第13話 後話いや前話 魅せられた夜に
1997年のカトマンズ いやポカラで。
15:00頃、雨に降られて散々な気分で宿に飛び込んだ。
服を着替えて、ひと休み、晩飯を食って、長話すれば20:00、電気の来ていないこの村では、寝始めてもおかしくない時間だ。
取りあえずトイレに行って、と思って外に出た時 それ を見た。
雨雲は既に去っていて、月の光と星の光に それ は青白く光っていた。アンナプナサウス、アンナプルナⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、ガンガプルナ、マチャプチュレ。7、000mを越える山々が夜の中輝いていたんだ。
それは存在するだけで圧倒的な(そう、圧倒的なんだ)力を持って僕を射すくめた。足が振るえて、僕は立っていられなかった。
今まで、単なる風景を見て足が振るえた事が1度ある。
最初の長期旅行で、パキスタンのクエッタからイランに向けてオ-トバイで走ったの事だ。
ちょっとした峠を越えた向こうに それ は広がっていた。
目の前には見渡す限りの地平線、そこに広がる真赤な砂漠。それはまるで広角レンズで見たように、丸く歪んで見えた。
怖かった。
もし、この世に神という者が在るとするなら、その内一人は此処にいるのだろうと思った。
10年近く前の話だ。
目を凝らして見てみると、マチャプチュレ山稜線8合目辺りに、ちらちら瞬く燈りが見えた。
信じられなかった。
マチャプチュレはこのアンナプルナ山群唯一の処女峰で、数年前ドイツ人の登山家が登頂を試みたが、途中で登ることも降りることも出来なくなり、結局彼は帰ってこなかった。そんな事を昼間ガイドが言っていた。
ドイツ人云々は話半分としても、処女峰である事は間違いない。
今、この瞬間、あそこにビバ-グしている奴がいるのか?!
見えるわけがないのに、もう一度目を凝らした。
燈りが動いている?
良く見ればそれは、星の光が瞬いていたのだった。
いや、もう一度 それ を見たことがある。
近所の子供達を数人引き連れて、自転車で遠出をした時の事だ。
確か小学校6年生だったと思う。その時、初めて僕達は自分の生活圏から自力で出ていった。自分達の意志で。
初めて自分達の学区を越え、その又もう一つ隣の学区まで。見慣れない風景もだが、同い年ぐらいの見知らぬ小学生が、軒先で遊んでいたのが妙に不思議だった。そして遠征の最後に それ を見た。
国道1号線。
僕達の田舎町では見た事も無いくらい、多くの車や大きなトラックがそこを流れていた。全く知らない所に向かって。
その流れに自分が流されていきそうで怖かった。
けれど目が離せなかったんだ。
いつかその流れに乗って行ってしまう、そんな暗い予感が僕をつつんで・・・
Hypericum
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