第1324話 ど男騎士さんと破壊&知恵の神

【前回のあらすじ】


 ついに【MM砲】堕ちる。

 本当にここまでいろいろあった。長く辛く混迷を極める旅だった。

 しかし、そんな第九部もこれにて終わり。


 破壊神の試練【MM砲】はキングエルフの放った【ELFの銃】と【サイコ銃】によって木っ端微塵に爆産した。降り注ぐ真実の鏡マジックミラーと、銃が放った緑の光の映し出す幻想的な光景を眺めながら、男騎士と女エルフは肩を並べ天を仰いだ。


「……終ったの?」


「……あぁ、俺たち人類の勝利だ」


 男騎士たち人類は神々の手から未来をもぎ取った。ついに、神が造りし旧世界を完全に葬り去った。ここに神と人間を分つ最後の儀式が幕を閉じたのだった。


 とまぁ、そんな壮大なノリはともかく。

 これにていよいよ第九部はおしまい。


 第八部に習い、最後に待ち受けるのは神との謁見。ここからはサクサクと進んでいこうかなと思います。はたして、この南の大陸で暗躍をし続けた、破壊神と知恵の神はどのような者達なのか――。


 そして男騎士たちは彼らに認められることができるのか。

 今週&来週で、第九部は正真正銘のクライマックスとなります。


◇ ◇ ◇ ◇


「でかした、人類の戦士たちよ。君たちならばこの戦いに終止符を打つことができると信じていたぞ。あっぱれ、あっぱれ」


 急な声に男騎士と女エルフの肩が跳ね上がる。

 その声は、聞き覚えがあるどころか、割と身近な所から聞こえてきた。


 赤いずんぐりむっくりのELF。

 その隣に立ったむくつけき改造人間。

 男騎士の古い知り合いにして、この大陸での再会を喜んだ男。しかしその記憶は曖昧で、いまいちどう接していいのかが分かりかねていた相手――。


「性郷どん?」


「た、タケルくん? いったいどうしたんだい、その喋り方は?」


「ふはははは!! まぁそういう反応をするだろう!! すまぬな、お前たちに近づきやすいよう、この性郷隆盛の身体を使わせてもらった!!」


「……まさか」


 性郷どんが頷く。「変身」のかけ声と共にその場に宙返りをしたかと思えば、巨漢の武士はたちまち鋼に覆われた戦士にその姿を変えた。黒い身体に、緑の仮面。


 前に彼が変身した時とはちょっと違う。

 特徴的なバッタのような仮面をしたそいつこそは――。


「我こそは、破壊神ライダーン。貴殿らの戦い、間近で見させていただいた」


「「「ら、ライダーンさま!?」」」


「はっはっはっ、そう焦るな焦るな」


 破壊神ライダーンであった。


 まさかこんなにも近くで、そして見知った人物に化けているとは思いもよらなかった。元ネタの名前が分かれば気づくかもしれないが――。


「性郷隆盛が生きていたということにすれば、貴殿らに簡単に接触できるだろうと踏んでな。これからこの世界を委ねる者達がどういう者達なのか、身近に見ておきたいというのもあった。黙っていて相済まぬ」


「いや、それはその謝られても仕方ないというか……」


「それよりも見事であった。あえて今回は裏方に回り、仲間のサポートに徹した勇者ティト。そして、彼に代わって前線に立って戦った勇者モーラ。人とエルフを代表する二人。まさに、これからの世界を見せてもらっているようだった」


「……いや、最後のアレはうちの兄貴がやらかしたんですけどね」


 ちらりと女エルフが覗いたのはキングエルフ。

 ダブルラストシューティングで力尽きたのか、そのまま白目を剥いて倒れた彼。

 破壊神の最後の試練を打ち砕いたのは間違いなくあの全裸のエルフだ。


 しかし、それを一笑に付す破壊神。

 そのような些末なことを気にする男ではないらしい。

 破壊神というから、どんな危険で神経質な男かと思ったが――。


「意外に気さくな神様ね」


「だな。俺はてっきり、言葉を間違えれば滅されるくらいの気持ちだったんだが」


「そんなことする訳がないだろう。この大地に栄える人類は我らの子。それを慈しまずにどうするのか。破壊の力とはやむを得ず使うものだ――愛なくして振るうことはできない」


「「破壊神さま……!!」」


 これまでちょいちょい噂には出てきたがかなりの人格者。

 人類に対する深い愛に男騎士たちは、ひどい目に会わされたというのに少し感動してしまうのだった。


 目元を湿らせる男騎士に「まぁ待て、まだ安心するには早い」と破壊神。


「私はお前たちのことを認めた。しかし、この戦いを傍観していた――知恵の神はどうかな?」


「はっ!! そういえば、アリスト・F・テレスは!!」


「そうだった!! よくもはめてくれたわね!! なーにが知恵の神よ、うさんくさいことしやがって!! 悪知恵の神に改名しなさいよね!!」


「……まぁ、奴にも奴の言い分があるんだ。そこは察してやってくれ」


 もう一つの神は、今回の件に納得したのか。

 そもそも自分達を騙していたのは彼だ。まだ『破壊神との新人類創世』が終っていないと嘯き、不毛なクエストを受注させたのはどうしてか。


 そして、その野望が尽きた今、彼は男騎士たちを認めるのか――。


 崩れ落ちたデラえもんの残骸。その中から一人の男が歩いてくる。

 ベレー帽をかぶったのっぽの男。少しひょうきんな顔をしたそいつは、口に咥えたパイプからぷかぷかと煙を吐き出しながら、とほほと後ろ襟をかいた。


 この大惨事の中にあってその身体には一つの傷もない。

 彼もまた明らかに見た目通りの人物ではなさそうだった。


「いやー、まいったまいった。まさかこんな結末になるとは」


「……貴方がアリスト・F・テレス」


「いかにも。しかし悪いね。これはELFを強制的に乗っ取って動かしている、遠隔操作のコピーロボットだ。本体は南極大陸の方にいる」


「コピーロボット?」


「本来であれば、直に出向いて詫びるべき所なんだが、私も【魔神シリコーン】のご機嫌とりに忙しくてね。ちょっと手が離せないんだ……」


 そう言うと、ひょろっとした知恵の神は男騎士に頭を下げた。

 まるで完敗だとばかりに。


「お見事だティトくん。この南の大陸に僕と破壊神があえて残した試練を、君たちは乗り越えてみせた。君になら人類の未来を任せても問題ないだろう」


「……あえて残した試練?」


「まぁ、切っ掛けは些細なミスだったんだけれどもね。その辺り、ちょっと僕とライダーンから、補足をした方がいいだろうね」


 知恵の神がひょいとパイプを口から外す。彼がその先端から灰を落とすと、それはまるで煙のように広がり――二つの皮張りの椅子が男騎士達の前に現れた。

 その椅子に深く腰掛けて二つの神々が男騎士達を見据える。


「それじゃあ説明しようか。この南の大陸に何が起きて、そして、我らが何を意図してこの事態を静観していたのかを」


「人類が越えるべき試練とはなんだったのかを……」

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