第1257話 どエルフさんと蒐集家
【前回のあらすじ】
女エルフの放つ無尽蔵の【どエルフ線】。それを吸って巨大化していくどエルフロボ。渾身の女エルフのビーム攻撃も吸収されてしまえばこれまで。さらに、そのエネルギーでより凶悪に、凶暴に、そしてボインになっていくどエルフロボ。
もはやその姿はエルフとはほど遠い。
ただのボインロボ。おっぱいミサイルタンク。
こんな下品なロボットにいったいどんな需要があるのか。
というか、貧乳の女エルフに対してやめてあげて。自分のエネルギーを与えて、相手をボインにするだなんてどういう罰ゲームなの。
そうELF娘が思った時だった。
「いいえ違うわリリエル!! むしろボインボインだからいいのよ!!」
「えぇっ!?」
吸収してどんどんと巨大化したどエルフロボ。しかし、その圧倒的な質量とその身に宿したどエルフ線によって、その身体は制御不能に陥っていた。
さらに、地下深くまで続く研究所を這い出てきたのが仇となる。
どエルフロボの足下は彼女の肥大に伴い、その巨体を支えることができなくなり、一転して巨大な落とし穴へと変わり果てた。
「いかん!! すぐに飛ぶんじゃ、どエルフダイエース!!」
「させるかぁっ!! 魔法少女式ハイメガ粒子砲!! 200%ォオオ!!」
「ぎゅるぉぉおおおおおおおん!!!!!」
トドメのハイメガ粒子砲を浴びて、ついに体勢を崩したどエルフロボ。行きすぎた進化は身を滅ぼす。【どエルフ線】による急激な進化に耐えきれず、赤い巨大ロボットは地の底へと沈んでいくのだった。
その動力源となる、【ダブルオーの衣】だけを残して。
◇ ◇ ◇ ◇
深い深い縦穴に沈んでいったどエルフロボ。研究所の跡地に空いた巨大な洞を覗き込んで、女エルフがふうと息を吐く。その横では、宙に舞った【ダブルオーの衣】を回収したELF娘。二人して果てしない闇を覗き込んだエルフ主従。
なんでもありのどエルフロボ。
もしかすると、この穴からも這い上がってくるのではないかと思ったが――どうやらその様子はない。強力な自重をまだコントロールできないようだ。
そして、その進化を促していた【ダブルオーの衣】も奪取した。
「こりゃもう倒したと思ってよさそうね」
「そうですな。しかし、このまま地の底で一生、自分のボインに押しつぶされ続けると思うと、なんだかちょっと哀れですね……」
「ナイスバディってのも考え物よね。私は今の体型でよかったわ。ほんと」
いやそれは流石に強がりだろうとELF娘が渋い顔をする。
その横で、女エルフはさっさと魔法少女フォームを解除すると、どエルフロボが消えた大穴に背中を向けた。
こんなことに構っている場合じゃないという感じ。
どエルフロボの登場と破壊により、街を徘徊していたゾンビELFたちははけていたが――それも、すぐにまた戻って来そうな気配がする。
「さぁ、動き易い内に早く次に行きましょう」
背中のELF娘に声をかけると歩き出す女エルフ。すぐに彼女の背中を追ってELF娘も大穴に背を向けた。パラパラと路地裏から顔を出すゾンビELFたちに、魔法を喰らわせながら二人は大通りを郊外に向かうのだった。
「次の【ダブルオーの衣】は蒐集家が持ってるんだっけ。こんなものをわざわざ集めるだなんて、そいつもよっぽどの変わり者ね」
「さっきの研究者もそうでしたけれど、やっぱり神が造ったアイテムですからね。アイテムを通して信仰というか、御利益というか、そういうものを求めてしまうのかもしれません」
「それ、【ダブルオーの衣】を管理する立場のあんたが言うかしらね」
たははと笑いながらも女エルフ達の歩みは止まらない。
巨大ロボットとゾンビELFたちが廃墟を、女二人は力強く歩いて行くのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
一方その頃。
イーグル市郊外にある大きな屋敷。
まるで女エルフ達が暮らす中央大陸の豪邸のような趣がある洋館。2階建、瓦屋根の立派な白壁の邸宅。そのバルコニーから街を眺める影があった。
「どうやら市内で何かが起こっているようですわね」
「……は、そのようでございますねお嬢さま」
「セバスチャン。館の警護は大丈夫でして。この邸宅――鹿角館はイーグル市防衛の最後の拠点。いざというときには、イーグル市のELFたちを収納するシェルターの役割を担う場所」
「万事抜かりなく。メイド隊および戦闘執事が臨戦状態、また、隔壁を展開して押し寄せてくるゾンビELFを防いでおります」
「……そう。なら問題はありませんわね」
バルコニーに置かれた白い丸テーブル。そこに置かれていたティーカップを手にすると、優雅に口に運ぶ女ELF。金色の髪に縦ロール、白い肌にメリハリの利いた身体、そして滲み出る品のある仕草。
彼女こそ、ここ鹿角館の女主人にして、女エルフ達が求める【ダブルオーの衣】のコレクター。
「なんにしても、イーグル市の最終防衛戦を任された鹿角館当主、
「お嬢さま。それよりはまず、生き残ることが寛容かと思います。どうか、血気に逸って無茶はおこされませぬように」
「心配性ですわねセバスチャンてば。けれども、ここばかりは当主としての意地があります。この戦い、決して私は人後にはさがりませんことよ。ここで踏ん張らなければなんのための貴族か――この時のために、私は鹿角館の主の座に留まり続けていましたのよ」
血気盛んな女ELFの名は
イーグル市の防衛を任された由緒ある武家の娘。この街の成立から、都市の鬼門に居城を構え、有事においては内に外にと戦うことを宿命付けられた、戦闘用のELFであった。
見た目はまんま悪役&武闘派令嬢。だが、心は国を守る防人。女の身でありながらこの都市に住まうELFたちの身を案ずる女傑だった。
そんな彼女の視線の先に、波濤のように押し寄せるゾンビELFの群れが入る。
「どうやら来ましたわね」
「あの勢い。隔壁で押しとどめられるのは一時的なことかと。どうなされますか、お嬢さま?」
「ここが落ちればイーグル市の陥落は免れません。ここは心を鬼にして、彼らを行動不能にしましょう。責任は私が取ります。隣街のダイナモ市の怪人再生技術に期待をいたしましょう……!!」
お嬢様ELFのその言葉に恭しく頭を下げた執事型ELF。それと同時に、館の周囲に張り巡らされた防壁から、レーザーがゾンビの群れへと照射された。
イーグル市の果てで、今、静かにその存亡をかけた攻防がはじまった――。
「セバスチャン。いざという時のために【アレ】の準備も」
「かしこまりました」
「……どうか禁じ手だけは使わせないでくださいまし。私も、全てを破壊する忘我の力など用いたくはありませんもの」
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