第1212話 どエルフさんと狼女の血

【前回のあらすじ】


 女エルフとワンコ教授。二人で協力して高軌道エレベーター施設を攻略することになったのだが――さっそくトラブル。一階には多くのELFたちがひしめいており、見つからずに突破するのは不可能そうだった。


 なにか囮になるものがあればいいのだけれど。

 そう悩んだ矢先に、都合良く女エルフがとある魔法を思い出す。


「テレレレ!! 【幻覚魔法 吸血鬼生存者】~!!」


 今(2022/03現在)流行のそれは300円ゲームの奴。


 迫り来るモンスター達を、魔法のアイテムでなぎ倒して30分生き残るというシンプルイズシンプルなゲーム性にもかかわらず、中毒的な面白さをユーザーに与える脳内麻薬ゲーが元ネタの魔法だった。


 いや、うん、面白いっす。

 こういうシンプルなゲームでええんや。

 なんかごちゃごちゃ考えていろいろ計画立てるより、片手間でぽちぽちって楽しめるのがやっぱりおもしろい。ゲームってのは、これくらい大味の方がいいんだよ。


「……つまり、バカでも楽しめるってこと?」


 ゲームのファンを敵に回すこと言うんじゃありません!!


 なんにしてもこれめっちゃ楽しいです。いつか小説のネタ(これ一本でなんか書きたい)にしたいなと思っております。


 という訳で、ひしめくELFたちを囮の吸血鬼生存者で攪乱した女エルフたち。

 これでなんと1階を抜けて2階に迎える――と良いのですが。はたして、そうは問屋が卸すのか。という所で本編でございます。


◇ ◇ ◇ ◇


「……だぞ。すごいんだぞ。気がついたらみんなモーラの魔法の方に目が行ってて、周りが見えなくなっちゃってるんだぞ」


「はじめて実戦では使うけれどもすごい効果ね。やはり私のルルフ・シェルフがそれだけかっこいいってことよね。ふふふ、まぁ、当然よね。あんな良い男、人が放っておくはずないのだから」


(やっぱり自キャラへの愛着が濃すぎるんだぞ……)


 大フロアの端を歩いて二階へと続く階段に向かう女エルフとワンコ教授。

 こそこそと忍び足で歩いているが、既に大フロア内は大混乱状態。そんなことをしても気に留めるELFはいない。というよりも、大暴れする吸血鬼生存者に対応するので手一杯で、周りに気を使うものなど誰もいなかった。


「にんにく!! にんにく!! 聖水!! 十字架!! 鎌をくらえ!!」


「うぎゃーっ!! 痛くないのになんだこのやられた感は!!」


「くそっ、こんな中二病染みた奴にやられるとか、屈辱で死ねる!!」


「なにがヴァンパイアハンターだ!! 中学生時代に誰でも一度は考えるようなキャラクターのくせに!! ちくしょう、けど勝てないのが死ぬほど悔しい!!」


「やろうぶっ○してやる!!」


 どうやら中二病すぎる吸血鬼生存者のディティールに、みんな色々と思う所があるようだ。次々に向かってくるELFたちを、斬っては躱して惹きつける彼を、女エルフは期待に満ちた眼差しで、そしてワンコ教授は冷ややかな目で見守った。


 そんなこんなで二階の階段前。

 さっさと陰に隠れると、ふうと女エルフ達が息を吐いた。

 就業時間ということだろうか。階段に人の気配がないのはこれ幸いだった。


「さて、それじゃ次は二階だけれども。ちょっと複雑な通路になっているのよね」


「だぞ。通路を歩いてELFに見つかるのは避けたいんだぞ。こまめに部屋に入って身を隠して行くんだぞ」


「そうね……」


 再び地図を開いて女エルフ達がルート確認する。

 二階は小さな部屋が幾つも並んでいる。またしても今居る位置から反対の場所に階段があり、そこに向かうには――二階フロアの壁沿いの通路をぐるりと回ってたどり着かなければならなかった。


 一本道。ただ、隠れる場所がないわけではない。

 細かく区分けされた通路沿いの部屋。そこに隠れながら進めば、ELFに見つからずに三階に行くことはできるだろう。


「問題はどの部屋に入るかよね」


「だぞだぞ。会議中とかだったら鉢合わせちゃうんだぞ。人がいなさそうな所を狙って入らないとダメなんだぞ」


「まずはそうね――この【能力抑制室】って所に入ってみようかしら?」


「だぞ、【能力】ってなんの【能力】を抑制するんだぞ?」


「分かんないけれど、私たちそんなたいしたもの持ってないから別に入っても大丈夫でしょ」


 逆転の発想。

 悪の組織には絶対にある、超能力を封じるための特殊な施設。そこに、「自分達はそういうキャラじゃないから大丈夫」と、自分から飛び込んでいく勇気。

 女エルフは思いがけない度胸をここで発揮してみせた。


 確かに悪くない手だ。この手の部屋は施設でも持て余しているもの。それこそ、女エルフ達のような侵入者でもいないとまず使われることはない。


 ならきっと人はいないだろう。

 女エルフがそこまで考えて言ったかは定かではないが、ここはその部屋にまず入るのがよさそうだった。


 頷き合って意思疎通。すぐさま女エルフとワンコ教授が二階へと駆け上がる。

 そのまま目的の部屋――【能力抑制室】まで二人は一気に駆け抜けた。


 見られなければ多少音を立てても大丈夫だろう。荒っぽく扉を開いて中へと滑り込めば――そこは薄暗い、いかにもSFチックなお部屋。白塗りの壁に少し高い天井、何も置かれていない床と、まさに能力を抑制して何もさせないような意図を感じさせる意匠になっていた。


 その徹底した感じに、思わずぞくぞくと女エルフが肩を揺らす。

 施設に侵入してからこっち中二病心を揺さぶられっぱなしの彼女なのだった。


「やだ、なんだか本当にそれっぽい場所ね。能力者が入ったら、本当に普通の人間になっちゃうのかしら」


「だぞだぞ、別に見た目は変な感じはないんだぞ」


「これは本当に能力者を入れてみたいわね……」


 ほくほくとした顔でそんなことを女エルフが言ったまさにその時だった。

 ワンコ教授が突然胸を押さえたかと思うとその場に膝を突いた。


 顔は蒼白。脂汗があっという間に顔に吹き出す。白い床を眺める目はどこか胡乱で息も上がっている。後衛ということもあるが、ちょっと見たことない表情だった。


「ど、どうしたのケティ!?」


「だ、だぞ。なんだか急に胸が苦しくなってきたんだぞ」


「……もしかして、ケティってば何かの能力者だったの?」


「そんなことはないはずなんだぞ!! いや、けど――僕の祖先は確か、伝説に歌われた強い狼男だって聞いたことがあるんだぞ!!」


 まさかその血が暴れているのか。

 だとしたら、迂闊にたいへんな部屋に入ってしまった。


 うっうっ、うわぁと叫ぶワンコ教授。

 ついに彼女はその場にうつ伏せに倒れ込むとぴくりとも動かなくなってしまった。はたして、彼女の運命やいかに――。


 明日につづく!!

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