第1286話 どキングエルフさんとのっぺらぼう

【前回のあらすじ】


 キングエルフINアバシリ監獄。

 気の良い独房の仲間達に迎えられた彼は、彼らからさっそく【ダブルオーの衣】についての情報を収集する。とはいえ、ここは監獄。

 基本的に囚人服は支給されたもの。【ダブルオーの衣】のような目立つ衣服なんて着ようにも着られない。当然のように有力な情報は出てこないのだった。


「……まぁ、赤い衣を着て黄色いスカーフを巻いたELFの話は聞かないが、おかしな男の噂については聞いたことがあるな」


「なに? 本当か、爺さん?」


 そんな中、牢名主の爺さんが妙な話を切り出す。

 顔がないELF。目が、鼻が、口が、眉が、存在しない囚人が、この留置所にはいるのだという。ELFとはいえ、そんな状態が普通であるはずがない。


 間違いなく【ダブルオーの衣】の力によるもの。


「老人、その顔がない虜囚の名は」


「素性不明のその囚人の名を誰も知らぬ。しかし、それでは我らも呼ぶのに困る」


「だろうな」


「ここの囚人および職人は、その顔のない男のことをこう呼んでおる――【のっぺらぼう】とな」


「……【のっぺらぼう】!!」


「あるいは、【カバ○くんの食欲に付き合いすぎた○ンパ○マン】と」


「……【カバ○くんのい食欲に付き合いすぎた○ン○ンマン】!!」


 果たしてこれはゴルカ○パロなのかアンパン○ンパロなのか。

 敵のパロ元が分からない中、今週もどエルフさんはじまります……!


◇ ◇ ◇ ◇


「起きろ起きろ囚人(正確には容疑者)共!! 朝のラジオ体操の時間だ!! きびきびとグラウンドまで移動しろ!!」


 キングエルフが留置所に入れられて一晩が経った。

 職員の声に布団から這い出したキングエルフ。同じ独房の囚人達と檻の外へと出ると、彼は職員達に追い立てられるように運動場に出た。


 乾いた土が塀まで続く運動場。塀の際に微かに雑草が生えているだけなのは、手入れがされているからか、それとも踏み固められているからか。自然の息吹の感じられるその土地に、少しエルフとして寂しさを覚える。


 そんな場所にひしめく囚人達。

 ざっと数えても百人はいるだろうか。

 よくもまぁこんなにも集めたものだなとキングエルフは感心した。


「心配しなくても、ここに送られてくる奴らはそんなたいしたことはしてねえ。平和な街だからな……それだけに、些細なことが問題になったりする」


 そう言ったのは独居房で一緒の元仕立て屋の男。「罪を憎んで人を憎まず。更生できる機会をちゃんと与えられるだけ、この街はまともさ」と、彼は随分と脳天気なことを言った。立場が分かっていないというよりも、がんばれロ○コン村の人間たちの気質なのかもしれない。


 なんにしても、彼の言う通り凶悪な感じのする奴らの気配はない。

 拘置所も兼ねており【死刑囚】も居ると言っていたが――そいつらはどうやら留置されているメンバーとは扱いが別らしい。


「その【のっぺらぼう】とやらに会えるかと思ったが、これは無理かな……」


「ラジオ体操はじめ!!」


 職員の声に合せて一斉に動き出す囚人達。

 その時だった……。


「待て!! 死刑囚006号!! なにをするつもりだ!!」


 職員の怒り声が響いたかと思うと、キングエルフ達が出てきた留置所がみしりと揺れた。何が起こっているのか。二階建のコンクリートの建物が、軋み、揺れて、それからまた静まりかえった。


「やめろ006号!! これ以上暴れるなら、発砲するぞ!!」


「……いや、ダメだ!! もう間に合わない!!」


「大変だ!! 建物が崩壊する!!」


 再び響く衝撃音。留置所の壁に亀裂が入ったかと思えば、一階部分――キングエルフたちが集まっている運動場の正面の部屋の壁が崩落した。

 中から出てくるのは赤い服を着た恰幅のいい男。


 首に揺れる黄色のマフラーは間違いない。


「あれは【ダブルオーの衣】!!」


 しかし、その首の先にはあるべきものがなかった。


 顔がないどころではない。

 頭そのものがない。


 頭部を失ったELF。デュラハンとでも言うべきだろうか。彼は、まるでその失った口で叫ぶ代わりのように留置所の中で四股を踏む。崩落した壁がそれでまた崩れ、ついには他の房の壁も破壊した。


「今だ!! 脱走するならこの隙しかないぞ!!」


「……まずい!!」


 囚人達の誰かが叫んだ。


 のんきな頑張れロ○コン村の住人ELFとはいえ、囚人には違いない。混乱に乗じて逃げ出そうという悪知恵を働かせるものが出るのは仕方なかった。

 しかし、【ダブルオーの衣】の持ち主を追って、潜入したキングエルフには不都合。ここで囚人達に逃げられれば、せっかく潜入したのが水の泡。


「前科だけついて(ついてない)、目的の【ダブルオーの衣】を逃がすなぞあってたまるか」


 一斉に逃げ出す囚人達に逆らってキングエルフが駆け出す。


 向かうは頭のない怪人ELF。

 まずは、アレを沈黙させてこれ以上の騒ぎを収束させる。


 死刑囚に近づこうとするキングエルフを制止しようと職員が飛び出してくる。その肩を蹴ると、キングエルフは高く宙を舞った。


 まるで鳥のように。

 あるいは蝶のように。


「喰らえエルフリアン柔術奥義【水鳥明鏡脚鳥のバタ足】!!」


 繰り出される雨のような蹴撃。まさしく、水面の下で必死に脚を動かす鳥の如く。それはエルフリアン柔術にしては珍しい積極的打撃の技であった。


 ただし、威力は見た目ほどない。

 腰を溜めて繰り出した回し蹴りの方がよっぽど痛い。

 格闘漫画の登場人物でもないかぎり、連続キックの威力なんてたいしたことない。護身術のエルフリアン柔術ではなおさらだった。


 ようは目くらましである。

 これを喰らえばたちまち相手はよろめいて体制を崩す。

 だが――。


「しまった、こいつに頭がないことを忘れていた!!」


 迂闊。繰り出した技は視覚的な効果も含めて、相手をひるませる攻撃。その視覚を持たない相手に対して、使ったのはキングエルフ痛恨のミスだった。


「……ぐぉおおおおおお!!」


 どこからともなくうなり声を上げる囚人006号。

 顔もないのにどうやって――そう想うキングエルフの視線の先で、切断された首の先から朱色の光が揺れた。


 まずいと身を引こうにも落下攻撃中。

 囚人006号の身体を蹴るよりも前に、その首から紅蓮の炎が噴き出してキングエルフの身体を包み込んだ。


「「「き、キングエルフ!!!!!!!!」」」


 同じ独房に入れられたELFたちが叫ぶ前で業火に焼かれるキングエルフ。

 はたして、エルフリアン柔術は火炎攻撃に耐えられるのか――。


 待て、明日!!(おざなりすぎるヒキ)

  

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