第8話

たくさんの植物が所狭しと並べられた植物園の中に、桃香と忍はいた。

花達の出す良い香りは、忍の大好きなものの1つだった。

「すごいねー!これ集めるのにいくらかかるんだろ...」

「珍しいものもあるから...きっとすごく高い物もあるんじゃないかなぁ....」

「へー....」

色とりどりの花にはそれぞれ近くにプレートが掛けられており、花の名前と種類、花言葉なんかも書かれている。

「なんか、忍って大人な感じ」

「え!?...そ、そんな事ないよ...根暗だし....友達だって少ないし....あっ...」

しまった...と忍は思った。

友達が少ないのは事実だが、目の前にいる友達には、今のは失礼だったのではないかと思ったのだ。

「ご、ごめんね!!...あ、あの...」

「うちは忍に友達いなくてもいいけどね」

「え...?」

「だって、そしたらうちと一緒にいれるじゃん!」

ニコッと桃香が笑うと、忍はなんだか心臓の辺りかポカポカしたような感じがした。

初めてのこの感覚に忍は、戸惑いを隠せなかった。

今の感覚は....なんだろう.....

桃香の隣を歩きながら1人悶々と考えていると、桃香が、あっ、と声をあげた。

「忍見て!バラのジュースだって!飲んでこうよ!」

「う、うん...!」

パシッと、桃香に手を握られたとき、どくん、どくん、と脈が速くなり、顔に熱が集まるのを感じた。

「バラのジュース2つください!...って、忍顔赤くない?大丈夫?」

「う、うん!ちょっと、暑くなっちゃって...!!」

ほい、と渡されたジュースを一口飲む。

バラの香りが広がって口の中が上品な甘さに包まれる。

「お、おいしい...!」

「うん!やばい!めちゃ美味しい!!」

2人で近くのベンチに座りながらジュースを飲んでいると、目の前をカップルが通りかかった。

恋人繋ぎをしながら、幸せそうに微笑んでいる。

もし...私と桃香ちゃんが....

と、少し考えてやめた。

いつもそうだ。少し優しくされるとすぐにこれだ。

自分に怒りを感じながら隣の桃香ちゃんを見ると、

「リア充爆発しろ」

と、ちょっと怖い顔でつぶやいていた。

少ししてから楽斗さんからLINEが来て、

楽斗:音符が土産買いたいってうるさいから先行ってる

「うちらもそろそろ行くか!」

「う、うん」

飲み終わった紙コップをゴミ箱に捨てると、2人でお土産屋さんに向かった。


その後、各自おみやげを買って、キーホルダー(楽斗がライオン、音符がうさぎ、桃香と忍は色違いのペンギン)を購入し、動物園を後にした。

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