第1209話 どキングエルフさんと合体アイテム

【前回のあらすじ】


「キングエルフ!! お前もサイボーグにならないか!!」


「「「誘い方よ!!」」」


 キングエルフ達の前に姿を現わした男騎士のクローン。彼が姿を現わした目的は、キングエルフとキッカイマンを合体させることだった。

 どうしてそんなことをしようとしているのかは分からないが、そんな非人道的なことが許されるはずもない。


 断固として反対する仮面の騎士と少年勇者。


 そして――。


「うん。いいんじゃないか合体。サイボーグ系のキャラクターは人気があるし、キングエルフは兄貴キャラだからシナジーある気がするぞ。私はいいと思う」


 なぜかノリノリの艦長。

 なにを言っているんだと仮面の騎士達が問い詰めるが、いまさらじゃないかと反論する彼。確かに、もうすでにキングエルフはだいぶ人間やめている感がある。エルフって感じでもない。


「いまさら、サイボーグになろうが吸血鬼になろうが、超生命体になろうが、キングエルフはキングエルフって感じだろ?」


「「……それはまぁ」」


「だったらお前、別にいいだろサイボーグ化手術だって」


 と、軽く言いくるめられてしまうのだった。

 はたしてキングエルフはサイボーグになってしまうのか。サイボーグKINGさんになってしまうのか。それとも00何番になってしまうのか。


 キングエルフの答えはいかに――。


◇ ◇ ◇ ◇


「分かった。ティト、その誘いに乗ろう」


「なに言ってんだよ、正気に戻れキングエルフ!!」


「そうですよキングエルフさん!! 機械の身体になったら、もう二度と元には戻れないんですよ!!」


「あぁ、それなら心配することはない。合体といっても、こう、外骨格として外にまとうような感じで、別に身体が機械にになったりする訳じゃないから」


「「「それを先に言わんかい!!」」」


 さんざん煽っておいてしょーもないオチ。てっきり非可逆的に機械の身体になってしまい苦しむことになってしまうのかと思いきや、そういうことではなかった。

 ほんと、それを先に言えっていう話。


 気落ちした仮面の騎士達がぐったりと肩をなで下ろす前で、キングエルフに男騎士がまたアイテムを差し出した。


「これは合体に使うアイテムだ。これを身体に装着すると、もう一方の装着している人物と一時的に合体することができる……」


「合体につかうアイテム……」


 キングエルフのごつごつとした掌の上に転がる丸い物体。楕円形。ぷっくりとしたピンク色のそれは、同じ色のケーブルで大きなコントローラーと繋がっていた。


 なるほどこれを身につけるのか――と、キングエルフが喉を鳴らす。

 急いで仮面の騎士が少年勇者の目を塞いだ。


 そして怒鳴った。


「なんちゅーもん出すんだおめーは!! 小さい子がいるんだぞ!!」


「何がだ、ただの合体アイテムじゃないか?」


「違う合体アイテムだろ絶対!!」


 いったい何があったんですかと慌てふためく少年勇者。

 そんな彼を連れて、すごすごと仮面の騎士が病室から飛び出す。付き合ってられるかという捨て台詞に、やれやれと男騎士が肩を振った。


 なるほどこれをつければいいのだな――と、しげしげ掌の上のピンクの猫じゃらしを見つめるキングエルフ。いったいどこに装備すればいいのか、そう尋ねようとした所で、ひょいとそれを男騎士が奪い取った。


 その顔は、おふざけの連続からはちょっと外れたシリアス顔、どこか申し訳なささえ漂ってくる冷たいものだった。

 すぐにその表情はキングエルフの顔にも伝染する。


「すまんな。二人にはちょっとショッキングな話だと思ったので、嘘を吐かせて貰った。当然、合体したのに身体が無事という都合のいい話はない」


「……やはりか」


 大人のおもちゃを出したのは仮面の騎士たちを追い払うため。そして、やはりキングエルフとキッカイマンの合体は、ギャグ漫画的なお約束で片付けられるものではなかった。


「キングエルフ。合体すればもう二度と、お前は元のエルフに戻ることはできない。機械の身体を持つサイボーグエルフになってしまう。寿命も、魔力も、何もかも失うことになってしまう」


「……随分な話だな」


「その代わり、機械の身体によってお前のエルフリアン柔術の技はさらなる高みに到達することになるだろう。エルフとしての人生をを取るか、それとも、エルフリアン柔術の使い手としての人生を取るか、よく考えて決断して欲しい」


 エルフリアン柔術は弱者のための武術。

 遺伝的に身体が細いエルフ。彼らの脆い身体でも、強敵と素手で渡り合えるようにと考案された技の数々。


 そこから前提となっていた脆い身体が失われればどうなるのか。

 たしかに飛躍的にその武術は威力を増すことになるだろう。

 単純なロジックだ。


「先に言ったとおり、私はもう合体についての覚悟はできている。この身体、この命、世界の平和のために捧げることはいとわない」


「……キングエルフ」


「しかし、勘違いしないでもらいたい。エルフリアン柔術はあくまで弱者救済のための技。それは己の身体の弱さを受け入れ認めるからこそ引き出せるものだ。私は、そんな自分の弱さから逃げるために、サイボーグ化するつもりはない」


 しかし、あえてキングエルフはサイボーグ化とエルフリアン柔術の発展を切り分けた。彼の中に根ざしているエルフリアン柔術開祖としてのプライドが、強さと思想をきっちりと分かった。


 その上で――と、キングエルフ。


「自分の違う可能性を見るために、機械の身体になるのはやぶさかではない」


「なんと。エルフの中のエルフを極めてなお、お前はさらに高みを目指すというのかキングエルフ」


「エルフもELFも統合したエルフの中のエルフを俺は目指そう。そのために、なってみせようではないか――サイボーグエルフに!!」


 ぐっと男騎士の手を握り返すキングエルフ。

 逞しい男たちの手が交わされてその二の腕が膨らんだ。熱い握手を交わして二人見つめ合えば、熱い心がその間を過る。


 確認するように男騎士が頷く。

 それを力強く手を握りしめて肯定すれば――ここに最後の確認は終った。「分かった」と男騎士がかぶりをふる。


「では、合体のために身につける本当のアイテムをお前に授けよう」


「あぁ、ドンとこい!!」


「……これだ、この【サイコ銃】を身体のどこかに装備するんだ」


 手渡されたのは黒光りする野太い棒。

 先端が丸くなっているそれを見つめてキングエルフが絶句する。


 流石の彼も、このサイズは想像していなかったらしい。


「……入るだろうか?」


 そう言って、彼は自慢の尻を触って確かめた。左手に装備するにはちょっと難しく、話の流れ的に装備箇所はその穴しか考えられなかった。

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