第1276話 どワンコ教授と独裁スイッチ

【前回のあらすじ】


 ミニデラたち裏切る。

 密林都市ア・マゾ・ンのマザーコンピューターデラえもん。その補助ロボットのミニデラたちは、ワンコ教授の圧にやられてあっさりと裏切ってしまった。


 そう、圧。それは、今、最も熱い概念。

 女の子から放たれる「言わなくても分かるよね」というオーラ。理不尽に、時に自ら踏みに行く、ドMオタク向けのコンテンツ。

 一度ハマってしまえば抜けられない。底なしの快楽がそこにある。


 男の子は誰しもみんな、女の子に冷たい視線で怒られたいという願望を心の奥底に抱えているのだ――。


「いや、一部の人たちだけやがな。大げさ、大げさ」


 割と圧芸はこれからしばらく流行ると思うんですがね。

 VTuberラノベもそこそこ増えてきておりますし、そろそろラノベに輸入されてもいいんじゃないでしょうか。

 なんてことを言いながら、その「圧」の力を使ってミニデラたちを裏切らせたワンコ教授たち。彼女たちは、ア・マゾ・ンのコンピューターを一時的にスリープさせ、その隙に【ネズミ型ELF破壊爆弾】を探しに向かうのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


『こっちナリ、ケティちゃん!! ここがデラえもんがいざという時のために溜め込んでいた破壊兵器の格納庫なり!!』


「……わぁお。やるじゃん、ドン引きなんだけえど」


「なんですかこの見るからに禍々しい場所は」


「塔みたいなあれなんですか? もしかして武器ですか? エリィ、怖いです……」


「……まさかこんな大量破壊兵器を隠し持っていたとはな。いや、俺のようなコピーELFを使っている時点でそこは察するべきだったか」


 ミニデラに連れられてやって来たア・マゾ・ン格納庫。

 マザーコンピューターが設置されていた箇所からさらに地下奥深く。そして、広大な空間にはさまざまな兵器が格納されていた。中距離・長距離ミサイル。レールガン。音響兵器。そして戦闘機に機械鎧。


 ここにある兵器を全て放出すれば、この大陸はたちまちに火の海にすることができるのではないだろうか。いや、あるいは中央大陸さえも灰燼に化すことができる。

 破壊神側の都市も散々見て回った女修道士シスターたちだったが、そちらにも勝るとも劣らない武器庫の充実ぶりに、変なため息が口から漏れた。


 ただ、今は恐れおののいている場合ではない。


「一刻を争うでな!! どれ!! 【ネズミ型ELF破壊爆弾】は!!」


 デラえもんが目覚めるまでが勝負。ここに来るまでにも警備ELFたちと戦ったりして、そこそこ時間を消耗していた偽男騎士たちに余裕はなかった。


 溜めもなく振るわれた圧にぶるりと震えるミニデラたち。

 すぐに彼らはこっちですとワンコ教授を目的の物がある場所へと誘った。


 この大陸の【ネズミ型ELF】を全て破壊する爆弾だ。いったいどんな巨大な兵器かと思えば――なんてことはない、それはちょっとした大釜サイズの爆弾だった。

 これなら流石にワンコ教授にも使い方が分かる。


「これをボンバーさせればいいんだでな?」


『そうなり。基本的に、ボタンを押したらそのまま打ち上がって、大陸全土にウイルスを散布してくれるなり』


「わがっだ。そしたらやるでな。みんな、ちょっと離れて離れて……」


『ちょっと待つなり。爆弾を使う前にちょっと考えるなりよ。もしその爆弾を使えば、ケティちゃんの胸にいるネズ太郎も機能停止しちゃうなりよ。そんな、スナック感覚でボタンを押していいなりか?』


 ひょっこりとワンコ教授の白衣のポケットから顔を出すネズ太郎。

 彼が言い出したこととはいえ、確かにこの爆弾を使う意味は大きい。問答無用で大陸に住む【ネズミ型ELF】を破壊するのだ。そんな横暴な話があるだろうか。


 地球が破壊されないだけマシかもしれないが――葛藤もなく軽々しく押していいものではない。


「けど、押さないともっとひどいことなってまうでな。ポチ」


『『『あーっ!!!!』』』


 しかし、ピキっているワンコ教授には葛藤もへったくれもなかった。

 イケイケゴーゴーゴー、クレイジー超特急と化した彼女に怖いものなどない。

 デュハハハとワンコ教授が特徴的な笑い声を上げれば、目の前の爆弾が白煙を振りまいて天高く舞い上がった。


 その軌道を邪魔しないように天井が四角く開いていく。

 何層もあるア・マゾ・ン中枢部の隔壁は全て開かれ、やがて青い空が見えたかと思うとそこに爆弾は吸い込まれていった。


 しばらくして『ドン!』と豪快な花火の音が聞こえる。遠目には何も見えないが、どうやら爆弾は無事に作動したようだった。


 ホッとしたのも束の間、ネズ太郎がワンコ教授の胸ポケットでうなだれた。


「しっかりしろネズ太郎!! もう毒が回ったん!?」


「……みたいだぜ。どうやら、発射の時に出ていた煙にもウィルスが含まれていたみたいだな。これまでのようだ」


「うせやん!! しっかりしろネズ太郎!! ネズ太郎!!」


「……どうか、この大陸の、平和を、頼んだぜ、お前ら」


「ネズラーーーーーッシュ!!!!」


 ネズミなのに犬になっとるやないか。

 テンションがピキピキの実でキマってしまったワンコ教授はもうなんでもアリだった。配信でノリにノッてる感じだった。こういう意味分かんないノリが、時に笑いを呼ぶことをよく分かってるムーブだった。


 とにもかくにもネズ太郎は死んだ。

 女エルフたちに希望を託し、ドラドラセブンに操られるままの人生を裏切り、ついにその本懐を遂げた。もしELFに魂というものがあるならば、きっと彼の魂は望む場所にたどり着いただろう。それが天国か地獄かは分からぬが――。


「ネズ太郎。ケティは忘れんでな、お前のことを」


「私たちのためにありがとうございますネズ太郎さん」


「ネズ太郎。あとはエリィに任せるの」


「小さいながらも彼は立派な戦士だった」


 かくして南の大陸にウィルスが蔓延するのは防がれた。これで、ドラドラセブンもといデラえもんの野望はくじかれたのだ。

 だが、まだやるべきことは残っている。


「よっしゃ!! そしたら、次はネズ太郎の弔い合戦やな!!」


「……いやいや、なに言ってるんですか。このメンバーで反撃できる訳ないじゃないですか。急いで脱出しないと」


「なに言ってるのコーネリア。ここがどこだか、もっぺんちゃんと見てみ?」


 突如として過激なことを言い出したワンコ教授。ネズ太郎を倒された悲しみにヤケになっているのかと思いきや、ちょっと様子がおかしい。

 言われるまま女修道士シスターが辺りを見回せば、そこにはずらりと並んだ――凶悪そうな兵器がずらり。


 なるほど。


「あ、これ、行けるかもしれませんね」


「武器庫に入った時点で、ケティらもう勝ったも同然よ。デラえもんが動けないのをいいことに、この施設を無茶苦茶にしてやるでな……」

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