第1283話 どキングエルフさんと臭い飯

【前回のあらすじ】


 キングエルフ緊急逮捕される。

 半裸の男がロ○ELFに声をかければ当然そうなる。

 今までこうならなかったことの方が奇跡。どうしてふんどし一丁の男が、祭でもないのに街を平然と練り歩いているのか。


 我々はこの長く続くトンチキサーガのせいで、いろいろと判断基準がおかしくなっていたのだ。下着一丁で活動するキャラクターなど居ていいハズがない。

 そんな奴が街に現れたら通報されてしかるべき。

 それを今回の事件でようやく思い出した。


 ファンタジーでも服は着よう。

 kattern先生との約束だ……。


「やめろっ!! 銃を向けるんじゃない!! だから私はただ、世界の平和のために【ダブルオーの衣】を手に入れようとしていただけで!!」


「フリーズ!! ドントムーブ!!」


「くそっ、いったいどう言えば分かってくれるんだ!!」


 かくしてキングエルフはかけつけた警察に取り押さえられた。まさか言葉を交わす前からやられてしまうとは。おそるべしロ○コン三銃士。

 はたしてこんな調子で三人は【ダブルオーの衣】を手に入れられるのか。


 エルフVSロ○ビッチの戦いは、まだはじまったばかりだ。

 エルフは捕まったけれども!!


◇ ◇ ◇ ◇


「えーっ、【ダブルオーの衣】? それならだいぶ前に人に売っちゃったよ?」


「おにーさんたち、あんなダサい服なんか探してどうしたいわけ?」


「ていうか、あっちで私たちとお茶しません? さっき、怖い半裸のエルフに襲われかけて、私ちょっと怖くなっちゃって。静かにできる所に行きたいなぁ……」


「いや、すまない。俺たちも作戦行動中でね、あまり君たちの期待には応えられそうにない。気持ちだけ受け取っておくよ」


 キングエルフからバトンタッチ。

 ロ○ビッチたちとの交渉の矢面に立ったのは、筋金入りと思われた仮面の騎士。

 彼はロ○コンたちをさんざんな目に遭わせたロ○ビッチたちに対して、やや優勢な立ち回りを見せていた。


 なぜか?


 理由はロ○コン三銃士のとろんとした瞳を見れば分かる――。


「そんなこと言わないで。ちょっとくらいなら大丈夫です」


「ねぇ、いいでしょお兄さん」


「私たちとほんのちょっぴり休憩しましょう」


「いやほんと、マジでそういうことしている場合じゃないんで。というか、俺はそういうのに興味があるキャラじゃないので。元ネタと違って」


 顔が美形だからである。


 仮面で隠しても、サングラスをしていても、素顔を晒してもモテる顔をしているからである。イケメンならたとえ内面がロ○コンでも許される。

 世の中はそういうものであった。そして、だからこそ元ネタは、あれだけ年下の女性から慕われるのだった。


 じとりと少年勇者の冷たい視線が仮面の騎士に飛ぶ。

 慌てて振り返ると、金髪美形の仮面男は弟分に弁解した。


「違うぞ。これはあれだ、【ダブルオーの衣】の情報を得なくちゃいけないから、仕方なくやっているだけであって」


「はいはい、そういうことにしておきましょうかね」


「本当なんだって!! 俺はロ○じゃない!! そういうんじゃないんだ!!」


 ロ○コンは決まってそう言って否定するんだ。

 言葉を重ねるだけ余計に深まる疑惑。せっかく首尾よく情報を手に入れたというのに、散々な扱いな仮面の騎士なのであった。


 さて、それはそれとして。


「参ったな。まさかロ○コン三銃士が既に【ダブルオーの衣】を手放していたとは」


「誰に売ったとかは覚えているんですか?」


「えー、古着屋に売っただけだから分かんないし。次に行った時には、もう売れちゃってたから、誰が買ったとかも分かんないし」


「そんな簡単に売らないでくれよ……」


 カジュアルに売りに出された【ダブルオーの衣】。

 しかし、すぐなくなったというのがちょっと気にかかる。

 言っちゃなんだが普段着にするには難のあるデザインをしている。「わー、これ、お洒落ー」と人が手にする姿はちょっと想像できない。


 もしかして先を越されたか。

 神造遺物を求める勢力に一足先に奪取されてしまったか。

 真相は分からないが、仮面の騎士と少年勇者は揃って顔を歪ませた。


 その隣で。


「おらっ!! パトカーに伏せろって言ってるんだ!! はやくしねーと、てめぇのその汚えふんどしに穴をあけてやるぞ!!」


「二つ目の尻の穴が欲しいのか!! 言うことを聞け、この変質者!!」


 どんどんとキングエルフが追い詰められていく。


 鍛えたエルフリアン柔術の技も、国家権力と法の前には無力。公衆の面前でふんどし一丁になってしまった罪と罰はあまりにも重かった。

 銃を向けられ、暴言を浴びせかけられ、なすがままに拘束される。

 助けてくれと視線を送ろうにも、仮面の騎士たちは【ダブルオーの衣】の行方について考えていて、こっちの惨状に気がつきもしない。


 もうクソミソな状況にぐすりとキングエルフが鼻を啜る。

 限りなく無敵な立ち回りをする彼にしては珍しく弱気な姿だった。


「ったく、最近こういう変質者が多いな。何人目だ、街で変な格好して暴れる奴と遭遇するのは」


「今週に入って四人目ですね。前の三人は、妙な赤い服を着てましたっけ。あれは取り押さえるのに本当に苦労しましたね……」


「……妙な赤い服?」


 その言葉にハッとキングエルフが反応する。

 仮面の騎士と少年勇者もだ。


「すごい筋肉や異能でしたよね。あんな風にカスタマイズされた戦闘用ELF、このがんばれロ○コン村ではあまり見かけないのに」


「ねぇ。なんとか街に被害がでなかったからよかったわ。今は留置所でおとなしくしているけれど、アレが暴れたら大変なことになるわよ」


「ひぇ。変な冗談はやめてくださいよ……」


 街の住人にしては珍しい戦闘用のELF。彼らが着ていた赤い服。そして三人。

 情報を統合すると、まず間違いなく【ダブルオーの衣】によって精神を攪乱されたELFによる事件とみていいだろう。


 そして、それは奇しくも現在一箇所――留置所に集められている。

 これはチャンスではないかと仮面の騎士が頷く。


(小声)『キングエルフ!! そのまま捕まって留置所に乗り込め!! そこで【ダブルオーの衣】を手に入れたと思われるELFと接触するんだ!!』


(小声)『なに!! この私に、なんの罪もないのに虜囚の身になれというのか!!』


(小声)『今はそんなこと言ってるばあいじゃねえだろ!! 世界を救うんだろう……泥くらいひっかぶれよ!! 大丈夫、あとでちゃんと助けにいくから!!』


(小声)『本当だろうな!! 頼むぞ!! このままわいせつ物陳列罪で有罪くらって、豚箱行きとかシャレにならないからな!!』


(小声)『そこまで分かってんなら普段から服を着ろよ……』


 災い転じて福と成すか。かくして、キングエルフが捕まったのを利用して、彼らはがんばれロボコン村で暴れたELFに接触することになるのだった。

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