第8話 第五夜 Oh my God!!

 ネパ-ル全土で、ガソリンの供給が混乱している。

 どこのスタンドにもガソリンが全く無い。


 カトマンズから一端西に向かって走る。

途中ムグリンって町でハイウェイは分岐している。このまま西に走れば、景勝地ポカラ、アンナプルナ山群や、ローマンタン、ムクティナートなんかはこっち。

 南に下りれば最終的にはインドの国境、高原というか山の中からインドに繋がる大平原じみた地形になる。その手前で再度東に走り国境の向こうにダージリンはある。

 結局、山を迂回して逆 コ の字型に走る事に成る。


 東に向かってハイウエイを走っていて、それに気づいた夕方その日走った道を引き返した。

 進めば進むほど、スタンドにポリタンク持った人の列が長くなっていく。

 やばい。

インド云々よりカトマンズに走行不能になる前に、帰り着くのが先。


 今日は何とか、拝み倒したり、泣き倒したりして、1リットルづつガソリンを入れてもらった。カトマンズまでのガソリンはまだ足りない。


Hypericum 


 あっけなくツーリングは終わりを迎えた。強行するより、リスクを下げる方を選択したのさ。その間にも挿話幾つかあるけどね。


 ある日のオートバイ乗り。


 夕暮れのガソリンスタンドに、一台のバイクが入ってくる。

それは事務所脇の、ペトロル(ガソリン)ポンプの前に止まる。

 ライダ-がヘルメットのバイザ-を上げる。見慣れないチベット系の顔をしている。心なしか顔が引きつっている様に見える。

「ペトロル、プリ-」 (ガソリン お願・・)

全てを言い終わる前に、スタンドのおっちゃんが両手を広げて

「ノ- ペトロル」  (ガソリンは無いよ)

「リアリィ?リアリィ?」 (本当に?本当に?)

「ノ- ノ- ペトロル ノ-」(無い、無い、ガソリン無い)

「ホワァイ?」   (なんでなんな?)

「ノ-ノ-、ネクスト13kmスタンド OK」(無い無い 次13km行ったスタンドな)


 その瞬間泣きそうになるライダ-。彼は頭を振り乱して叫ぶ。

「リアリィ?リアリィ?         (本当に?本当に?)

エッブリィスタンド セイ ノ-ペトロル」(何処のスタンドでも                      無い言うんや)

 そこらでたむろしていた、おっちゃん、子供が何事かと寄って来る。彼はわめき続ける。


「アイム ジャパニ-ズ、ツ-リスト (俺、日本人、旅行者)

ディッス モト イズ レンタル   (このバイクレンタル)

アイ ハフトゥ バック カトマンズ」(カトマンズに戻らねばならない)

 どんどん人が集まってくる。

「バット エッブリィスタンド ノ-ペトロル」(けど、どここのスタンドにもガソリンが無い)

 まだわめくライダ-。ついに根負けした、おっちゃん。

「OK 1リットル 1リットル OK」

しゃ-ないなぁってのが、ありありみえる。その瞬間ライダ-の顔は歓喜に包まれる。

「サ サ サッンキュ-」

 バイクにガソリンが入れられる。メ-タ-が1リットルで止まる。周りの野次馬から、ブ-イングが上がる。辺りを見回すおっちゃん。ライダ-は驚きと期待に満ちた眼で見つめている。メ-タ-が2リッタ-まで進んで止まる。再度上がるブ-イング。別のおっちゃんが、何か演説ぶっている。多分「こいつ日本からわざわざ此処まで来よったんや、(ネパ-ル人が)セコイ所見せるなっ」て意味だと思う。

 遂にガスが満タンになっていく。信じられない顔のライダ-。

満タンのバイクと共に走り出すライダ-。喜びと感謝の念で溢れている。

「サ サンキュー サンキュ- (あ ありがとう ありがとう)

 ネバ-フォ-ゲット」    (俺は決して忘れない)

 何度も繰り返す彼、集まった野次馬もみな一様に「俺達は良い事をした」って満足げな顔だ。そしてバイクは走り去って行く。

 

 ごめん。


 みんなの生活に必要な分かもしれん。けどこっちも帰らなきゃならないんだ。

非難されるかもしれないけど。

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