第1202話 ど仮面の騎士さんと突撃更衣室

【前回のあらすじ】


 サービス回だよどエルフさん。女エルフから女修道士シスターまで、スクール水着にお着替えしてのお出迎え。ついにはじまるどエルフさんぬぷぬぷスク水フェスティバル――とはならない。


 だってこの小説は、エロそうでエロくない、いつだってアホなことしかおきないただひとつの小説。どエルフさんだから。

 みんなごめんよ……。


「いや、だったら無理矢理視点をこっちに戻してまでこんなネタするなや」


 ぴちゃぴちゃちゃぷちゃぷと、水着に着替えて地下水路を行く女エルフ達。

 上水道なのを良いことにすいすいと泳いで、彼女達は瞬く間に目的地の高軌道エレベーター前へとたどり着いたのだった。


 という所で、また視点は仮面の騎士達へ。

 老教師の権限によりプールの授業が行われることになった学園。はたして、彼らは【ダブルオーの衣】を手に入れることができるのか。


 汗臭いゴリラ系体育教師が着ている赤ジャージ。

 はたしてそれを手にするのは誰か――。


「……手に入れたくないんだよなぁ」


「セイソさん。これも任務ですから心を殺して頑張りましょう」


 今週もなんだかよく分からない感じで話が進むよどエルフさん。はたして、いつになったらこの章はクライマックスを迎えるのか――。


◇ ◇ ◇ ◇


「さて、なんだかんだであの爺さんの計らいで学校の中には紛れ混むことができたわけだけれども」


「……まさか、僕たちまでプールの授業にでなくてはいけなくなるとは」


 場所は学園のプール。

 きゃっきゃうふふとJKたちが水をかけあうそのただ中、仮面の騎士と少年勇者は水着姿で立ち尽くしていた。処理されていない体毛とどこか心ここにあらずの表情はいつもの彼らとは遠い表情だ。


 しかしなによりも遠いのはその格好――。


「まさか俺たちまでスク水姿になっちまうとはな」


「まぁ、一応女装してこのミッションに参加している身ですからね」


「したってブライトの奴も気を利かせて男って通達しておいてくれよ。なんでこんな気味の悪い格好しなくちゃいけねえんだ」


「……僕、もうお嫁にいけないですよ」


「……アタイも」


 仮面の騎士&少年勇者の貴重なスク水姿。

 どちらも揃って男前、美形の顔立ちをしておられるお二人。しかし、やっぱり男の子。筋骨隆々とまではいかないが、モンスターや人間相手に斬った張ったを繰り広げる者達に――女性用のスクール水着はキツかった。


 しかもこっちは旧式。

 股間までくっきりと攻めた感じの奴。

 ムダ毛を処理していない男が着るにはきつい。いや、ムダ毛を処理していなくてもきつい。大惨事。目も向けられないおっさんと少年に、一緒に授業を受けているJK型のELFたちも、冷ややかな視線を向けていた。


 そりゃそうなるだろう。


「こらっ!! セイソもアレックスもそんな所に縮こまって何をしている!! 授業なんだからさっさとプールに入らんか!!」


「いやけど……俺のような汚らしいおっさんが、ぴちぴちのギャルと同じ水に浸かっていいものかという葛藤が」


「僕も……同年代っぽい女の子達の汗がしみ出した水を浴びてしまって、はたしていいのだろうかという迷いが」


「なにを言ってるんだ!! はやく入らんか、バカタレ!!」


 男らしい葛藤を見せた二人だったが、女性を偽っているのだからそんな葛藤が理解されるはずもなかった。ジャージ姿から海パンに着替えたゴリラ顔のジャージ男に、いかにも漫画のワンシーンっぽく怒られると二人はシュンと肩を落とした。


 このまま入らないわけにはいかないのか。

 いやけど、こんなの普通に犯罪。女の子と一緒にプールに入るだけで恥ずかしいのに、女の子と同じスク水を着ているだなんて――こんなの頭が沸騰しちゃうよ。


 茹だった顔から蒸気が昇る。すみません先生、調子が悪いのでやっぱり休んで良いですか――と、彼らが申し出たのは仕方なかった。


 むっと眉を顰めたジャージ男。


「なんだ、調子が悪いのか。そういうことならさっさと言え。まったく、お前らはなんでそう肝心なことを言わないんだ」


「すみません」


「ほんと、すみません」


「着替えて保健室に行ってこい。まったく、体調管理はちゃんとしろよ……」


 一礼して下がる仮面の騎士と少年勇者。こそこそと身を縮めてプールサイドを駆け抜けると、彼らはとぼとぼと更衣室のあるプールサイド建物に入った。

 銀色の扉をひいて廊下に入ると、ほっと一息。


 恥ずかしい格好にはなってしまったが、これでようやく本来の目的に戻れる。


「はぁ、なんとかあのおっさんの目を盗んで更衣室に入れるな」


「恥はかきましたけれど、自然な流れで中に入ることができましたね」


 着替えが入っている更衣室からちょっと逸れて、二人が手をかけたのはジャージ男が着替えを行った職員用の更衣室。きいとその扉を手前に引けば、かびた匂いの立ちこめる部屋の中へと彼らは足を踏み入れた。


 立ち並ぶロッカーは彼らが着替えた部屋よりも数が少ない。

 その中でも、使われていると思われる――扉が開けっぱなしになっているのはひとつしかなかった。


 おそらくそれがジャージ男が着替えるのに使ったロッカー。


「なんか悪いことしている気分ですね」


「言うなアレックス。これも世界の平和のためだ、我慢しろ……」


 おそるおそると仮面の騎士が扉を手前に引く。

 なんてことはない普通のロッカー。ハンガーにジャージの上着がかけられて、下は丁寧に折り畳まれて上の棚に置かれている。汗臭いシャツがその上には置かれており、紺色の靴下とパンツも丸めて脇に置かれていた。


 そっと仮面の騎士の手が【ダブルオーの衣】に伸び――て直前で止まる。


 どうしたんですかと少年勇者が覗き込めば、脂汗をだらだらに垂らして仮面の騎士は苦悶の表情を浮かべていた。


「ダメだやっぱり俺にはできない。こんな汗臭いおっさんの服に触れるなんて」


「いまさらそんなしょーもない葛藤しないでくださいよ」


「するだろお前!! だったらお前がとれよアレックス!!」


「いやですよ!! セイソさんがやってくださいよ!!」


 ここまで来て仲間割れ。

 ジャージ男と出会ったその時から揉めていた話ではあるが、やっぱり彼が着ていた服に触れるのに仮面の騎士達は抵抗があるようだった。


 せっかく隠密行動でここまで来たというのに、押し合いのへし合いの怒鳴りあい(小声)。土壇場で腹を据えることができないちょっと悲しい二人なのだった。

 すると――。


「……おい、アレックス。人の気配だ」


「……騒ぎすぎましたかね? どうしましょうか?」


 扉の向こうに響く足音。はっと振り返って入り口の様子を確認した二人。

 どうやら服を奪うだけかと思いきや、もう少しイベントはあるらしい。

 仮面の騎士と少年勇者が喉を鳴らす。


 そんな中――遠慮がちにこんこんと職員用更衣室の扉が鳴った。


「……先生、いらっしゃいますか?」

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