第1287話 どキングエルフさんと拘束具

【前回のあらすじ】


 キングエルフVS囚人006号。

 顔のない死刑囚【のっぺらぼう】あるいは【カバ○くんのい食欲に付き合いすぎた○ン○ンマン】が、留置所を破壊しようとする中、果敢に挑んだキングエルフ。

 エルフリアン柔術に数少ない、直接打撃系の攻撃で挑みかかるも、顔がない人間には攪乱系の攻撃は意味が無い。


「……ぐぉおおおおおお!!」


 顔もないのにうなり声を上げる囚人006号。

 頭の外れた首の先からくゆるのは赤い炎。次の瞬間には、キングエルフの身体は紅蓮の炎に巻かれていた。


「「「き、キングエルフ!!!!!!!!」」」


 はたしてキングエルフの鍛えた身体は炎に打ち勝つことができるのか。

 エルフリアン柔術は火炎放射に耐えることができるのか。


 いや――できる!! できるのだ!!

 エルフリアン柔術はファンタジー最強の柔術!!

 こんな雑な火炎放射攻撃に負けるはずがない!!


 立て、立つんだキングエルフ!! エルフリアン柔術のために!! エルフリアン柔術を学び、世に立ち向かわんとする弱きエルフたちのために――!!


「いや、あいつ結構、アタシの火炎魔法喰らって平然としてるから大丈夫でしょ」


 モーラさん、そういうメタ的なツッコミ入れない。


◇ ◇ ◇ ◇


 たちまち燃え上がるキングエルフの身体。

 囚人006号の首から炎が止まったのを機に、キングエルフはその肩を蹴って大きくまた跳躍した。まるで柔術ではないアクロバティックな動きはともかく、不死鳥のようにその身体が舞い上がる。


「ふぬぁっ!!」


「「「あぁっ、キングエルフの囚人服が、まるで鱗粉のように!!」」」


 爆散したのは彼の囚人服。

 キングエルフは、紅蓮の炎が巻き付いた囚人服をはち切れさせて強制的に脱いでみせた。それはさながらフェニックスが灰の中から復活するよう。真白い肌は汗にこそ濡れているが焼けてはいない。咄嗟の早脱ぎが彼の命を救った。


 いや、それだけではない――。


「ふふっ!! 囚人服のせいで身動きが取りづらいと思っておった所よ!! むしろ脱ぐ手間が省けたというもの!!」


「なるほど、キングエルフどのは裸身にて戦う流派であった」


「たかが囚人服なれど、いつもと違う装備には調子も狂うというもの。しかし、それもこれまで。これからが真骨頂」


「けっぱれ若いの!! えぇ酒のつまみじゃ!!」


 独房仲間に応援を背にしてキングエルフが構えを獲る。白褌一つで敵に立ち向かう徒手空拳。危機を好機に変えて、彼は本来の戦闘スタイルを取り戻した。


 炎を履き終えた囚人006号が向けられた闘気にキングエルフの方を向く。

 顔もないのに分かるのか――ぐっとキングエルフは尻をすぼめて白褌をひきしめる。その彼に、荒々しく脚を踏みならして囚人006号が迫る。


 次に繰り出すのは渾身の張り手。

 振りかぶった右手を踏み込みと同時に突き出してくる。それは「大砲を至近距離を撃ち込んだ」ような恐ろしい打擲音と共にキングエルフの身体を吹き飛ばした。


 グラウンドを転がりながらも受け身をとり、すぐに構え直したキングエルフ。

 大ぶりの一撃を彼は柔らの技でうまくいなしていた。


 だが――。


「見ろ!! キングエルフの二の腕が!!」


「あっ! 赤く腫れ上がっているぞ!! ダメージを殺しきれなかったんだ!!」


「傷は浅いぞ若いの!! けっぱれけっぱれ!! 後で酒をかけちゃるからの!!」


 打撃のダメージを御しきれなかった。

 キングエルフが想像した以上の負荷に、彼の腕は赤く腫れ上がった。骨をやられなかったのは幸いだが、そう何度も食らえるものではない。


 強敵だなと珍しくその額にキングエルフが皺を寄せた。


「やれやれ、つくづく【ダブルオーの衣】とはおそろしいもの。ここまで人の身体を劇的に変えてしまうとは。神も残酷なことをする」


「……ぐるるるるるぅ」


「しかし!! そのような付け焼き刃が、研ぎ澄まし鍛えた真の肉体に敵うと思ったか!! 己の身体を知らずして、いかにして戦う!! 与えられた力に溺れるだけの愚か者に、己を知り敵を知り理を知るエルフリアン柔術は負けぬ!!」


「「「おぉ、言葉の意味は分からんが、すごい気迫だ!!」」」


「ゆくぞ、エルフリアン柔術奥義【白線流し】!!」


 キングエルフの腰に巻いた白褌がまるで意思を持ったように蠢いた。まるで大蛇のように鎌首をもたげたそれは、囚人006号を欺くように揺れる。

 またしてもエルフリアン柔術には珍しい目くらましの技。


 しかし、先にも言ったように相手には目がない。

 これは意味がないと誰もが思ったその時――。


「あぁっ!! 違う!! 白褌は気配を残すためのもの!!」


「質量を持った残像!! キングエルフさんの姿がない!!」


「まさかあやつ!! 全裸になりおったのか!!」


 揺れる白褌の根元にむくつけきエルフの姿がなくなっている。それに気がついた時には、彼は宙を舞って囚人006号の背後に回り込んでいた。

 そのまま脇からELFの身体を抱える。


「人の形をしているならば柔らの術は効くだろう!!」


 囚人006号の身体を抱き上げてそのまま身体を後ろへと反らす。鍛え抜かれたその脚が乾いたグラウンドを踏みしめる。膂力に任せてキングエルフは【ダブルオーの衣】に意識を奪われたELFの身体を抱え投げた。


「エルフリアン柔術奥義!! 【地球けん玉】!!」


 ただのジャーマンスープレックスである。

 頭のない囚人006号にはダメージは薄いかと思いきや――首から肩がめり込んだことで、火炎攻撃が使えない。奇しくも、再度その技を使おうとしていたのだろう、うなり声のような放射音は囚人006号の身体の中にこもり、その内側を焼いた。


 咄嗟に離れたキングエルフ。行き場のない灼熱の炎で自らを焼いた囚人006号は、それからしばらくして動かなくなった――。

 どうやらキングエルフの柔らの技が、【ダブルオーの衣】を制したようだ。


「ふうっ。力に溺れるとはまさにこのこと。ゴリ押しではエルフリアン柔術を破ることはできない。これがエルフの知恵というものだ」


「……いや、エルフキングどのも充分ゴリ押しでは?」


「めちゃくちゃ打撃系の技で決着つけてますやん」


「なんかしらんがよくやったぞエルフの!!」


 キングエルフ大勝利!!

 たたえよエルフリアン柔術!!

 やはり無敵だエルフリアン柔術!!


 割と今回は、まともな戦い方だったぞエルフリアン柔術!!


 弱きエルフの民のために編まれた技は、近未来系の世界でも通じるのだった。

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