第30話


少し息を切らせながら、楽斗は自宅前についた。

ドアを開けると、そのまま浴室に向かう。


汗の張り付いた服を脱ぎ捨てると、真っ先にシャワーを浴びた。


流れ落ちる水の音が、心を落ち着かせる。


頭がぼやけている。

音符の傷ついた顔を見てから、ずっと。


初めて、あんなに傷ついた顔を見た。

心が苦しい。


もちろん、傷つける気は無かった。

なぜか、一歩踏み出せなかった。


本当に自分でいいのかと思ってしまった。

自分はまだ子どもだと再認識させられた。


相手を傷つけないと、先に進めない。


不甲斐なさでいっぱいだった。


重い溜息を吐き、湯船に浸かる。

ちゃぽ、と揺れる水面に泣きそうな音符の顔が映る。


「ほんと...さいあく....」


呟きは少し反響して、消えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る