第1325話 どエルフさんと知恵の神の真の目的

【前回のあらすじ】


 知恵の神&破壊神の野望を打ち砕いた女エルフたち。

 残すは神々との謁見。すると意外な所から破壊神はその姿を現わした――。


「でかした、人類の戦士たちよ。君たちならばこの戦いに終止符を打つことができると信じていたぞ。あっぱれ、あっぱれ」


「性郷どん?」


「た、タケルくん? いったいどうしたんだい、その喋り方は?」


「ふはははは!! まぁそういう反応をするだろう!! すまぬな、お前たちに近づきやすいよう、この性郷隆盛の身体を使わせてもらった!!」


 南の大陸に漂着し命を拾ったと思われた性郷どん。

 実はその正体は破壊神。男騎士たちに自然に接触するため、破壊神は化けていたのだ。元ネタというか名前からお察しだが――。


「いや、お察しできるかこんなもん。どうせ今、思いついたんじゃろがい」


 性郷どんを持て余しちゃいましたね。

 記憶喪失という部分と、偶然助かった部分、さらには破壊神の名前との相性を考えて、そういうことにしてしまいました。

 申し訳ない。(これは本当にアドリブです&いっぱいいっぱいで創作してます)


 そんな破壊神に合流した知恵の神。

 どうやら、今回の騒動には深い訳があるようだが――。


 と言うわけで、この一連の騒動の総括にそろそろ入っていこうとおもいます。


◇ ◇ ◇ ◇


「まずは、私、知恵の神アリスト・F・テレスから謝ろう。すまない、今回の一件は私の行きすぎた科学に対する情熱が引き起こした事件だった」


「「科学への情熱?」」


「そう。人類を創造するという計画に、いささか私の興味が勝ってしまった――」


 知恵の神の元から、現在の人類の祖となる者たちが逃げ出して数千年後。

 大地に繁栄する人類たちを目にした七つ柱の神々は、人類創造の計画の中止を破壊神と知恵の神に申しつけた。


 これに二神はたしかに応じた。

 全ての実験を凍結し、ELFたちを眠りにつかせ、南の大陸は一度眠ったのだ。

 たしかに彼らはその野望を捨てた――。


「その南の大陸が再び動き出したときには、僕もライダーンも驚いたよ。なぜ放棄したはずの都市がこんなことにとね」


「もちろん、有事に備えて最低限のELFを動かしてはいた。シーマ村のように、滅びを受け入れつつ生活しているELFたちのことだな。しかし、彼らにも、けっして再び人類創造の計画を起こさぬよう、我らはプロテクトをかけていた」


「なら、いったいどうして?」


「それが私の強すぎる科学への情熱だよ……」


 熱帯密林都市ア・マゾ・ン。

 そのマザーコンピューター『デラえもん』は、人類創造のために知恵の神が手ずから作り上げた最高のAIだった。しかしその行動理念は『人類創造』ではなかった。


 熱帯密林都市を管理し、新しい人類を創造し、実験に実験を重ねる。

 それだけなら今回のような事件は発生しなかった――。


「私はねデラえもんに命令したのだよ。『やがて、海の果てからこの地にたどり着くであろう、南の大陸から逃下出した人類。それと、私たちが創造した人類のどちらが強いのか。それを決しなさい』とね」


「……ちょっと待って、人類の創造が目的だったんじゃ?」


「そうなんだよ。最初はそのつもりだったんだがね。興味に負けてしまって」


「……今の人類を哀れに思ってこの大陸から逃がしたんじゃ?」


「いや。守られた楽園ではなく、自然の中で進化した人類の方が、もしかすると逞しくなるのではないかと思ってね? そこからして実験だったんだよ……」


 前提条件から違っていたのだ。


 破壊神が律儀に新たな人類を都市で造ろうとする一方で、知恵の神はありとあらゆる人類の可能性を考えた。その結果、「人類を南の大陸から出し、自然の中で成長させる」という創造方法を思いついた。

 そして、それを従来の方法と比べようとしたのだ。


「人類が私が想定していたレベルまで成長した時――つまり南の大陸に足を踏み入れたその時。デラえもんは律儀にそのプログラムを思い出した。そして、やってきた人類たちを試しだしたんだ」


「……それじゃあ、もしかして?」


「この営みは何度となく行われている。君たち人類は、何度もデラえもんと彼が組織した【ドラドラセブン】によって試され、そして息絶えて言ったんだ。君たちが、一緒に旅をしているスコティからも聞かなかったかい?」


 言われてみればと思い出す。

 男騎士と女エルフが熱帯密林都市ア・マゾ・ンに侵入してすぐ、彼らはかつてこの地を訪れたエロスから「やめておけ」と挑むのを止められた。


 どういうことだと魔剣に尋ねる男騎士。

 多脚戦車の爪先でぽりぽりと柄を掻くと魔剣はなんとも煮え切らない返事をした。


「まぁ、そんなこったろうとは思っていたんだよ。あきらかに過去にも人が辿りついた形跡はあったし、なによりあまりにも話が急だった。冒険者の勘って奴だな、これは何かあるなとピーンときて俺は断ったんだ」


「そんな!! なら、もっと早く言ってくれれば!!」


「止めたのにやるって言ったのはお前らじゃねえかよ」


 とにもかくにも全ては知恵の神が計画していたこと。

 凍結が不完全だったばかりに起きてしまった悲しい事故だった。


「介入するべきか、最初は我々も悩んだんだよ」


「これは不足の事態という奴では。人類に対して、我ら神々が力を貸してでも、デラえもんの暴挙を止めるべきではないのか……とな」


「けれども七つ柱の神々は合議の末に『これも人類に与えられた試練だ』と、あえて放置することにした。それが、この南の大陸で行われていた陰謀の真相だよ」


 起こるべくして起こった新人類と旧人類の戦い。

 神々を真の意味で越えるために計画された試練。

 今回の男騎士達の冒険は、まさに神を越えるためのシナリオだった――。


 男騎士にそっと手を伸ばす知恵の神。

 出された手を咄嗟に握り返した男騎士に向かって知恵の神が頷く。

 その横で、破壊神もまた祝うように瞼を閉じて深く頷いた。


「おめでとう。ついに君たちは神々が与えたもうた試練を越えて、この大地の主役たる存在であることを証明した。君たちを創造した者として、それを誇りに思うよ」


「アリスト・F・テレスさま。ライダーンさま」


「こんな手荒なことになってしまったのは申し訳なく思っているがね」


 良い話の体で流されそうになっていたところを自虐的に知恵の神がフォローする。女エルフが「本当よ」とごちると、場に和やかな笑みが満ちた。

 かくして、男騎士達の異邦の地での冒険は終った――。


「さて、それでは。勇者ティト。我々からお前に渡すべきものがある――」

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