第1258話 どエルフさんとお嬢様の壁

【前回のあらすじ】


 まずは一つ!! イーグル市内にある【ダブルオーの衣】の回収に成功した女エルフたち。戦いの余韻もそこそこに、次の衣がある場所へと彼女たちは急ぐ。


「次の【ダブルオーの衣】は蒐集家が持ってるんだっけ。こんなものをわざわざ集めるだなんて、そいつもよっぽどの変わり者ね」


「アイテムを通して信仰というか、御利益というか、そういうものを求めてしまうのかもしれません」


 目指すはイーグル市の果てにある洋館。そこで待ち構えて居るのは、イーグル市の防衛を代々受け継いでいるタワーディフェンスお嬢様。さらに、どうやら彼女は【ダブルオーの衣】を身に付けて戦うタイプのようだ。


 エルフVSお嬢さま。

 はたしてこの戦いの軍配はどちらに上がるのか。

 というか、すごい勢いで【ダブルオーの衣】を回収しているけれど、それはいいのかどエルフさん。もっとこう、綿密に伏線を張り巡らせたストーリーがどうとかこうとか、そういうのはないのかどエルフさん……。


「しかし、そろそろこの章を終らせないと焦ってる感じね」


「壮絶にネタ切れかましてますね。やっぱり書籍化が切っ掛けで、WEB連載の感覚がくるった感じはありますよね」


「このまま超スピードでこの小説もたたむのかしらね……」


 小説の登場人物に心配されながらも、今週も本編はじまります。


◇ ◇ ◇ ◇


 イーグル市北東。鹿角館。古来よりイーグル市の鎮護を任された貴族がおさめる要塞兼居住のための館は、今やゾンビと化したELFたちに取り囲まれていた。


 なだれ込む正気を失ったELFたち。

 展開された隔壁により行く手を阻まれた彼ら。そこを備え付けの電磁兵器を浴びせかける。高圧電流により電脳がショートし次々にもの言わぬガラクタと化していく。

 人間のゾンビと違って、ELFたちは電子ウィルスによって混乱している。ウィルスが動作する電脳自体が壊れてしまえば、動けなくなるのは自明の理。


 しかし、その砲門をまさか市民に向けることになろうとは。


 代々この地を守りし一族の末。

 超硬ちょうかたい家当主のドリルは、その両の頬を流れる縦ロールを握りしめながら、次々に屠られていく市民たちを食い入るように眺めていた。


 悔しさに握りしめる縦ロールに力がこもる。

 金色のそれは持ち主の怒りに震えてそして伸びた。


「まさか念のために用意した対ELF用スタン砲を使うことになるとは……」


「どりる様。いまは有事にございます。下手な感傷は命取りですぞ」


「わかっておりますわセバスチャン。私も、心を鬼にして挑みます」


 その時、どりる達がいるバルコニーに慌てて一人のメイドが駆け込んできた。

 手には通信機器。砲弾が激突しても壊れそうにない、タフな外装をした無線機を抱えた小柄なメイドだった。


「どりる様!! セバスチャンさま!! 大変です!!」


「どうしましたの!?」


「イーグル市正面を迂回して、こちらに向かってくるELFの集団を確認。その数、約二千人」


「増援……? それくらいの数ならば対ELF用スタン砲で制圧できるのでは?」


「いえ!! やって来たのはゾンビELFではなく――正気のELFなんです!!」


 お嬢さま、セバスチャンの両方が目を見開く。


 生存者が助けを求めて鹿角館にまでやって来たのだ。もちろん、そういう想定を彼女達もしなかった訳ではない。多数の被害が出ているとは言っても、まだ無事のELFたちもいるはず。全てがゾンビと化したわけではない。


 そんな者達がもし、助けを求めて鹿角館へとやって来たらどうするのか。


 縦ロールから手を放してツメを噛むお嬢様。そんな彼女の肩をそっと支える執事。「恐れていたことが起こってしまいましたわ……」と、バルコニーの欄干を握りしめれば、みしりみしりと重たい音が響いた。


 苦渋を顔に溢れさせて執事が口ひげを揺らした。


「お嬢様。かねてより決めていた通りに事を運びましょう」


「……けれども、あの者達にはなんの罪もございませんのよ?」


「発症していないだけで既にウィルスに感染している者も中に紛れているやもしれません。隔壁を下ろせばそれでなくても、ゾンビELF達がそこに殺到することでしょう。もとより、助けることは困難なのです」


「……そうですわね。そう、そのとおりですわ。けれども」


「お嬢さまが決断できぬというのならば、この私が」


「いいえ、それだけはなりませんセバスチャン」


 肩を支える執事をそっと遠ざけてお嬢様が上半身を起こす。まだその表情の中には迷いが揺れている。そんな迷いを張り手で吹き飛ばす。両頬を挟むように叩いたお嬢様は、はっきりと迷いない視線で正面を見据えた。


「私はこのイーグル市を守る最後の砦。その全権を任されし者。その決定を誰かに委ねることなどあってはなりません」


「……お嬢さま」


「カトリーヌ(メイドの名前)!! 迂回してきているELFたちのいる方角はどちらでして!!」


「当館から見て南の方角になります」


 ゆっくりと身体を南へと向けるお嬢様。鬱蒼と茂る森林が広がるそこには、まだ戦闘の喧噪はない。おそらく、彼らも迂回してきているのだろう。

 隔壁は既に展開済み。そして、スタン砲もまた配備済みだ。


 合図一つですぐに事は済む。

 深呼吸。その大きな胸を揺らして縦ロールを閃かせると、かっとお嬢様は目を見開いて腕を上げた。突き出した指先が示すのは――南の森。


「対スタン砲発射!! 全責任はこの私が取りま――!!」


 そう言いかけた瞬間、彼女の視線の先で森が大きく弾けた。

 空高く舞い上がる瓦礫。それは隔壁の一部。正方形に切り抜かれた隔壁が、無惨にも宙に舞っていた。


 どうして、なぜ、何が起こっているのか。

 まさかゾンビ型ELFの中に、特殊な能力を持った物がいるのか。

 いいや、そんな容易に破壊できる隔壁では意味がない。


 人知を超えた何かが起こっている――。


 その時、メイドが手にしている無線から、謎の音声が聞こえてきた。


『どらっしゃぁ!! じゃまくさい壁ね!! なんでこんな森の中に高い壁があるのよ!! しかも何処にも隙間がないし!!』


『マスター、これたぶん防衛用の隔壁だと思いますよ』


『あーん、防衛用? なにから? なんのために?』


『いや、今まさしく、私たちが戦ってきたゾンビになったELFとかを通さないためのものですよ。分かるでしょ普通に考えたらそんなの』


『えー、モーラちゃんわかんなーい。ファンタジー世界の住人だから、こんなよくわかんない土地の常識とか求められても困りますぅー』


「「「……なんだこいつら?」」」


 困惑するお嬢様たち。

 逃げるELF達の中に紛れて、鹿角館へと侵入したのは他でもない。


 女エルフとELF娘だった。 


『ほら! アンタ達も早く入りなさい! ゾンビはアタシらが追っ払うから!』


『まだ先に何があるか分かりませんから気をつけてくださいね!』

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