お嬢様「最強の剣を、わらはに寄こせ!!」店主「だから、んなもんねーよ!!」(略して、最だら)

草風水樹(くさかぜみずき)

第一章 ―最強の剣を求めて!?―

第1話 ―最強の剣!?―

 ここは町外れの武器屋。若い男が店主をしている。今日も武器や防具の手入れや直しなど、朝からせせこましく働いていた。


 昼近くになると通りも人の往来が増える。とはいっても町外れなので、気配程度だ。すると一台の外国製の高級馬車が現れた。


 二頭立ての光輝く外国製の高級馬車。馬だけで家が買えるほどだろう。ましてや馬車本体ではいか程だろうか。


 それだけの高級馬車だ。通りを行く者の視線を集めた。高級馬車は武器屋の前で止まった。


 止まったかと思うと中から、膝丈ほどの白く可愛いドレスを着た少女が一人、自分から馬車のドアを開けて飛び降りてきた。


 そして、武器屋のドアを派手に開けた。


――バンッ!!


―カラン!カラン!


 ドアについてるカウベルが激しく鳴った。少女のドレスのすそからは、淡金色(たんきんいろ)の絹のタイツが伸びていた。


ツカ、ツカ、ツカ、ツカッ!


 踵(かかと)が少し高い白のエナメル靴が、店内に足早な靴音を立てる。


「お嬢様!お待ち下さい!!」


 少女の後を追いかけ、大柄で体もがっしりし燕尾服(えんぴふく)を着た、身なりの良い老執事も入って来た。


 少女は入って来るなり、カウンターにいる店主にこう言った。


「最強の剣をくれ!」


 金髪の腰までのツインテール。八重歯が一本、キラリ!とした。


 ツインテールは細いピンクのリボンで結ばれていた。両目は二重で、クリッとした可愛い顔立ちだ。

 

 でも腰に両手をやり、下に見下ろすような非常に横柄な態度で、お嬢様は店主に言っていた。


 が、身長177㌢の店主に比べると、店主の胸ぐらいまでしか背がなく、逆に店主に見下ろされていた。


「お嬢様!!……そのようなお言葉、なりませんぞ!」


 老執事の『お嬢様!』の言葉に、お嬢様は一瞬、ビクッ!となった。お嬢様の横柄さを老執事はたしなめつつ、店主に深々と頭を下げた。 


 店主よりも頭一つ大きく、大柄な老執事が頭を下げてるのは、ちょっと滑稽でもあったが、店主はそんな事には気もかけず淡々と、お嬢様に言い放った。


「んなもんねーよ」


 店主のその言い方に、お嬢様のテンションが上がる!


「そんなはずはない!確かにこの店に、最強の剣があると、わらはは聞いて来たのじゃ!!」


「お嬢様!!」


「さあ、金なら払おう!とにもかくにも早くっ」


「お嬢様っ!!!」


 老執事のグレーのカイゼル髭(ひげ)の端がピンと立った!だが老執事のたしなめも、お嬢様には届かない。


「最強の剣を、わらはに寄こせっ!!」


――バンッ!!


 勢いよく、カウンターテーブルに両手をついて言った。そんなお嬢様に店主はにらんで、再び言った。


「だから、んなもんねーよ!!」


 店主ににらまれたお嬢様は急に、目をウルウルとさせた。


「さあ、お嬢様。こう言われている訳ですから、もう、お屋敷に戻りましょう」


 老執事に促されるお嬢様。その目には大粒の涙が浮かんでいた。


「だってだって、ここに最強の剣があると、わらはは聞いて、うぐっ、うぅぅぅ」


 とうとうお嬢様は泣き出した。それを店主は黙って見ていた。


「大変、失礼しました」


 老執事は改めて頭を下げると、お嬢様の背を押し、店を出ようとした。


 が!その時だった。


「なぜじゃ!」


「お嬢様!」


 お嬢様は振り向き老執事の腕をすり抜け、再びカウンターに走り寄ると店主に言った。


「なぜ最強の剣をくれぬのじゃ!!せめて!せめて、その訳だけでも聞かせぬか!!」


 店主は言った。


「無いからだよ」


「なんじゃと!?」


 ツインテールが飛び上がった!さっぱり訳が分からないと言った表情の、お嬢様を見た店主はまた、あーだこーだと言われると思い、面倒臭そうに、でも真面目に答えた。


「勘違いしているようだな?いいか?お嬢様の思っている最強の剣など、この世の中に存在しない」


「そっ、そんなバカな!?わらはは、確かに最強の剣があると聞いて……」


「まあ、話は最後まで聞けって!……いいか?……じゃあ、言い方を変えよう、最強の剣は無い。だが、自分に合った最高の剣ならある」


「最高の剣じゃと?なっ!何が違うのじゃ!?」


 店主は言ってしまってから、しまった!と思った。


『余計な事を言ってしまった!これは質問が続きそうだ。さてさて、どうするか?このままでは、らちがあかないしな……』


 そう、思う店主にお嬢様が再度言った。


「何が違うのじゃ!?」


 カウンターに両手をつき、お嬢様はにじり寄る!!


『はあ~!これは言っても聞かないか!!』


「何が違うのじゃ!?」


『まあ、実際に体験すれば、いくら跳ねっ返りなお嬢様でも分かる事だろう!』


 そう店主は思うと、お嬢様に言ったのだった。


「なら!」


「なら、なんじゃ?」


「意味が分かるよう、裏庭に行こうか?」


「分かったのじゃ!」


 そう言うと店主は、店内に展示してある二本の剣を取り腰に差すと、店内奥の勝手口から裏庭へと二人を案内した。


「まずはこの剣な。この店で最強の剣の一本だ!」


 店主は腰に刺した剣の一本を鞘(さや)から抜き出した。


「なっ!なんじゃと!?最強の剣は、あるではないか!!」


 幅の広い両手で持つ剣だった。


「剣としてならな」


 お嬢様は店主の言葉の意味など分からずに、嬉しそうにしている。


「じゃあ、剣を渡すから持ってみろよ」


 お嬢様の目が輝く!


『これで、大丈夫なのじゃ!!』


 お嬢様は満面の笑みで、店主から剣を両手で受け取った。


 その瞬間!


――ズウンッ!


「うわっ!」


―ガツンッ!!


 お嬢様は、手渡された剣の重みにたえきれず、剣先を地面に突き刺さしてしまった。


「てな訳だ。……てかこの剣、また手入れし直しだな。確かに重いが、まさか持てないほどとは思わなかった」


 店主は地面に突き刺さった剣を見て、渋い顔をしながら言った。


「すっ、すまぬのじゃ」


 お嬢様は意味も分からぬが、取りあえずマズそうだと思って謝罪した。


「その剣は岩でも砕ける硬さを持つ、『硬さ最強の剣』だ。だか、重くて持つ事すら出来ないんだろ?だったら、お嬢様にとっては最低の剣だな!」


「くーっ!!」


 お嬢様は両手で踏ん張ってみたものの、地面に刺さった剣を持ち上げる事さえ出来なかった。


「じゃあ次は、斬れ味最強の剣だ」


 そう言うと、店主は曲がった剣を鞘から抜いた。その刃は、先ほどの剣とは違い鏡のように太陽の光にキラキラとしていた。そして、なにより細かった。さっきの剣の半分ほどの刃幅しかなかった。


「これは東洋の剣で、カタナと呼ばれる物だ」


 店主はそう言うと、お嬢様に刀を渡した。


「ほう!この重さ。これなら、わらはでも持てるわ!!」


 お嬢様は、今度こそ最強の剣を手に入れた!と、思い嬉しくなった。


「じゃあ、これを斬ってみろ 」


 店主の指差したそこには、草を直径10㌢ほどに束ねて濡らした物が、棒に刺さって立っていた。


「ただの草束なのじゃ!そんなの簡単な事じゃ!!」


 お嬢様は刀を振り上げ、濡れた草束の棒めがけて振り下ろした。


―ザクッ!


「なにっ!?」


 お嬢様が斜めに振り下ろしたカタナは、草の束を切る事すら出来ず、束の途中で止まってしまった。


「何じゃ、こんな!なまくら剣!!」


 お嬢様は刀を抜こうとしたが動かない。


「貸してみな?」


 そう言うと店主は刀の柄を握ったかと思うと、草束から滑らせるように引き抜いた。


―サクッ


――ボトンッ!


 その瞬間、草束は切り口を斜めにすべり落ちた。


「なんとっ!?」


 お嬢様の驚きの声! すると次に店主は、草束の横にあった、棒にかけられた兜(かぶと)をめがけ、刀を振り下ろした。


パカンッ!!


――ドサドサッ


 真っ二つになった兜が、地面に転がった。


「なっ!斬れ味最強だろ?でも、使えなければ結局……最低の剣だ」


「素晴らしい!見事な兜割(かぶとわり)です!!」


パチパチパチ!!


 それを見た老執事が賞賛の声を上げ拍手をした。それに反してお嬢様は顔を真っ赤にしていた。


「この他にも店には、最強の槍、最強の斧などもあるが……つまりはお嬢様には使えない物ばかりだろう。だから、お嬢様に使える『最強の剣』は、無いと言ったんだ」


 とはいえ、引き下がれないお嬢様は言った。


「でもじゃ!」


「でも、なんだ?」


 まだ言うのか!?と、店主に再度にらまれる。でも、お嬢様は屈しなかった。


「でも!わらはに合った最良の剣なら、あるのじゃろ!?」


「はあ~」


 その言葉に店主は大きなため息をついた。


「あるには、あるだろうが……それを見つけてどうするんだ?」


 お嬢様を見据え、店主は言った。


「そっ、それは……でも、とにかく、わらはは剣が欲しいのじゃ!それも強くなれる剣をじゃ!!」


「だから、そういう剣はねーんだよ!!もし、最高の剣を手にしたってなあ、扱えなければ」


「とにかく、欲しいものは欲しいのじゃ!!!!」


 お嬢様は、とことん諦めるようすが無い。


『本当に諦めの悪い奴だな!!まだ、分からないのか!?』


 と、店主は半ば呆れつつも、お嬢様に言った。


「なら……







 試してみるか?」


【ステータス】


☆お嬢様

・武器防具未装備

・白の膝丈ドレス(膝は出ていない)、腰裏には大きなリボン

・淡金色(たんきんいろ)の絹のタイツ←これはかなりの高級品!!

・白のエナメル靴

・両目二重、金髪ツインテール、細いピンクリボン


つづく

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