第1284話 どキングエルフさんと凶悪囚人衆編

【前回のあらすじ】


 どうしてこうなった。読者のわくわくとドキドキを返して。

 エルフVSロ○ビッチは、キングエルフのわいせつ物陳列罪&緊急逮捕という思わぬオチで幕を閉じるのだった。


 さらに悪い話は続く。


「えーっ、【ダブルオーの衣】? それならだいぶ前に人に売っちゃったよ?」


 既に【ダブルオーの衣】はロ○ビッチたちの手を離れていた。

 今時のギャルらしく、リサイクルショップに売り渡してしまっていたのだ。


 まぁ、普段着にするにはちょっと難のあるデザインの服。

 コスプレイヤーならともかく、流行の最先端を行くギャル達がそれを手放してしまうのも仕方ない話かもしれなかった。


 これで行方が分からなくなってしまったかと思いきや、つい最近捕まった犯罪者たちが【ダブルオーの衣】を着ていたという情報をキングエルフ達は掴む。

 剛運かそれとも悪運か。待っているのは喜劇か悲劇か。


 なんにしても。


(小声)『キングエルフ!! そのまま捕まって留置所に乗り込め!! そこで【ダブルオーの衣】を手に入れたと思われるELFと接触するんだ!!』


(小声)『なに!! この私に、なんの罪もないのに虜囚の身になれというのか!!』


 キングエルフは留置所に潜入し、【ダブルオーの衣】を着て暴れたと思われる犯罪者たちを調査するハメになるのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 がんばれロボコン村。アバシリ留置所。


 留置所なのにまるで監獄のような巨大なその施設には、平和ながんばれロボコン村で法を犯した者達が無差別で送られていた。


 平和ボケしたこの街で、犯罪なんて犯す奴らはたいてい凶暴な奴らである。

 警察ELFがいるとは言ってもすぐに駆けつけてくれるのは稀。さらに留置所の職員ELFも不足している。犯罪者たちが外に出て騒ぎを出さないようにと、施設を要塞化するのはある意味仕方のないことだった。


 そんな留置所に、一人のエルフがいま脚を踏み入れた。


 トレードマークのふんどしは作務衣によって覆われて、その野太い腕には木でできた枷がはめられている。


 囚人キングエルフ。


 見慣れない生身のエルフの収容に、留置所の連中がざわめきだつ。げへげへと、下品な声を上げる容疑者たちの間を抜けると、彼は相部屋へと通された。

 中からのっそりと出てくる四人の男達。


 キングエルフと同じ作務衣を着た彼らは、付き添いの職員が手枷を外して立ち去ると、値踏みするような視線を新たな同居人へと投げかけた。


「ほう、なかなか綺麗な兄ちゃんじゃねえか。良かったな、ここの奴らが女にしか興味のない奴らでよう」


 そう言ったのは熊のような大きな身体をした男。

 ボキボキと拳の手を鳴らしたそいつは、キングエルフを試すように手を差し出した。握り返せばキングエルフの顔が苦悶に歪む。


 クククと笑う男。

 どのエルフよりも強く気高いキングエルフ。

 そんな彼が、急に体勢を崩したかと思うとその場に膝を突いた。

 目は虚ろ。まるでまどろむように揺れている。


 そんな顔を覗き込んで、大男はいやらしく口の端を歪める。


「どうしたその顔は」


「……貴様、いったい私の身体に何をした」


「なに。ちょっとばかり、気持ちよくなるツボを押してやったのよ」


「……気持ちよくなるツボだと!?」


「あぁ。不眠、腰痛、肩こり、足のむくみ、もろもろに効くツボをな。どうやらお前さん、だいぶおつかれのようだぜ……」


 大男は元マッサージ師であった。

 施術中にうっかり女性ELFのデリケートな部分に触れてしまい、痴漢扱いされてこの留置所に送りこまれた男だった。

 ぶっちゃけ女性側の勘違いでありただの善人であった。


「ここにぶち込まれるまでに色々と酷い目にあっただろう。ゆっくり休め」


「……や、優しい!!」


 囚人からの思いがけない洗礼に驚くキングエルフ。

 そんな彼の背後に、そっと近づくもう一人の囚人の影があった。


「くくくっ、何をふぬけた顔をしていやがるんだ。こいつはとんだ甘ちゃんだが、俺はちがうぜ……」


「……はっ!! しまった、つい気が緩んで背後を!!」


「いい囚人服じゃねえか。新品だ。交換しようぜ、俺の使い古した囚人服とよう」


 そう言って男は無理矢理キングエルフの囚人服を引っぺがした。

 ふんどし一丁、いつもの姿に戻ったキングエルフ。なのになぜか彼は顔を赤らめて「陵辱される寸前のエルフ」みたいな表情をしていた。

 男なのに「や、やめて!!」とでも言いたげなリアクションをかました。


 露わになった胸板をその逞しい腕に抱いてキングエルフは男を睨む。

 奪った囚人服の代わりに、彼はどこからともなく取り出した囚人服をキングエルフに投げつける。きっとこんな感じで、新人から奪っているのだ――。


「いや、違う!! これはまさか!!」


「ふっ。麻で編まれた囚人服じゃ、この留置所の寒さはしのげねえぜ……」


 男から渡された囚人服は羊毛でできていた。触り心地も、着心地も、そして保温性も抜群。囚人服とは思えない上等な仕立てに、普段服を身につけないキングエルフもほっとした息を吐いた。


 男は元仕立屋のELFであった。

 彼もまた、業務中にうっかりと使用中の更衣室に入ってしまい、女性型ELFから訴えられて留置所に入れられた者だった。えん罪ではなく過失。そのことをしっかりと受け止めて反省している模範的ELFであった。


 こいつもまた熊みたいなELFと同じで良い奴だった。


「ふぉっふぉっふぉ。新人いびりはその辺にしておくんじゃ若い衆」


「「じじさま!!」」


 さらに奥から出てきたのは髪と髭の境目が分からなくなるほど毛むくじゃらのELFだった。こんな状態を留置所的には許していいのか――というのはさておき、先の二人の口ぶりからどうやら彼がこの房の長のようだった。


 どれどれよっこらしょとそこに腰を下ろした老人は、すっとその背中から缶を取り出す。赤さびが表面に付着したそれからは、なんとも言えぬ甘い匂いが漂ってくる。

 その匂いにはキングエルフも覚えがあった。


「……これは、まさかさ」


「しーっ!! 気づかれては台無しじゃ!! お前さんを歓迎するために作ったんじゃぞ!!」


「……す、すまない」


「さささ、ぐいっとぐいっと。こんな所にぶちこまれて、さぞ辛い思いをしたじゃろう。大丈夫じゃて、ワシらはお前さんの味方じゃ」


 そういうこの爺の正体は、昼はパン屋の店主として働き、夜はせっせと禁制の密造酒を造る闇の住人であった。


 彼だけはガチの悪人であった。

 物腰は好々爺だがバッチリ法に抵触する行動をしていた。


 世の中とはげに不思議なものである。


 とはいえ、気の良い同居人たちに迎えられたキングエルフ。マッサージか、それとも服か、はたまた酒のおかげか。緊張がほっとほどけた感じに彼はその場に尻をつくと、気の抜けたため息を吐き出すのだった。


「なんだ、留置所というからどんな所かと思ったが、意外とまともな所じゃないか」


「そうじゃろそうじゃろ」


「住めば都とはよく言ったもんですよ」


「まぁ、できるだけ早く外には出たいですけれどね」


 わははと陽気な笑い声が留置所に響く。流石は平和な村の留置所。凶悪犯と言っても、本当にたいした奴はいないのだった――。

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