第1290話 どキングエルフさんと走れエルフ

【前回のあらすじ】


「……ふっ、勘違いするなよあんぱんの奴。俺様はお前に協力した訳じゃない。ただ、俺様以外のウイルスがお前を倒すのが嫌だっただけさ」


 突如キングエルフの前に現れた、紫っぽい体色のバイバイ菌っぽい奴。

 ここでさらに知恵の神側の資格かと思いきや普通に味方。ウィルスマン。いつもは囚人07号たちと対立しているが、未曾有の危機に敵味方の垣根を越えて協力するという、一番熱い展開を見せつけてくれるのだった。


「すみません、これ、一応我々が主役のストーリーなので、モブが必要以上にでしゃばるのは勘弁していただけませんか」


 かくしてキングエルフの手元に残りの【ダブルオーの衣】が全て揃った。

 後はどエルフさんに届ければ、この長く続いた第九部もようやく終わりを迎える。急げキングエルフ。迎えキングエルフ。この戦いを終らせるために……。


「いや、このタイトル不安だわ。メロスネタが好きな作者的に不安しか感じないわ」


 いすゞのト○ックかもしれないじゃないですか。


 とにかく、キングエルフよあとは合流するだけだ。


 クライマックスだよどエルフさん、キングエルフ怒濤の疾走編始まります。


◇ ◇ ◇ ◇


「これでようやく【ダブルオーの衣】が揃った訳か……なんだ?」


 遠い空で何かが爆ぜる音がする。

 キングエルフが振り返ると、遠くに見える空が赤く燃え上がっていた。

 それは街が燃える炎。


 知恵の神の都市ア・マゾ・ンが突如として炎に包まれた。

 先日、ワンコ教授達が放ったミサイルが、知恵の神の都市を襲ってから随分と時間が経っているが――。


「なにかあったのだろうか?」


 燃えさかる神々が鋳造した都市。

 空へと登る炎の柱。それはまるで神に捧げる儀式のよう。無宗教のエルフ族、その長たるキングエルフは天を赤く染める炎の柱を沈黙と共に見上げていた。


「どうやら最終決戦が始まったようだな」


「最終決戦?」


 切り出したのはウィルスマン。彼は腕に付けていたデバイスを起動させると、空中に立体映像を投射した。そこに表示されたのは巨大なロボット。

 ずんぐりむっくりとした体躯。起き上がりこぼし。いや達磨か。青い身体をした独特のフォルムをしたそれに、キングエルフが顔をしかめた。


「あれが知恵の神の切り札。この世を破壊する知恵と科学の力を持ちながら、ア・マゾ・ンの地下深くに眠っていた伝説の巨神兵『ド・ラー』だ」


「どうしてそんなものが」


「黒幕が動かしたのだろう。となれば破壊神側の都市も動く」


「破壊神側も?」


「巨大ロボの建造はむしろこちらの領分だからな。三都市に眠っている巨大ロボが、状況を察知して動き出すはずだ。この大陸が放棄される前にも起こらなかった最終戦争。まさか、こんなことになろうとはな……」


 ウィルスマンの顔に汗が滲む。冗談を言っている訳ではなさそうだった。

 神々が鋳造した最高決戦兵力がぶつかりあう。それがどれほどの破壊のエネルギーを生み出すのか。かたや、その一方は破壊の神である。その気になれば、人類・文明・生命のありとあらゆるものを滅ぼすその叡智が、全力で放たれる――。


 世界最後の日。


 キングエルフの脳裏を焼けた原野のイメージが駆け巡る。

 そのような事態を起こしていいはずがない。


「なんとか、世界の崩壊を止めなくては。はやく【ダルブルオーの衣】をフェラリアに委ねなければ」


『キングエルフ!! 首尾はうまく行ったか!!』


「ブラジャー!!」


 キングエルフ達がいる刑務所に巨大な船影が落ちる。駆けつけたのは宇宙戦艦オーカマ。響く艦長の声に天を見上げたキングエルフ。

 そんな彼に向かって、格納庫から機械鎧が舞い降りる。


 ピンクと青の機体。乗っているのは仮面の騎士と少年勇者の二人だった。

 続いて、中央大陸からかけつけたメンバーの乗った機械鎧が着陸する。


 メンズエステ隊全員集合。

 彼らはキングエルフの名を呼ぶとハッチの中からサムズアップした。


 どうして彼らがこんな所に――。


 その時、久さしぶりに険しい艦長の声が空に響いた。


『聞けキングエルフ!! あの巨大なロボを止めるために、オーカマ本艦はこれから玉砕覚悟で突撃を行う!! お前達メンズエステ隊は、ここから別行動でキングエルフの妹と合流しろ!!』


「そんな!! お前が囮になるというのかブラジャー!!」


『心配するな!! もとより我々はこの世界の崩壊を止めるために、ここに来ているのだ!! 討ち死には覚悟の上というもの、どうか気にしないでくれ!!』


 ア・マゾ・ンで暴れる巨大ロボ。

 それを止める戦力――純粋に質量を持っているのは戦艦オーカマくらいだろう。

 彼らが特攻する他にこの危機を止める手はない。

 しかしその巨体をぶつけても、せいぜい足止めがいい所。


『お前の妹に【ダブルオーの衣】を届けるんだ。破壊神の力が発動するより早く、人の手に与えられた彼の神の力でこの危地を脱しろ。それしか、もう手はない』


「……分かったブラジャー!!」


『……短い間ではあったが、お前と共にこの世界のために戦えたことを私は誇りに思う!! 以上だ!! メンズエステ隊の健闘を祈る!!』


 通信の途絶と共にオーカマの推進部から眩い光が放たれる。

 轟音を上げた白い戦艦が、まるでミサイルのようにア・マゾ・ンへと飛んでいく。ア・マゾ・ンの街にそびえ立つ巨大ロボ。その膨れ上がった腹部を船首が穿てば、巨大な塔のような巨人の身体が大きく揺れた。


 だが、揺れただけ――。


「いくぞみんな!! ブラジャーの覚悟と犠牲を無駄にする訳にはいかない!! 彼が巨大ロボを押さえてくれている間に、フェラリアたちと合流するんだ!!」


「「「「「了解!!」」」」」


「メンズエステ隊出撃!!」


 キングエルフを先頭に駆け出すメンズエステ隊。

 留置所の壁をミサイルで破壊して脱出すると、彼らはがんばれロ○コン村の中央道路を駆けてイーグル市へと向かうのだった。


 この戦いに終止符を打つために。仲間達の思いに応えるため。


「走れキングエルフ!! 妹のために!! 妹に【ダブルオーの衣】を届けるために!! たとえこの足が砕けようとも!! 俺はやり遂げてみせる!!」


「……キングエルフ、すげえ気迫だ!!」


「……まるでいつものキングエルフさんとは違う!! これがキングエルフさんの本気!!」


「必ず、あの邪知暴虐の神を打倒してみせるのだ!!」


 ただのメロスパロだった。

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