第1295話 どエルフさんと真キングエルフ

【前回のあらすじ】


 キングエルフTSを決意する。


 男騎士(の偽物)から託されたサイコカン。

 どこに装備すればいいのか。男のスロットルは既に埋まっている。これではキッカイマンと合体することができない――と、キングエルフは悩んでいた。


「そんな描写なかったでしょ……」


 しかし、それを解決するアイテムがここに現れた。

 着た者の性別を反転させて、TSさせてしまう神造遺物【性闘衣1/2】。キングエルフはこれを着装することにより女になろうと画策した。


 そう、渡されたサイコカンこと【エッチな棒】を装備するために。


「【エッチな棒】は女性専用の装備。男では挿備することができない」


「おい、ここは全年齢健全ファンタ時小説やぞ。言葉に気をつけんかい」


「しかし、女になってしまえば装備できる!! 自分を越えるため!! 新しい自分になるため!! 俺は――いや、アタシは性別を捨てるわよ!!」


「もうホントこういうの勘弁して……」


「そりゃっ!! 【性闘衣】着装!!」


 女エルフから中途半端な【性闘衣】を奪い取って身に付けたキングエルフ。

 その身体が青白い光に包まれる。はたして、彼は本当にTSしてしまうのか。

 キングエルフからクイーンエルフになってしまうのか。


 はたして【性闘衣】はキングエルフをどう変えるのか――。


◇ ◇ ◇ ◇


「やりやがった!! あいつ、やりやがった!!」


「ありゃー、お兄さんも中々に勇気がありますね。自分からTSしにいくなんて。女から男へのTS文化はそんなに発達していませんが、男から女へのTS文化はもはや一大ジャンルですから……大変なことになっちゃいますよ?」


「大変なことって!?」


「そりゃまぁ、この流れでTSしたら……」


 まばゆく光っていたキングエルフの身体から光が消える。

 どうやらTSが終ったらしい。女エルフがTSした時は効果・演出からして違う。これが男から女へのTS文化という奴か……と、彼女は眉をひそめた。


 しかしなにより眉をひそめたのは、キングエルフのTSした姿。


 金色の長い髪は銀色の姫カットに変わり。

 筋骨隆々だったその身体は、小柄なロリボディへと縮小している。

 一糸まとわぬ褌姿はどこへやら、胸と腰を一つの大きな布で覆ったその立ち姿は、さながら女神のような神々しさがあった――。


 なにより。


「なんで巨乳になるんじゃい。お前、ワシと同じ遺伝子持ってるなら、TSしてもツルッツルのぺったぺったが筋とちゃうんか」


「マスター、マスター。大柄な男ほど、TSした時に恵体になるというのは、TS文化の不文律ですよ」


「いや、ロリになっとるやろがい!!」


「大柄な男性がロリになってメス成分が増すのも文化です!!」


 深遠なるTS文化が何も知らぬ女エルフを襲う。

 おそるべし女体化。男体化の時にはおざなりだった、テンプレというか法則というかがバッキバッキにキングエルフの身体を魔改造する。

 まるで、「なんとも思っていなかった男友達に無防備に近づいたがために、無茶苦茶にされちゃいそう」な圧倒的美少女感に、女エルフ達は戦慄した。


 TSしてから伏せていた目をキングエルフが見開く。煌めく碧眼はぱっちりと大きく、誰がどう言おうと美少女。高貴な女エルフというディティールだった。


「落ち着きなさいモーラ。TSしても私の本質はなにも変わりません」


「喋り方から変わってるやないかい!!」


「たしかに私は女の身となりました。けれども、それがなんだというのです。男であろうと女であろうと、私は私ではありませんか」


「いや、女のアンタはもうキングエルフじゃないというか。もう、キャラが違っているというか」


「エルフを見た目で判断してはいけませんよ。ほら……この通り」


 キングエルフの姿が一瞬霞む。

 女エルフが目を擦った間に、彼女は背後に回り込むとその身体に組み付いていた。


 女体化してもその身体能力は変わらない。

 なるほど確かに彼女の言う通りかもしれない。キングエルフはやはり女性になってもキングエルフ。高い戦闘能力を保持したままだった。


「ねっ、分かっていただけましたか?」


「……いやまぁ、力がそのままなのは分かったけれども。やっぱり、キャラが違ってるのに違和感が。もっとこう、理不尽で迷惑な兄ポジだったじゃない」


「そんな風にモーラは私のことを思っていたのですね。うぅっ、私、悲しいわ。たった二人の、血の繋がった姉妹ですのに」


「いやだからそういうとこなんよ。キャラがブレブレなんよ」


 このキャラ転換もTSの様式美かと女エルフがELF娘に視線で尋ねる。

 ふっと軽く笑ったELF娘。「そんな訳ないでしょ」という感じに首を横に振る。


 これは想定外。いわゆるイレギュラー。

 キングエルフがTS化したことで、ロリ系しっかりママキャラになったのは、TSのテンプレからはちょっと外れたことだった。


「TSというよりは、女体化洗脳的な文化を感じますね」


「女体化洗脳って……やめてよ、うちの兄貴でそんな気色の悪い」


「うーん。元からお兄さん、ゴリラみたいな身体はしていましたけれど、顔は結構美形でしたからね。TSにメスオチの文化も混ざっちゃったのかも」


「ききたくない、ききたくないよ、そんな文化のお話……」


 耳を塞ぐ女エルフ。

 あっけらかんと言うELF娘。

 さっきから、一緒に居るけれど濃厚すぎるトンチキワールドに、ついていけてない仮面の騎士と少年勇者。


 キングエルフのTSはとにもかくにも女エルフたちを酷く混乱させた。


「……まぁ、けど、すぐにキッカイマンと合体するわけだしね。元に戻るならこの混乱も別に構わないか」


「それですがモーラ。私は、キッカイマンとの合体をやめようと思います」


「……は?」


 女エルフ達に衝撃が走る。

 さらなる力を求めて、サイボーグエルフになろうとしたキングエルフ。

 そのために、一時的に女体化したのではなかったのか。男では装備するのに難がある【Hな棒】を装備するための女体かではなかったのか。


 驚いて目を剥く仲間達に、キングエルフはその豊満な胸の前に手を置いて俯く。

 申し訳なさと静かな決意をそこに秘めて――。


「女の身体になって分かりました。エルフリアン柔術の技は、女性のエルフの身体でこそ活きるということを」


「……いや、いやいや。誰もやりたくないわよ、あんなオゲレツ拳法」


「私はより完璧にエルフリアン柔術を極めるために、この女の身体でさらなる研鑽を積もうと思っております。そのためには、機械の身体は今は不要」


「世界の危機だって言ってるでしょうが!!」


「なにを言っているのですモーラ!! エルフリアン柔術を、当世最強の武術にすることこそ私の使命ですわ!!」


「そりゃ構わんが、頼むからこれ以上、話をややこしくせんでくれ!!」


 頼むよと手を取りせがむ女エルフ。

 どうやらキングエルフのTS騒ぎはここに来て混沌の様相を呈してきた。


「というか、装備なんてできませんは、あんな【Hな棒】なんて」


「なら最初からするなや!!」


「ありゃー、これはもう完全にメス堕ちしていらっしゃいますわ……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る