第1313話 どキングエルフ3さんと「勝ったつもりか?」

【前回のあらすじ】


 ジャイアントエルフVSデラえもんから視点変わってELF娘。

 彼女が紡いだ【性闘衣】を持ち逃げしたキングエルフを探して、彼女は攻カク○頭隊の基地内を彷徨っていた。


 と、そこで思いがけず、キングエルフから襲撃を受けてしまう。


「双方ここは押さえろ!! 今は、モーラさんとデラえもんの戦いが優先だ!!」


「「お前は……ムラクモ!!」」


 そんな二人の間に割って入ったのは、男騎士が操っているELFこと少佐。

 アクロバティックに二人の間に割って入った彼女だったが、パワーアップしたキングエルフの敵ではない。そのパワーに圧倒されて吹き飛ばされてしまう。


 さらにその吹き飛んだ先がまずかった――。


「そこにいたか!! ティトロットォオオオオオオ!!」


 壁を突き破り配管を追って吹っ飛んだのは、男騎士が眠っている培養槽のある部屋。偶然にも、少佐を吹き飛ばした先が目的の場所だったのだ。


 すぐさまその身体からあふれ出る闘気で強襲するキングエルフ。

 危機を察して培養槽の中にいながらも対応した男騎士。


 ここに本作きっての強キャラ二人が拳を交える。

 いや、がっぷり組み合ってにらみ合う。


 大相撲どエルフ場所大一番。はたして勝つのはキングエルフか男騎士か――。


「どうでもいいから、はよ【性闘衣】を持ってきてくれないかしら……」


◇ ◇ ◇ ◇


「ふはは!! ティトよ忘れたか!! このキングエルフがエルフリアン柔術の使い手だということを!! 白兵戦において我が操るエルフリアン柔術は無敵!!」


「……くっ!! エロスを多脚戦車のコアにしたのがここで裏目に出るとは!!」


「貴様にはエルフリアン柔術の神髄をまだ見せていなかったな!! ここで味わっておくがいい!! そおら!! エルフリアン柔術奥義【火の車】!!」


「ぐっ、ぐわぁあああああっ!!」


 男騎士の身体が炎をまとって大回転する。

 抱え込んで放り投げる。大きく空中に投げ放たれた男騎士の姿は――まさしく火の車。エルフが得意とする魔法とエルフリアン柔術の柔らの技。それが合わさった見事な奥義だった――。


 今まで、そんな技を一度も使ったことはなかった。

 これはキングエルフ、本気で男騎士を倒しに来ている。


「……くっ!! どうしたというのだキングエルフ!! お前は、そんな風に意味も分からず相手に突っかかってくるような男ではなかっただろう!!」


「黙れ!! エルフのアイデンティティである美顔を奪われて平気でいられるエルフがいるものか!! 許さんぞティト!! この罪は貴様の血で償って貰う!!」


「……もとからそんなに変わっていないように思うが」


「黙れ!! キングエルフとはエルフの中のエルフ!! 美しさにおいてもKINGでなければ意味がないのだ!!」


「……どうしたんだいったい。これが、本当にあのキングエルフなのか?」


「ティトさん!! 今のキングエルフさんは【性闘衣】の影響で性格が極端になっています!! いつものキングエルフさんだと思ってはいけません!!」


「【性闘衣】……?」


「【ダブルオーの衣】から生成した神造遺物です!! 今、キングエルフさんはその精神感応を受けています!! ですから、まともに相手をしてはいけません!!」


 キングエルフが身に付けている赤い衣。いつもはすっぽんぽん、褌一丁で戦う徒手空拳エルフの異変に男騎士はようやく気がついた。


 なるほどと男騎士。

 すぐに彼はその身についた炎を払って消すと、キングエルフに向かって拳を突き出した。まともに相手をするなというELF娘の助言を無視する形だが――。


「聞け!! キングエルフ!!」


「なんだティトロット!! 遺言ならあの世に送ってから聞いてやろう!!」


「違う!! お前、そんな格好で俺に勝って本当にいいのか!!」


「なに!!」


「エルフリアン柔術は弱きエルフのための武術!! なのに貴様、その格好はいったいなんだ!! そのように着込んだ状態で俺を倒してお前は満足なのか!!」


 男騎士はあえてキングエルフのプライドに問いかけた。


 いつでも男は身体一つあればいい――を体現してきたキングエルフ。それがどうだろう。たった一枚の布きれに性転換させられて、挙げ句の果てには濃い顔にさせられてしまった。そんなうだつの上がらないことで本当にいいのか。


 いいはずがない。


 キングエルフの中で何か大切な――譲れない思いがその時弾けた。


「ティト!! お前が言いたいことはよく分かった!! 男ならば――フル○ンで戦わねば意味がない、そういうことだな!!」


「フル○ンかどうかはともかく!! お前の今の格好は、俺の知っているキングエルフではない!! 誇りを失ったお前など恐るるに足らず!!」


「くっ……言わせておけば!! いいだろう、こんな布一枚!! 着ていようが着ていまいがどうということはないわ!!」


 キングエルフが【性闘衣】に手をかける。

 まるでむしり取るように赤い衣を脱ぎ捨てれば、彼はいつもの褌姿に戻った。


 ついでに――。


「……キングエルフよ。どうやら誇りと一緒に、顔も取り戻したようだな」


「……なんだと!?」


「さぁ、そこのガラス片を見てみろ」


「こっ、これはっ!!」


 キングエルフの顔も元に戻っていた。


 中途半端に力を与える【性闘衣1/2】。どうやら、顔が怖くなってしまったのはそのせいだったらしい。キングエルフとキッカイマンが合体したからとか、そういうことではなかったのだ。


 それを知っていたのかはたまた偶然か。

 たぶん、ただの偶然――。


「なんということだ。俺の美顔が。ティト、まさかお前、これを知っていて」


「さぁ、どうだろうな……」


「くっ、どうしてだろう。服を脱いだ途端に、あれほどまでお前のことを憎んでいた気持ちをもどこか遠くに」


「そういうものだろう。キングエルフよ、どうやら正気に戻ってくれたみたいだな」


 その場に脚を突いて崩れ落ちたキングエルフ。自分の行いを恥じる彼に、男騎士はそっと手を差し伸べる。まるで間違いは誰にでもあるという感じに。

 彼の手をそっと握りしめると、大暴走を重ねたキングエルフはただ一言、「すまない」と目の前の男に謝った。

 それを男騎士はただ黙って受け入れた。


 戦いは終った。

 あまりにもあっけなく。

 むくつけき男達は拳を違う形で交えて和解した。


「ティト!! やはりお前は俺が妹の旦那にと見込んだだけの男だ!!」


「なに、キングエルフ。時に人にもエルフにも、自分を見失う時はあるものさ」


「もし私が再び道を違えた時は、容赦なくお前の手で殴ってくれ」


「任せてくれ……」


 そんなやり取りを遠い目で見つめながらELF娘はそそくさと【性闘衣】を回収した。この男臭い世界に、ちょっと巻き込まれたくはなかった。

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