第1280話 どキングエルフさんと宇宙戦艦六三四

【前回のあらすじ】


 がんばれロ○コン村の【ダブルオーの衣】を手に入れようと、ロ○コンに交渉しに行ったキングエルフ。しかし、そんな彼に無慈悲な拒絶が突きつけられる。


 というのも【ダブルオーの衣】は別のELFたちが管理していたのだ。

 その名も――。


「人呼んでロ○コン三銃士。彼女たちは、なんとうか――とにかく性格が悪くってさ。僕たちにまったく協力してくれないんだよ」


 頑張るロ○コン村長を、やぁいやぁい、ざぁこざぁこと罵って虐めるロ○コン三銃士。彼女たちに性癖という名のトラウマを植え付けられたロ○コン村長は、もうすっかりと彼女たちに立ち向かう気力を失っていた。

 それでも、南の大陸のためならと――交渉してみるよと言う彼に、キングエルフは提案する。


「いや、その必要はないロ○コン。苦手だというのなら、交渉はこの私が行こう」


「えぇっ!? キングエルフが!?」


「私はそんな悪辣な罵詈雑言に屈するような男ではない。エルフリアン柔術は、弱き身体を補う心を養う柔術。鍛えられた心の鋼を、安い言葉で貫けようものか」


 ロ○コン三銃士VSキングエルフ開幕。三枚の【ダブルオーの衣】をめぐる最後のトンチキがここにはじまる……。


◇ ◇ ◇ ◇


「という訳で、私とセイソ、アレックスの三人で、【ダブルオーの衣】を手に入れるべくロ○コン村に向かうことになった」


「……え、ちょっと待って聞いてない!? 行くの!? 俺がロ○コン村に!? 元ネタ的にヤバイ扱いされない!?」


「セイソさん、もうこれは覚悟を決めるしかないですよ」


 再び場所は戻って宇宙戦艦オーカマブリッジ。

 艦長に【ダブルオーの衣】の報告を上げたキングエルフは作戦行動を立案した。


 シンプルな顔をまた難しそうに歪めて艦長がその報告に頷く。

 彼としても特に異議はないようだった。


「分かった作戦を許可する。ただし、オーカマはここダイナモ市の防衛の為に動くのが難しい。ロ○コン村への移動は、悪いが機械鎧で森を抜けてもらうことになるが、それでも構わないか」


「大丈夫だ。なに、ロ○コンも村までは案内してくれると言ってくれている。それなら我々だけでも十分だ」


「……かなりの距離があるぞ?」


「舐めるなブラジャー。これでも私は森の民。エルフの王だぞ。このような森、生まれ育った魔法の森と比べればなんということはない」


 自信満々に胸を張ったキングエルフ。

 確かに、森の民に対して密林を行くのを心配するのは野暮だった。


「言うて、僕たちはエルフじゃないんですけれどね」


「迷ったらどうすんだよ。まったく、せっかく体調が戻ったってのに、変わらないんだからやんなるぜこいつはよう」


 自信満々なキングエルフに対して部下の仮面の騎士と少年勇者は普通の人間。

 冒険者の経験があるとはいえ、森に潜るのに彼ほどの自信はなかった。


 ただ、不平は言っても着いていく気持ちは変わらないのだろう、特にそれ以上何かを言うこともなかった。


 艦長、キングエルフ、仮面の騎士、少年勇者。四人がまた了解の沈黙を交わす。

 では、その方向でと話を進めようとした時だった――急にオーカマの船体が激しく揺れると、警戒音が艦内に響き渡った。

 咄嗟にキングエルフがその場に伏せる。


「何事だ!!」


「大変です!! ダイナモ市地下から巨大なエネルギー反応を補足!! これは……正体不明の巨大戦艦が地下からこちらに向かってきています!!」


「巨大戦艦だと!!」


「解析結果出ました!! ダイナモ市南方の湖から地底に向かって水が流入しています!! ダイナモ市地下には巨大な地底湖がある模様!! どうやらそこに潜伏していたようです!!」


「……謎の戦艦が潜伏だと」


「緊急入電!! どうやらその戦艦からの通信のようです!!」


 デッキ正面、大スクリーンに渋い爺さんの顔が表示される。ひと目見ただけで、キングエルフはもちろんその場にいたオーカマスタッフ達は、その爺さんがただ者ではないことを察した。


 自分達とはステージが一つ違うもの。

 神、あるいはそれに近いもの――。


『オーカマクルーの諸君はじめまして。私は、破壊神ライダーンの盟友にして、宇宙戦艦634の艦長だ。ここ、ダイナモ市の地底湖に潜伏し、南の大陸を脅かしている脅威と戦う時を待っていた』


「……634艦長、どうして今、貴方は我々に接触を!?」


「話は聞かせてもらった。ダイナモ市の制御と防衛は私に任せてもらいたい。君たちは、その戦艦オーカまで至急ロリ○ン村へと向かってくれたまえ」


「……助けてくれるというのか?」


「そう言っている」


 突如現れた謎の戦艦は、ダイナモ市の制御をオーカマに代わって引き受けると提案してくれた。これなら、森を機械鎧で越えるより遙かに安全にロ○コン村に向かうことができる。それは実に魅力的な提案だった。


 問題は、この男を本当に信じていいかだが――。


「心配要らない。この老いぼれに今更、南の大陸をどうこうしようなどという野心などない。君たちのような後進が動き出すまで、卑怯にも身を潜めていたような男だ。なんだったら、そちらからクルーを貸しだして欲しいくらいだ」


 そう告げる老人の目に覇気はなく、ただ何か責任めいた感情だけが静かに瞳に揺れていた。野心ある男の顔ではない。演じているにしても、ここまでの哀愁を出すことはできないだろう。

 キングエルフと艦長はすぐにアイコンタクトで意思疎通をすると、謎の戦艦とその主からの協力要請を受けることを決めた。


「分かった。こちらから必要な人員は派遣させてもらう。我々がロ○コン村に向かうまでの間、どうかこの地を守ってくれ」


「あぁ、任せてくれ。それよりもどうかこの南の大陸を救ってくれ。破壊神ライダーンが愛した、未来と希望のために造られたこの都市を、どうかそのあり方を歪めないまま眠りにつかせてやってくれ……」


 頼むと頭を下げた老人の姿に誰もが胸を打たれた。

 この老人がどうしてここまで破壊神に肩入れするのかは分からない。分からないが、その浪漫と心意気に、オーカマのクルーたちは呑まれていた。


 南の大陸に住むELFたちのためにも。

 女エルフのためにも。

 そして、この老人のためにも――。


「安心してくれ。私たちは負けない。ロリコン三銃士に屈したりなんかしない」


「おいそれフラグ」


 決意と共にキングエルフはぶっといフラグを立てるのだった。

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