第1288話 どキングエルフさんと連戦

【前回のあらすじ】


 エルフリアン柔術は不敗!!

 たとえ炎にその身を焼かれようとも、不死鳥のように蘇るのだ!!


「いやだから。よくあの兄貴は私が火炎魔法で焼いてるから……」


 火炎放射攻撃を受けて火だるまになったキングエルフ。まとわりついた炎を、囚人服を破いて無効化すると彼はいつもの戦闘スタイル(褌一丁)に戻った。

 こうなってしまえばこちらのもの。


「ゆくぞ、エルフリアン柔術奥義【白線流し】!!」


 キングエルフの白褌が大蛇のように揺れて囚人006号を惑わす。


 しかしそれは質量を伴った残像。

 揺れる褌さえもキャストオフして、キングエルフは囚人006号の背後に回っていた。その逞しい二の腕が敵の体を締め上げて、丸太のような脚が大地を踏みしめる。

 繰り出すのは必殺の――。


「エルフリアン柔術奥義!! 【地球けん玉】!!」


 ジャーマンスープレックス!!


 火を噴く寸前で頭部を地面に押しつけられた囚人006号は、哀れ自らの発した業火によって身体を内から焼いて機能停止するのだった。


 力だけが全てではない。

 己を知り、敵を知り、技を知れば、たとえ非力なエルフでも相手に勝つことは難しくない。そう――やはりエルフリアン柔術は異世界にて最強。


「ふうっ。力に溺れるとはまさにこのこと。ゴリ押しではエルフリアン柔術を破ることはできない。これがエルフの知恵というものだ」


 キングエルフは無事、囚人との戦いに勝利したのだった。

 讃えよ!! エルフリアン柔術!!


◇ ◇ ◇ ◇


「くっくっく……どうやら、囚人006号がやられたようだな!!」


「仕方ない、そいつは我ら【ダブルオーの衣】囚人衆の中でも最弱。喉から火炎放射するしか能がないパワー系キャラ」


「……なに奴!!」


 囚人006号を倒した直後グラウンドに謎の声が響いた。

 キングエルフと【ダブルオーの衣】をまとったELFの激戦により、辺りには土煙が舞っている。その中を、ゆっくりと歩いてくる影が二つ。


 赤い【ダブルオーの衣】を身に纏った二体のELF。


「我こそは囚人007号。またの名を……【カバ○くんのい食欲に付き合いすぎた○ン○ンマン】!!」


「なに、お前が【のっぺらぼう】だというのか!?」


 まず最初に姿を現わしたのは中肉中背の囚人。

 彼は喋ってはいるが囚人006号と同じように頭部が欠損したELFだった。


 これはどういうことだ。囚人006号が【のっぺらぼう】ではなかったか。

 混乱するキングエルフの目の前で、さらに衝撃の人物が現れる。


「驚くのは私の顔を見てからにしてもらおうか」


「……なっ!! お前は!!」


「我こそは囚人008号。またの名を……【実は自前のパン工場を持っている自己増殖型完全生命体のショ○パ○マン】!!」


「なっ……【実は自前のパン工場を持っている】だって!?」


 そう。またしても頭部の欠損したELFだった。

 どちらが爺さんの言っていた【のっぺらぼう】なのか。

 いや、それは自分から名乗っている奴がいるのでそっちで間違いないのだが――どうして【ダブルオーの衣】を着た奴らが、全員頭部が欠損した状態ないのか。


 これは偶然かそれとも何か意味があるのか。

 キングエルフが構えをとる。先ほど倒した囚人006号も、なかなかに手こずる強さのELFだった。彼らも同じ程度の実力は備えているように見える。


 連戦。しかも二人を相手に。やれるのか――。


「いや、エルフリアン柔術は無敵!! ここで退くわけにはいかぬ!! こい、最強囚人どもよ!! 何が最強か、誰が最強か、分からせてくれるわ!!」


 キングエルフ一歩も退かず。

 その場に踏みとどまって構えを取った。

 後の先、いや先の先と、強敵を相手に戦い方に頭を巡らす。


 すわ、その手が本物の【のっぺらぼう】に伸びようかとした時であった――。


「いや!! 待って待って!! これにはちょっと誤解があってさ!!」


「そうそう、落ち着いて話し合おう!! 我々は分かり合える!!」


 囚人二人が待った待ったと手を挙げたのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「そもそも、我々は【ダブルオーの衣】に自我を奪われていない。そっちの【住所こそあるけれど職業不明なカ○ーパ○マン】は、ちょっとキレて暴走してたけれど」


「そうそう、そいつが分別と常識がないだけで、我々はまともだ。死刑囚として捕らえられたのには理由があるんだ」


 囚人007号と008号が言うことには。


 そもそも彼らはがんばれロ○コン村で自警団的な活動をしていた。

 しかし、妙なウィルスに感染したELFたちが暴れ出し、さらにウィルスが街に広がりそうになったので、やむを得ずそのELFたちを破壊して回っていたのだ。

 顔がないのはその激戦の中で負傷したから。


「まぁ、顔なんて飾りだからな」


「メインモニターがやられてもやれますからね」


 満身創痍で戦い続けた三人は、とりあえず表立って暴れていたウィルス感染ELFたちを駆除すると、自ら警察に出頭。法にその身を委ねることにしたという訳だ。

 もっとも、囚人006号だけは不服だったようで、扱いの悪さと相まってこうして暴れ出してしまった――ということらしい。


「なるほど。すると君たちは囚人ではあるが悪人ではないと」


「がんばれロ○コン村を守りたいという気持ちは同じさ」


「むしろ、風の噂に君が【ダブルオーの衣】を集めていると聞いて、渡そうと思っていたくらいだ」


「……むぅ、なんだかかたじけない」


 すっかりと和解したキングエルフと囚人たち。

 騒ぎの方もおさまって、脱走を企てようとした不逞のELFたちも捕まった。

 囚人006号だけはちょっと酷い状態になっているけれど――まぁ、自業自得ということでいいだろう。


 これにて一件落着。


 囚人007号とキングエルフは硬く握手をして話を終らせにかかった。


「なんじゃなんじゃ、面白くないのう。もうちょっと派手に戦えばいいのに」


「……爺さん。せっかくいい感じに話がまとまったんだから、水を差さないでくれ」


「……あれ? よく見たら、ジャム博士じゃないですか!!」


「……本当だ!! 我々を作ったマッドサイエンティスト、ジャム博士!!」


「またマッドサイエンティストネタか……」


 牢名主の割り込みに囚人007号たちが驚きの声をあげる。

 どうやらこの飲んだくれの爺さんが、彼らELFを作ったらしい。

 

 密造酒を造って悦っているだけのただの爺さんではなかった。牢名主は「フォッフォッフォ」と、今まで一度もしなかったような笑い声をあげると、その懐からふやけたパンを取り出した。


「そりゃ、お前達新しい顔じゃぞ。どぶろく作るのにふやけてしもうたが」


「「僕たちの顔で密造酒を造るのはやめてください!!」」


「いやだって、もったいないじゃろ。お主らちょっと濡れたくらいで交換しろって言うんだもの。エコじゃよエコ」


「「犯罪ですよ!!」」


 マッドはマッドでも、方向性が緩い感じのマッドっぽかった。

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