第1210話 どエルフさんと突撃高軌道エレベーター

【前回のあらすじ】


 エルフとしてさらなる高みに登るべく、男騎士からキッカイマンとの合体を打診されるキングエルフ。機械の身体となりサイボーグエルフになれば、エルフリアン柔術の最大の弱点で生身の脆弱さもカバーできる。


 しかし、キングエルフはその提案に静かに首を横に振った。


「エルフリアン柔術は弱者救済の技。己の身体の弱さを受け入れ認めるからこそ引き出せるものだ。自分の弱さから逃げるために、サイボーグ化するつもりはない」


「自分の違う可能性を見るために、機械の身体になるのはやぶさかではない」


「エルフもELFも統合したエルフの中のエルフを俺は目指そう。そのために、なってみせようではないか――サイボーグエルフに!!」


 エルフの高みに登るためではない。

 エルフを越えた自分を知るためにサイボーグになる。


 ふんどし一丁だけれど心は高潔。キングエルフはここでも武人の意地というモノを貫いて見せた。お見事キングエルフ。流石だキングエルフ。お前がナンバーワン。


「では、合体のために身につける本当のアイテムをお前に授けよう」


「あぁ、ドンとこい!!」


「……これだ、この【サイコ銃】を身体のどこかに装備するんだ」


 そう言って、男騎士は黒光りする野太い棒をキングエルフに差し出したのだった。


 はたしてキングエルフの尻は【サイコ銃】を受け入れられるのか。

 キングエルフはサイボーグになることができるのか。


 実に良いところですが、ここいらでいよいよ女エルフたちの本編に戻ろうかと思います。答えは――高軌道エレベーター編が終った後!!


◇ ◇ ◇ ◇


 イーグル市高軌道エレベーター施設。

 地階。倉庫前通路。


 排水溝から施設内に侵入した女エルフ達がのそのそと通路を歩く。スク水から着替えてすっかりといつもの旅装姿。杖も構えて戦闘準備万端であった。


 ただ、身構えた割には敵の数が少ない。

  一般人の姿もない。


 市内の重要な施設だというのに、高軌道エレベーター施設内は異様なほどに閑散としていた。なにかトラブルでもあったのではないかと、トラブルを起こしに来た側が心配してしまうような静寂がそこには満ちていた。


 冷や汗を流しながら女エルフが辺りを見渡す。


「なんか、これはこれで張り合いがないわね」


「だぞ。誰かと出会えば、それとなく道を尋ねたりとかもできたんだぞ」


「そんな穏便に事は進まないとは思いますが――この状況はちょっと気になりますね。何かあったんでしょうか」


「エリィは危険があぶないなくていいと思いますけど? おねえたまたちは、冒険に刺激をもとめすぎなんですよ!」


 巧く行っていると喜ぶべきか。それとも、何か罠が待ち構えていると警戒するべきか。どうにも判断に困るなぁと女エルフが頭を掻いた。


 さて。


 そんな中、一人別行動をしていたELF娘が戻ってくる。

 手の中に書類を抱えた彼女は、「終りましたよ」とそれを持って女エルフに近づいた。というのも他ではない。

 パーティでただ一人この大陸出身の彼女に、女エルフ達はお使いを頼んでいた。


「どうだった? 首尾よく構内の地図は手に入れられたかしら?」


「楽勝でしたよ。地下に備え付けられてた保管室から、構内ネットワークに侵入してちょちょいのちょいってなもんです。これこの通り、ここから三階ほど上がれば軌道エレベータに乗り込むことができますよ」


 ほいほいほいと手にしたプリントを仲間内に回すELF娘。

 流石に構内の見取り図くらいは女エルフたちも見れば分かる。なるほどこんな風になっているのねと見比べながら、彼女達は現状を把握した。


 今、彼女達がいるのは地階の最奥部の倉庫前通路。

 倉庫は内部で排水路に繋がっており、先ほど女エルフ達はその倉庫から出て来たばかりだ。そこをストレートで突っ切ると正面階段。

 上がった先は一階エントランスとなっていた。


 なお、この階段への出入りはいちおう関係者以外は禁止されている。鍵などはかけられていないが人が入ってくることは用事がない限りまずないだろう。

 人気が無い理由はどうもそういう所にありそうだ――。


「うーん、そういう事なら上の階に出ると普通に人の目に触れちゃいそうね」


「そうですね。人の出入りが少ない地階だからこそ、こうしてこそこそと活動できているということなのかもしれません」


「だぞ! けどけど、高軌道エレベーターを使うには、三階まで移動しなくちゃいけないんだぞ! そうも言ってられないんだぞ!」


「なんとか危険な場所を避けて移動出来ないですかね?」


「……まぁ、手がないわけではありませんね」


 ここを見てくださいとELF娘が指差したのは、倉庫から少し歩いた場所にある四角いスペース。そこには女エルフ達、中央大陸に住まう者達が使っている文字で「館内エレベーター」と書かれていた。


「これでこの地階から、高軌道エレベーターのある三階まで登ることができます」


「あら、それじゃもう楽勝じゃないのよ」


「……え、そんな簡単な話でいいんですか?」


「もちろんよくありません。エレベーターを使えば当然のように周囲の人間は気がつきます。なにより、三階に上がってそのまま高軌道エレベーターに向かうには、少し距離があります。先に高軌道エレベーターの入り口に回り込まれたらそれで終わり」


 つまる所は、三階に上がったら速やかに、高軌道エレベーターを奪取しなくてはいけない。そのためには、先んじて三階に回った先遣隊が、高軌道エレベーターへの通路を確保しておく必要がある。


 とまぁ、ここまで話せばやるべきことが見えてきた。


「なるほどね、ここで二手に分かれて別行動ってことか」


「なんだか最近、こういう展開が多いですね」


「大所帯だからしかたないんだぞ。逆に、これだけパーティーメンバーが豊富だと、いろいろなアクションが起こせて便利なんだぞ」

 

「エリィはいまいち役に立ててないですけれど――けど、今回はがんばります!」


「マスター。戦力的に、今回は私とマスターが別れて行動した方がよさそうです。どうしますか?」


 ふむと顎先を撫でた女エルフ。

 イーグル市上空のMM砲へと向かうための最後のミッション。その舵取りを思いがけず任されたパーティーの知恵者は――。


「よし。先遣隊は私とケティで。コーネリア・リリエル・エリィはここで待機。私たちが上からエレベーターを操作するから、それを合図に行動して頂戴」


「「「「了解!!」」」」


 迷いなく大胆な作戦を立ててみせたのだった。

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