第1291話 どキングエルフさんと謎の少年

【前回のあらすじ】


 ついにクライマックスらしくなってまいりましたどエルフさん。

 キングエルフの【ダブルオーの衣】入手と時を同じくして、ア・マゾ・ンの都市から巨大ロボの影が昇る。丸いフォルムの青い起き上がりこぼしは知恵の神の切り札。

 ア・マゾ・ンの地下深くに封印されし巨神兵『ド・ラー』。


 街を破壊し、南の大陸を破壊せんとする巨大ロボ。

 もしこのまま破壊が進めば、破壊神側の都市に眠る巨大ロボも目を覚まし、この大陸どころか世界は焦土と化すだろう。

 それを止めるためには――人類がその可能性を示すしかない。


 走れキングエルフ。

 妹の元へ。


 届けろキングエルフ。

 妹の晴れ着姿を。


 そうつまり、走れメロスのパロディ。

 妹の結婚式の衣装を渡すために、三日間走り続けた(途中寝てた)男の物語のパロディが、こんなクライマックスで始まる。


 というか、みなさんメロス好き過ぎません?


「日本におけるメロスの認知度はいったいなんなのかしらね。メロスって言ったら、だいたいの日本人は食いつくわよね」


 まぁ、教科書に載ってますからね。あと、普通に面白いですし。

 けれど細かい所はちょいちょい忘れている。今回のタイトルとか。


 はたしてキングエルフは無事に妹の元に辿りつけるのか。


 キングエルフの伝説が今始まる。


◇ ◇ ◇ ◇


「うぉぉおおお!! 待っていろフェラリア!! 今、キングエルフが行くぞ!!」


「おかしいやろ。なんで生身のエルフが一番先頭を走ってんねん」


「どういう身体の構造してるんですかね。ほんと、エルフって不思議です」


 がんばれロ○コン村を出て密林を駆けるキングエルフ。

 その足並みはまるで獣の如く。大地を疾駆する馬のようであった。


 妹への想いが彼をここまで駆り立てるのか、それとも大義に殉じた艦長への思いがそうさせるのか。いいや違う――キングエルフはただ世界を救うために走っていた。己に科せられた役目を果たさんと、その腕を振り上げ、脚で地面を蹴り、ひたすらに前へと進んでいた。


 目指すはイーグル市、そこに女エルフが居る。

 彼女に【ダブルオーの衣】を必ず届けるのだ。


 昨日からの規則正しい留置所での生活は、連戦により傷ついていたキングエルフの身体を完全に癒やしていた。囚人006号との戦いは、ほどよく彼の身体を解きほぐしていた。今のキングエルフはベストコンディション。人生でそうなんどもない、絶好調状態であった。


 それだけに――。


「というか、この道で合っているのかみんな!!」


「「知らずに走ってたんかい!!」」


 身体と本能に思考が引っ張られ過ぎていた。

 現地人でもなんでもないキングエルフに道などわかろうはずもなかった。


 すると、そんな彼の横に赤いシルエットが迫る。


「大丈夫、こっちでイーグル市はあってるよキングエルフくん!!」


「お前は!! ロ○コン!!」


「性郷たけるもいるぞ!!」


 バイクに変形したロ○コンと性郷どんである。彼らもまた、戦艦オーカマを降りてメンズエステ隊と合流していた。


 南の大陸の一都市を預かっている男が言うなら間違いない。

 キングエルフはロ○コンたちに先導を任せて少しスピードを緩めた。


 代わりに前に出たロ○コンが「僕に着いてきて!!」と張り切った声を上げる。オフロード。荒くられた土の道を、たくましい男を乗せて疾駆するその姿には、おとぼけロボとは思えぬ風格が漂っていた。


「気をつけて、この辺りは野盗ELFたちが出るって有名なエリアだ。どこから奴らが飛び出してくるか分からない」


「野盗ELFだと!?」


「うん。街を追い出されてしまったELFたちで、時折都市間輸送をしているトラックなんかを襲って生活しているアウトローだよ。あっ、言ってるそばから」


「「「ヒャッハー!! ここを通りたかったら食い物をよこしな!!」」」


 走るキングエルフ達に飛びかかってくるモヒカンELFたち。

 なんという世紀末。まだ、南の大陸は滅んでいないというのに。


「えぇい、邪魔くさい!! エルフリアン柔術奥義!! 脳漿炸裂爆散拳!!」


「「パロ元が透けて見える必殺技!!」」


 疾走を止めようとするモヒカンELFをたたきのめすキングエルフ。

 しかし、次から次へとモヒカンは湧いてくる。青かったり、黄色かったり、黒かったり。時に赤かったり。額や頬に、ご丁寧に倒す番号が入れてあるそいつらを、アタアタアタタタとキングエルフが脳漿炸裂爆散拳で倒していく。


「もはや違うゲームだ」


「ゲームというかパチスロというか」


「みんな、気をつけて!! 崖の上に人の気配が!!」


 密林の中に突如現れた切り立った崖。見上げればそこに人の姿が。


 また野盗かと思いきや、そこに立っていたのは少年だった。

 赤毛のちょっと生意気そうな、けれど成長するととても頼りになる好青年になりそうな、そんな男の子だった。


「キングエルフ!! 頼んだぜ!!」


「「誰だよオメーはよう!!」」

 

 謎の声援を受けるキングエルフ。

 何故だろう、ちょっとだけ彼のテンションが上がった。


 レア役引いて「ちょっとチャンスかな」くらいに張り切った。

 しかし……。


「えぇい!! 出てくるのはさっきから押し順のあるザコばかり!! レア役ザコは出てこないのか!! あるいは強敵キャラ!!」


「……セイソさん、キングエルフさんはなにを言ってるんです?」


「お前にはまだ早い遊びの話だよ」


 応援されどもチャンスは掴めず。しょっぱいしょっぱいダッシュが続く。

 このまま、力尽きてしまうのか……そう思ったその時。また、切り立った崖が唐突にキングエルフたちのまえに現れた。


 ロ○コンが叫ぶ。


「みんな、気をつけて!! 崖の上に人の気配が!!」


「「またかよ!!」」


 はたしてキングエルフが見上げるとそこには!!


「キングエルフ!! 頼んだぜ!!」


「「だから誰だよオメーはよう!!」」


 さきほどキングエルフを励ました、赤毛の少年が立っているのだった。

 どう考えても、距離的におかしい。自分達より早く走っている。どうなっているのと狼狽える仮面の騎士&少年勇者を尻目にキングエルフは走った、ひたすら走った。


 閉店30分前。突然ARTが入ったように必死に走った。


 急げキングエルフ――店が閉まる世界が終るその前に。


「絶対に完走してみせる!!」


「話が変わってる!!」


 この激○乱舞を終らせるのだと、キングエルフは懸命に走った。

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