第9話

それから、しばらくして季節は夏。

青い空と白い雲が広がり、蝉がミンミンと鳴いている。

暑い日差しがアスファルトとか弱い乙女の肌を容赦なく焼いてゆく。

そんな中を2人は歩いていた。

目的地に着くと、席を探しながら歩く。

「あ〜〜ん!!暑いよ〜〜!!溶けちゃうよ〜〜!がくと〜〜!!」

「うっさい、あつい、くっつくな」

「つれないこと言わないでよ、がくと様ァ〜〜♡」

「お前次にあたしの事そのふざけた名前で呼んだら殺す」

「うわぁ〜ん!!目がマジだよ〜!!でも、びっくりだよね〜!がくとが女子の間でそんな風に呼ばれてるなんて!」

「馬鹿みたい、女に騒がられても嬉しくないよ」

「そんなこと言わないで?しょうがないもん!がくとかっこいいもん!」

「はいはい....音符、あそこの席空いたみたい、座ろ」

「あ、ほんとだ!いそげー!」

「ほんと元気だな...」

音符と楽斗の今回の目的は食べ歩きである。

ショッピングモール内で、夏季限定のスイーツや食べ物が期間限定で出店されているのだ。

しかもショッピングモールの一階を丸々使った大々的なものである。

金曜日の夜に、音符が楽斗を誘い、楽斗も特に用事がなかったため来てみたが...

「人多すぎ...」

「当たり前だよ〜!今年は去年よりお店がたくさんなんだって!」

「音符は毎回来てんの?」

「うん!だって美味しいんだもん!あ!わたし注文いってくるね!」

「さんきゅ」

余りの人の多さに、若干人酔いを起こし始めた楽斗とは違い、音符は元気にカウンターに注文をしにいった。

ふぅ、と息を吐いて背凭れに体重を預けるとお腹が、ぎゅるる〜、と鳴った。

人多いし、肩はぶつかるし、外は暑いしで1人だったら絶対こないわこんな所...と思いながらも、でも、音符が楽しそうだしいいか...と思ってしまうほど、ここ数ヶ月で音符にはだいぶ甘くなってしまった。

「あれ?楽斗さん?」

「あ!!ほんとだ楽斗さんだ!!」

それにしても音符遅いな...、と思っていると少し後ろから声を掛けられた。

見ると、クラスで見かけたことのある2人が話しかけてきた。

「楽斗さんこんにちわ!なにやってんの?」

「楽斗さんもしかして食べ歩きとかしてるの?てか1人?だったら一緒にまわらない〜?」

「いや、あのさ...」

「ちょっと〜!楽斗様誘うとかヤバイから〜!!」

「そのファンアピールやめてー!私も楽斗様ファンだから〜!」

「ごめん、あのさ、連れいるから」

「え〜〜??まじ?めっちゃヘコむ...てか、連れって音符さん?」

「音符さんなの?だったらいいよー!あの子1人でも大丈夫だからぁ〜〜!!」

きゃあきゃあと、騒ぎながらしつこく楽斗を誘う名前も知らないクラスメイト達に酷く苛立ちを覚えた。

音符が1人で大丈夫ってなんだよ。

音符の事よく知らねぇ癖にこいつら...

「ね!行こ行こ!!」

「うちらといた方が絶対楽しいって!!」

1人がぐいっと楽斗の腕を引っ張る。

その時、楽斗の腕に女子特有のやわらかい感触がして、吐き気を覚えた。

「あのさ、いい加減しつこい。迷惑だから絡まないでくんないかな」

「ちょ、は?楽斗様おこなの?」

「い、行こ行こ!ごめんなさい楽斗様!!」

バタバタと走りながら去っていく女子を見ながら舌打ちを1つした。

「がくと〜!おまたせ〜!トロピカルパフェだよ〜ん!!」

「遅い」

「えへへ、ごめんごめん〜」

トン、と楽斗の前にパフェと水を置くと音符は目の前の席につき、さっそくパフェを食べる。

「んぅ〜〜♡おいしい〜〜!!!」

「ん、うまい」

「ねぇ、さっきはありがと...」

「は?なにが」

「あの子達に着いていかないでくれて...」

「見てたんだ、つか普通じゃん。あたし今あんたと遊んでんだからさ」

「うん、そうなんだけどね...、なんかさ〜、前の友達はわたし置いてどっか行っちゃう事が多かったからさ〜、もしかしたら、また1人かな〜とか!...思っちゃったり...しました....」

疑ってしまったことへの申し訳なさのせいか、珍しく敬語を使う音符。

そんな音符に、楽斗はパフェのフルーツを音符のパフェの上に乗っけながら、

「別に変な意味じゃないけど、あたしは音符を置いてどっか行かないし、音符以外とどこもいく気はないよ、プライベートは別として」

「変な意味ってなぁに?がくとやっぱりかっこいい!ありがと、がくと」

「きもいから早く食べて」

「こんなにたくさんフルーツ、よく乗せれたね!」

2人で笑った。

この一件があった日から、音符はなぜか妙に楽斗に懐くようになった。

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