第1289話 どキングエルフとウィルスマン

【前回のあらすじ】


 囚人006号を倒したと思いきや、囚人007と囚人008号という追加戦士が現れる。あぁ、これがどエルフさん最強囚人戦編か。


 しかし、エルフリアン柔術に敗北もなければ撤退もない。

 まだまだやれるぞと構えたキングエルフに、彼らは手を挙げて待ったをかけた。


「いや!! 待って待って!! これにはちょっと誤解があってさ!!」


「そうそう、落ち着いて話し合おう!! 我々は分かり合える!!」


 実は【ダブルオーの衣】を身に付けた囚人三人は、がんばれロ○コン村を守っているELFたちだった。彼らは、謎のウィルスの蔓延によりELFたちがゾンビ化するのを防ぐために戦っていた。


 顔がないのは激闘の中で負傷したため。囚人として捕まったのは、街を守るためとはいえ罪なきELFたちを手にかけたから。

 囚人007号たちはまさに正義のELFたちだった。


 そんな彼らと和解してキングエルフは【ダブルオーの衣】を手に入れる。

 そして――。


「なんじゃなんじゃ、面白くないのう。もうちょっと派手に戦えばいいのに」


「……爺さん。せっかくいい感じに話がまとまったんだから、水を差さないでくれ」


「……あれ? よく見たら、ジャム博士じゃないですか!!」


「……本当だ!! 我々を作ったマッドサイエンティスト、ジャム博士!!」


 同じ独房の牢名主が、囚人007号たちの産みの親。

 マッドサイエンティストだという小ネタに、「多いなこういう展開」とキングエルフはちょっと辟易とするのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 酒浸りになった新しい顔を付けた囚人007号と囚人008号。

 匂い立つ桃缶とパイナップル缶のシロップの香り。新しい顔と言われて出されたが、本当につけるとは思わなかったと、キングエルフが青い顔をする。


「……うっぷ。あんぱんの、惣菜パンのシロップ漬けは流石に難があるな」


「……食パンの、今日だけはお前が羨ましいぜ」


「ほれ、006号。お前さんも。スパイシーなカレーによく合う、みかんシロップ漬けの顔じゃぞ」


「「やめてあげてくださいジャム博士……」」


 思わぬ素性をしていた牢名主。ただの酔いどれのおっさんだと思っていたら、ぜんぜんそんなことはなかった。このヒーロー型ELFを作った技師だった。

 それが、酒の密造で捕まってしまうとは、ちょっと言葉に困る。


 自分が作ったELFたちを修理し終えて満足したのだろう、またどぶろくをあおった牢名主。すると、彼は急に鋭い視線をキングエルフに向けた。


「さて。【ダブルオーの衣】を集めており、ワシの作ったパンモデルヒーロがこうして収容されているということは、なにやら抜き差しならない事態が起こっているようじゃのう……」


「爺さん!?」


「なに。一年に数度ほど、アルコールが良い塩梅に切れて正気に戻るときがあってのう。この一連の騒ぎのおかげで、こうして元に戻れたというわけじゃ」


 それまでの穏やかな雰囲気がスッと消えた牢名主。

 彼はキングエルフの方を品定めするように見据えるとふっと微笑んだ。この男になら、この街の平和を任せられるという感じに。


 全裸すっぽんぽんの筋肉エルフをどう見たらそう思えるのかは謎だったが。


「久しぶりに各都市の博士達に連絡を取ってみるとしよう。どエルフ線の研究者の浜乙女博士。怪人製造の第一人者、ドクターオクトパスくん。彼らの力を借りれば、何かワシらにもできることがあるかもしれん」


「……協力してくれるのか?」


「当たり前じゃろう。ここはワシらの住む街じゃ。自分達の住む場所も守れないようでどうする。外部からきたお前さん達に任せっぱなしとあっては――ワシらも立つ瀬がないというもんじゃて」


 さぁて、久しぶりに仕事じゃと意気込む牢名主。【ダブルオーの衣】を脱いだ囚人達も彼に続く。留置所のメンバーもこれは承知だったのか、正気に戻った老人に敬礼するとすぐに道を譲った。


 あわただしい展開だったが万事丸く収まった。


「あとはこれを、フェラリアに無事届ければいいだけ……」


『おっと、そうは問屋が卸すかな……』


「……何奴!?」


 その時、また留置所で悲鳴が上がる。

 グラウンドに出ていた囚人達が指差すのは、高い塀の上を飛んでいる紫色の円盤だ。丸く透明なコクピットの中には、真っ黒な肌をした異形のELF。凶暴な面相をしてそいつは、ギザギザとした牙を剥いて微笑んだ。


 透明だが汚らしい唾が糸を引く。

 その醜悪さに緩んだキングエルフの股間が締まる。

 どうやら一難去ってまた一難のようだ。


「私の名前はウィルスマン」


「う、ウィルスマン!! なんてことだ!! 絶妙に使われていそうで、使われていなさそうな、昨今の事情を考えるとセンシティブなパロ名!!」


「そこにいるあんぱんの顔をしたELFの宿敵。そして、このがんばれロ○コンいちの嫌われ者とは俺さまのことよ」


「……まさか、この混乱に乗じて街を破壊しようというのか!! 許せん!!」


 キングエルフが身構える。

 対空戦闘の心得はない。相手は鋼の円盤。

 けれども、ここで退くわけにはいかない。


 目的の【ダブルオーの衣】を手に入れた。妹の危機を救うために、一刻も早くこの場所を離れてイーグル市に向かわなければならない。

 一度は解いた闘気をまとって、再びキングエルフが敵に向かう。


 鋼の船がなんだというのか。鍛えた手刀はそれよりも硬い。

 そう信じて、キングエルフは拳をつきだした。


「邪魔はさせぬぞウィルスマン!! 来い、エルフの底意地を見せてやる!!」


「あ、違う違う。ちょっと、あんぱんの説明してくれ」


 と、ここでまた間の抜けた返し。

 ごめんごめんと後ろから駆けてきたのは囚人007号だった。


「いやー、ウィルスマンにも今回は協力してもらっててさ。謎のウィルスが蔓延するのをウィルス使いの権威としてアドバイスを貰ってたんだ」


「アドバイスだけじゃないぜ。俺様の手により完全に封じ込めてやったわ。おかげでこのがんばれロ○コン村では、感染者は今やゼロ。ウィルスは絶滅だ」


「いやー、済まないなウィルスマン、急に無茶な頼み事をして」


「……ふっ、勘違いするなよあんぱんの奴。俺様はお前に協力した訳じゃない。ただ、俺様以外のウイルスがお前を倒すのが嫌だっただけさ」


 バトル漫画の熱い主人公とライバルのような会話。

 顔をまみえれば争い合う。だからこそ、共通の危機には誰よりも心強いパートナーになる。拳を交えて戦う男たちにしかない確かな絆がそこにはあった。


「すみません、これ、一応我々が主役のストーリーなので、モブが必要以上にでしゃばるのは勘弁していただけませんか」


 そして、実の妹が言うようなツッコミを入れてしまうキングエルフなのだった。

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