第1316話 どエルフさんと通信遮断

【前回のあらすじ】


「モーラさんがそんなバインバインのドレスなんて着られるわけないだろう!!」


 男騎士。【性闘衣】のクオリティに猛烈抗議する。

 魔法少女センシティブモードに入った女エルフを見ていない男騎士には、彼女の体型の事が伝わっていない。いつもの彼女の体型から、デフォルトの【性闘衣】を着てしまっては残念なことになると彼は判断した。


 いつも女エルフのツルペタな胸を弄っているだけあってそういう所が鋭い。

 とにかく、本人以上に彼女の身体のことを知り尽くした男騎士により、【性闘衣】に対して厳しいチェックが入るのだった――。


「上下セパレートタイプで」


「ノースリーブにしよう」


「スカートはミニで」


「モーラさん、脚は結構綺麗だからタイツ――いやニーソックスで」


「眼帯とか海賊帽とかでちょっとアレンジしてみようか」


 改造の内容から伝わってくる『このセンシティブ感』よ。

 この世界で最もセンシティブな存在の衣装に無自覚に近づいていくのはどうしてか。海母神マーチが、そのネタを盛大に擦っている時点でお察しだった。


 いやほんと。

 一番最初にハマったVTuberがあの人ってあたりに、やっぱり僕はそういうヒロインや女性が好きなんだなって感じます。今更、この作品のヒロインが、どうしてこんなにセンシティブなのか腑に落ちましたよ。


「落ちてくれるなお願いだから」


 そんな与太話はともかく、ここで再び視点は女エルフの方に移ります……。


◇ ◇ ◇ ◇


『オラッ!! コアさっさと出さんかい!! あんまり強情張ると、その排気口に手を突っ込んで、奥歯ガタガタいわしたるぞ!!』


『嫌だ!! 安心してアリスト・F・テレス様が、この世界に関わらなくていいように――僕は絶対にお前なんかに負けない!!』


『感動の名シーンみたいな台詞ほざいてんじゃねえ!! だいたいお前は未来に帰る方だろうが!!』


「『もう、めちゃくちゃだこれ……』」


 女エルフの母が憑依したジャイアントエルフとデラえもんはまずまずの激戦を繰り広げていた。ジャイアントエルフが、それはもう恥もへったくれもない、暴走モードよりもヤバイ原始的な動きでデラえもんを追い詰め、それを秘密道具でなんとか躱すという息も吐かさぬ戦いが繰り広げられていた。


 執拗にお尻――の排気口に隠されたコアを狙うジャイアントエルフ。排気口に力を入れて、コアが露出しないように飛び回るデラえもん。

 両者、少しも気を緩めることのできない接戦。


 しかしそんな戦いにもいよいよ決着の時が訪れようとしていた――。


『はぁはぁ。ダメだ、もうエネルギーが』


『ダメージを受け流す防御型のボディだものなぁ。そうやって、派手に逃げ回れば疲れちまうよなぁ。そろそろ限界かデラえもん』


『くそぉっ、僕は元々お手伝いロボットなんだぞ。こんな激しい戦闘なんてするようにできていないんだ!!』


「『いや、マザーコンピューターちがうんかい』」


 冷徹な女エルフと○サトさんのツッコミは虚しくスルーされた。


 エネルギーが尽きてふらふらのデラえもん。

 そんなデラえもんを睨んで不敵な笑みを浮かべるジャイアントエルフ。


 次の一手で全てが決まる。


 やはり仕掛けたのはジャイアントエルフ。彼女は身をかがめて脚を狙うと見せかけて、その強靱な脚で大地を蹴って跳躍するとデラえもんの背後をとった。

 これまでならば反応できたデラえもん。だが、疲労のせいで反応が遅れた。


 獲った――ジャイアントエルフの腕がデラえもんの尻へと伸びる。


『もらった!! このままコアを排気口の中から引きずり出す!!』


『くそぉっ!! そうはさせるか!! AT○ィールド全開!!』


「『そんな所から出すなや!!』」


 尻から展開されるAT(○ナル)フィールド。

 開いていいのか、むしろ閉じなくちゃいけないんじゃないのか。

 そんな野暮なことは置いといて、ここで元ネタの名シーンが再現される。


 ケツ前に展開された虹色の壁に手を突っ込んで、無理やり左右にこじ開けようとするジャイアントエルフ。


『ウォォオオオオオオオオオオン!!!!!!!!』


 絶叫と共に両腕が左右に開ききれば、今度はその手が排気口へと伸びた。

 ATフィールドの次はそこだ。さぁ、今その穴を引き裂いて、中に隠した核を露出させてやる――。


 そんな気合いが伝わってくる映像をコクピットから眺める女エルフ。

 思わず「勝ったな」とか呟きそうになったその時――がくんと彼女の乗っているコクピットが大きく揺れた。それと同時にデラえもんの排気口に手をかけたまま、ジャイアントエルフが動かなくなる。


 何がいったい起こったのか。

 説明はほどなく謎のオペレーターから伝えられた。


『マミーシステムの通信遮断!! どうやら配信システムにトラブルが発生!! コントロール、コクピットに戻ります!!』


「嘘でしょ、このタイミングで!?」


『○ンジくん!! このチャンスを逃す手はないわ!! このままデラえもんのコアを破壊して!!』


「無茶言わないでよ!! どうして私がそんなこと!!」


『いいから!! 人類の未来がかかっているのよ!! ガタガタ言ってないで、デラえもんの尻の排気口に手を突っ込んでコアを引っ張り出しなさい!!』


「もっとオブラートに包んでもろて!!」


 こんな所でまさかの通信遮断。

 実際の配信でもよくある通信環境のトラブル。こればっかりは仕方ない。ただでさえ強制的にゲーム配信と誤認させてジャイアントエルフを動かしていたのだ。


 養母の戦いを引き継いだ女エルフが強引にデラえもんの排気口を広げる。

 汚い絵面だが仕方がない。ええいままよと左右にそれを割く。


 ぽろりと赤いデラえもんのコアが露出する。

 これだ、これを破壊すれば完全決着だ。

 女エルフは排気口内で絶妙に温まったそれを拳の中に握りしめた。


「これで終わりだデラえもん!! さぁ、この戦いに決着をつけるわよ!!」


『……おっと、そんな迂闊に顔を近づけてよかったのかな?』


「何を言って……!!」


 ばふんとジャイアントエルフの顔に噴出されるのは黄色いガス。

 なんというか、間抜けな展開についつい忘れていたが、今彼女達が前にしているのは紛れもなく排気口だ。排気ガスを噴出するための器官に、迂闊にも肉薄してしまったのは軽率。


 放たれたのは催涙ガス。

 一瞬にして女エルフの視界を奪ったデラえもん。

 最初からこれを狙っていたのだろうか、目潰しを喰らって狼狽えるジャイアントエルフに、丸い起き上がりこぼしロボットはえいやと飛びかかった。


『これでこっちの逆転勝利だ!! 覚悟――破壊神の使徒!!』


「くそっ……これまでか!!」


「ちょーっと、待ったぁ!!!!!!!!!!」


 飛びかかろうとしたデラえもんを横から巨大な何かが蹴り飛ばす。

 なんだいったい何が起こったのか。


 ジャイアントエルフを守るように立ち尽くすのは、赤いドレスをまとった巨人。

 間違いない。それはもう一体のジャイアントエルフだった。


「お待たせしましたお姉さま!! エリィにここはお任せください!!」


「……エリィ!? どうして貴方が!?」


「そんなことより、はやくリリエルから【性闘衣】を受け取ってください!! ここは私とジャイアントエルフ二号機が引き受けます!!」


 女エルフを助けるために立ち塞がったのはまさかの新女王。

 そして、彼女が乗るのはジャイアントエルフ二号機だった。

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