなければ、その衝撃が自分に来てしまうのじゃな」
お嬢様は、自分の剣の角度を浅くしてみた。
ッシャーーー!
すると、互いの刃が削りあうような音を立てすべっていく。そして店主の剣の刃は、お嬢様の鍔の所で止まった。
「これなら、衝撃で手がやられないし、自分の剣の刃もつぶれない!剣が折れたり曲がる事はないし、さらには刃が研げてるしな!!」
「なるほど!そういう事かであったか!!」
お嬢様が、やっと分かったようだ思うと、店主はホッとした。
「いいか?とにかく浅い角度で受けろ。慣れたら剣先から滑らせて受けられるようになる。とにかく、これは剣を持つ上での基本中の基本だ」
お嬢様は深くうなずいた。
「が、初心者がやると剣先が、欠けたり曲がってしまう。だから半分より手元の位置で、その位置で出来るだけ相手の剣を受けるんだ!いいな?」
「なるほど、なるほど」
お嬢様は、すっかり関心していた。
「実際の戦闘では、続けて何十人もの相手と切り合う事もある。剣の替えもなく、研げない時だってあるんだ」
店主は一瞬、遠い目をした。今までの経験を思い出しているようだった。
「だから、いかに刃をつぶさずに戦うかを、体に覚えさせておく必要がある」
「分かったのじゃ」
そう言いながら、店主は考えていた。しかし、乱戦になった場合は、滑らせて受けてるヒマがない時がないから、ぶつけ合う事もある。
それに、相手が斧やハンマーの時もあるし。自分の剣がなくなって、相手の槍を使わなければならない時もある!と、考えて店主は頭を振った。
『つい、熱くなっちまったな』
だが、まずは基本だ。それに、そもそも素質があるかどうかも分からんしな。どうせ今、教えていく内に諦めるだろう!
『最高の剣があったとしても、それを使う技術が無ければ意味がないと』
と、店主は思った。
店主はお嬢様に目を合わせた。店主の考えごとが終わるのを待っていたお嬢様は聞いた。
「でも、なんで劇では刃と刃を打ち合わせるのじゃ?」
素朴な疑問だった。
『面白い事を聞くなあ』
店主はその質問に素直に答えた。
「その方が派手だからだよ!音がいいだろ!シャーよりもカキンカキン!!のほうがさ。それに、そもそも劇じゃ危なくて、切れる剣は使わないだろ?」
「そうか!確かに本当の剣で危ないのじゃ。では、火花が散るのは?」
お嬢様は知らない事を知るのが楽しくて仕方ないようだった。なので店主もそれに応えた。
「実戦でも、深くぶつかれば火花が散るんだが、劇ではワザとそうして火花が散りやすくしてるんだよ。見ててカッコイイだろ!!まあ、演出ってやつさ」
「なんとっ!そういう事じゃったのか!?」
店主は、お嬢様が理解してくれた事に安心していた。
「そなたでも、劇を見に行くのか!!」
「おい!理解したのはそこかよ!?」
店主は、はあ~!と、深くため息をついた。その様子を老執事は、にこやかに見ていた。店主は気分を変えて、お嬢様に言った。
「じゃあ、次ぎは剣の長さを調べる。腰に、このベルトを巻いて剣を着けろ」
お嬢様は店主から剣ベルトと受け取ると、白のドレスの腰にたどたどしくベルトを着けた。
「もっとしっかり巻け!!」
店主が見かねてベルトを締めると、お嬢様が悲鳴を上げた。
「きゃー!こら!!腰のリボンが崩れるではないか!!!」
「はあ~」
店主はガクッとしていた。
「文句言うならやめるぞ!」
「わっ、分かったのじゃ」
お嬢様は残念そうにしていたが、あきめて腰にベルトを巻いた。が、次に鞘の金具をベルトにつなごうとしたが、上手くつなげられなかった。
「お嬢様、こうです」
すると、老執事が手伝った。その動作はとても手早かった。
「では、剣を鞘からゆっくりと抜け」
お嬢様は店主の声に、ゆっくりと鞘から剣を抜いた。
「んっ!んー!!」
お嬢様は腕をいっぱいに伸ばす。が、剣は抜けず伸ばした所で手が止まった。
「すまぬ、全部抜けぬ」
「それでいいんだ。その剣の長さは、ワザと抜けない長さにしたんだ。そのままにしてろ」
すると店主はポケットからメジャーを出すと、出ている剣の刃の長さを測った。
「よし!剣の長さは分かった。次ぎは、お嬢様に合った剣探しだな」
「本当か!!」
その瞬間、ツインテールが嬉しそうに跳ね。お嬢様の八重歯と目が輝いたのだった。
【ステータス】
☆お嬢様
・測定用両手持ちの長めの剣
・白の膝丈ドレスに剣ベルト
・淡金色(たんきんいろ)の絹のタイツ
・白のエナメル靴
・両目二重、金髪ツインテール、細いピンクリボン
・『浅い角度で滑らせて受ける』を知る
つづく
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