第1214話 どエルフさんと超能力中年

【前回のあらすじ】


 女エルフとワンコ教授が駆け込んだ【能力抑制室】。その中で、彼女達を待ち受けていたのはなんだかくたびれた感じのおっさんだった。


「俺の名前はササヤマ。この高軌道エレベーター施設の主任研究員。という体で雇われているサイキックELFだ」


 高軌道エレベーター施設の用心棒。女エルフ達のような厄介な襲撃者を追い返す立場にある男は、黙っててやるから大人しくしろと自分の仕事を放棄したようなことを言い出す。どうにもやる気の無い用心棒だった。


 まぁ、敵意がないなら事を構える必要はない。

 要求を受け入れた女エルフ。疲れがたまって眠ってしまったワンコ教授が目覚めるまで、しばしその場で待つことにした。


 そんな彼女の前で、ササヤマはシュポっと煙草に火をつける。


「まぁ、その娘のお昼寝が終るくらいまで、ちょっと世間話でもしようかなってね」


「世間話?」


「聞きたくないか? この大陸の上空に、はびこっている青い雷の正体をさ?」


 怪しいキャラクターから飛び出した怪しい話。


 どうして一介のELFがそんなことを知っているのか。

 超能力者だからか。世界を裏で牛耳るキーパーソンとでもいうのか。

 この男、いったいどこまで信じられるのか。


 という所で、ここでちょっとアイスブレイク。謎の超能力者から、女エルフはこの大陸の謎について語られることになります――。


◇ ◇ ◇ ◇


「ちょっ、ちょっ、ちょっ!! ちょっと待って、黒幕に私たちの会話って聞こえてるんじゃないの!! そんないきなりこんな所で話し出して大丈夫なの!?」


 慌てて手を振ってササヤマの話を遮ろうとする女エルフ。

 けっこう前の話だけれど、覚えていたのかその内容。破壊神の盟友と地下湖で会談したときのやり取りを彼女は引っ張り出して話を止めた。


 もしその話が本当ならば、ここで彼が女エルフに肩入れしたことが黒幕に伝わってしまうかもしれない――。


「大丈夫。ここは【能力抑制室】だぜ。内側の能力も抑制されれば、外側からの能力も抑制される。この部屋に限っては、黒幕の諜報能力の範囲外だ。だからまぁ、安心して話してもらって構わないぜ」


「……そうなの?」


「まぁ、今この大陸を牛耳ろうとしている黒幕は、言っちまえば俺の親戚みたいな超能力者なのよ。だから、俺がここで能力をセーブされてるのと同じように、この部屋に干渉することはできないって訳」


「けど、貴方さっき能力を使ってなかった?」


「まぁ、俺くらいの超能力者となると、この程度のショボい能力抑制なんてあってないものさ」


 空中で指を振れば爪先に灯した炎が尾を引いた。

 へのへのかっぱと顔を描けば、それが生き物のように動き出す。

 女エルフがぎょっと目を剥くと、炎の絵はあっかんべえとばかりに目を見開いて、それからすっと立ち消えた。


 自慢げに顎をしゃくるササヤマ。

 超能力で炎を操ったのだろう。


 本当に彼が凄い超能力者なのか。それとも単にこの部屋の能力抑制の力が弱すぎるのか。女エルフには判断することができない。

 これが罠なら、聞いても聞かなくても同じこと。分かったわと女エルフは頷くとササヤマの前に移動した。まるで話がよく聞こえるように――とでも言いたげに。


 ササヤマが深く頷く。


 再び彼が指を振れば空中に像が結ぶ。

 それはどうやら、このイーグル市の上空の光景らしかった。ばちばち青白い稲光がたちこめるそれを眺めて、彼はちょっと真面目な顔をした――。


「まず、この霧と雷がそれぞれの街をコントロールしていることは知ってるな?」


「えぇ、それは前に教えてもらったわ」


「オーケー。まず最初にこの霧の正体だが。こいつはこういう生き物だ。お前達の世界でいう所の精霊――ランプの魔人のようなものに近い」


「……生き物なの?」


「あぁ、とても信じられないだろうがな」


 ササオカ曰く。霧の魔物は自らを霧と同じ成分で構成しているが、内部に魔術的な思考器官を持っており擬似的な生物として活動するとのこと。さらには、霧の魔物は自由に分裂融合を繰り返すことができ、それにより全体の意思疎通を驚異的なスピードで行うことができるということ。


 さながら賢過ぎるスライム。

 そんなものがこの大陸の空には広がっていたのだ。


「幸いな事に、この霧の魔物は海風にすこぶる弱い。また、生存のために定期的に、南の大陸の大地に還って必要な分子を補給する必要がある。なので、この大陸内にしか棲息していないが――もし中央大陸にまで蔓延っていたら、アンタ達新しい人類は滅んでいただろうな」


「……もしかして、この霧の魔物の目的って」


「いや、確かに霧の魔物は意思決定器官を持っているが、よくてスライムの上位くらいのものだ。自分の生存に直結するようなことは思考できるけれども、そんな陰謀めいたことを考えることはできない。どちらかと言えば、この霧の魔人をこの上空にまき散らした奴が問題だ」


「……まき散らした奴?」


 再び、ササオカがひょいと指を振れば今度は人物の写真が表示される。

 陰になったそいつらは大小様々な身長に、恰幅もそれぞれ違っている。

 十人十色という感じの集団だった。


 人数は――全部で七人。


「こいつらは?」


「南の大陸に霧の魔物を放った奴らだ。全部で七人居ることが分かっているが、詳細については不明。ただ、目的については分かっている」


「……今の人類の滅亡」


「そういうことだ。眠っていた都市を起動させ、再び新人類創造の営みを発生させたこいつらは、やがて来たる新たな人類の完成と、旧人類の殲滅のために動いている。新人類の創造については、もう霧の魔物に任せっきりだがな」


 またしても映像が切り替わる。表示されたのは大きな戦艦。

 この大陸に来てから女エルフ達が目にしてきたどの艦よりも大きいそれは、白い月を背景に暗い空に浮かんでいる――。


 その先端部には大きな砲身。いったい何を撃ち出すというのだろうか。

 女エルフにはこちらの文明のことはわかりはしないが、胸が異様にざわついた。


「こんなのが攻め込んできたら中央大陸はおしまいよ」


「だろうな。とにかく、奴さん達は今はこっちの船の建造にかかりっきりだ。やがてできあがった人類達を乗せて、中央大陸へと攻め込むための船。便宜上――『ノアの方舟』とでも言っておこうか」


「……ノアの方舟」


「お前さん達がこの大陸の霧を晴らしたら、次に戦うのはこいつってことだ。そして、戦場は間違いなくこの大陸の上空になるだろうさ」

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