第5話
金曜日の夜、楽斗は自室で今朝音符に借りた本をベッドに仰向けになりながら読んでいた。
あらすじを読んでみると、どうやら友情ものらしい。
ー私は、もう散ってしまった桜の木の下で、ユカの小さくて白い手を握った。
「ねえ、私は、ユカの事、とても大事よ。大好きなシチューや、家で飼ってるペロ、学校の宿題とか、他に大事なものはたくさんあるけれど、ユカはなんだか違う大事なの」
「ユカもね、アカリの事、大事だよ。でもね、これはきっと、アカリは違うかも知れないけれど、気づいちゃいけなかったと思うの」
「私悲しいわ。これから気の遠くなるほど長い時間を、あの十字路を別れたら、一生背負っていくのよ」
「アカリ、アカリは明日、何時ものように学校に行って、私と友達として仲良く過ごすのよ」
「私たちって、枯れた桜のようね」
「なんじゃこりゃ」
全く意味がわからなかった。
この少女達は何故こんなに寂しそうに話すのか、枯れた桜のようとはなんなのか全くわからない。
「音符も不思議な本読むんだな」
それからまた少し読んで、本を閉じる。
すると、トントンとドアを叩く音が聞こえた。
「おねーちゃん、ごはんできたよ」
「今行く。ありがとなゆずき」
「うん!おねーちゃんと一緒に行く!」
ゆずき、とは今年で小学三年生になる可愛い弟だ。
「おねーちゃん、今日ね、学校のお友達にね、おねーちゃんいるよって言ったらね、これもらったの」
「なにこれ?ねこ?」
ゆずきの手のひらには、なんとも不細工なネコのキーホルダーがあった。
「今日はよくネコをもらうなぁ...」
「おねーちゃんのいつも言ってる、変な子にあげて!」
「音符ね、あいつ好きそうだなぁこういうの、ありがとな、ゆずき」
ゆずきからキーホルダーを受け取ると、ポケットに入れ、とりあえず音符にLINEを入れた。
「あいついつもあんな感じなんかな...テンション高ぇ」
返事もそこそこにLINEを閉じると、いつもの筋トレを始め、風呂に入り汗を流した。
ガシガシと乱暴に髪を乾かしながらテレビを見ると、もう夜も遅くなっていたのでそのままベッドに横になった。
その夜の夢に、桜の木の下で、手を繋ぎながら話すあたしと音符の夢を見た。
あんな小説を見たからだ、と思ったが、ただ1つだけ小説とは違う部分があった。
それは、あたしと音符が涙を流していた事だった。
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