第1200話 ど仮面の騎士さんと校長絶好調

【前回のあらすじ】


 神造遺物【ダブルオーの衣】を求めて学校へとやって来た仮面の騎士と少年勇者。

 二人を出迎えたのは生徒指導のゴリラみたいな先生――ことジャージ男。彼こそ【ダブルオーの衣】の持ち主にして、その恩恵を受けて鋼の身体を持つ教師だった。


 はたしてゴ○先生からどうやってジャージを手に入れようかと悩む彼ら。

 そうこうしているうちに、季節外れの転校生と勘違いされた彼らは、職員室へと通された。待っていたのは学校の先生達――。


「おや、合力先生どうされました? 校内の見回り中では? というか、後ろの彼らはいったい……?」


「あぁ、なんでも今日から転校してきた生徒だそうで。見回りの途中でばったりと出会いましてな、職員室まで連れてきた次第です」


「……転校生?」


 季節外れの転校生に嫌が応にも集まる視線。どうやって誤魔化そうか、強行突破するにもこの人数を前にしては多勢に無勢。どうすると仮面の騎士達が黙り込む。

 すると、ジャージ男に詰め寄った学校の権力者とおぼしき男が、ちょっとこちらにきなさいと彼らに声をかけた。


 はたしてこの呼びかけは吉と出るか凶と出るか。


 仮面の騎士と少年勇者の二人は、その声に従って職員室の隣にある校長室へと入って行くのだった――。


◇ ◇ ◇ ◇


「まったく!! 困るよ勝手に生徒なんて名乗ってもらったら!! こっちはアンタ達を道に迷ってやって来た、愉快な外国人にする体で動いていたんだから!!」


「す、すみません……」


「んだよ、じじい。元はと言えば、てめえが合流しくじったからこんな目に遭ってんじゃねえのか。自分はやらかしといて俺たちを責めるってのはお門違いってもんじゃねえのか、あぁん?」


「喧嘩を売らないでくださいよセイソさん!!」


 場所は変わって校長室。

 大きな両袖机が置かれた窓辺。ふかふかとした黒革の椅子にふんぞり返ったのは、先ほど仮面の騎士達に声をかけた老教師。


 どうももなにもこの学校の校長。

 そして、まさかの彼こそ協力者。

 仮面の騎士達がこの学校に入るための段取りを整えているはずの教師だった。


 ただ、合流が失敗に終り、当初の計画と大幅に来るってしまった今となっては、それを言っても仕方ないのだが。むしろこのように、仮面の騎士の怒りに油を注ぐだけの結果になってしまった。


「ったくよう、困るぜこんなことじゃよう。俺たちはこれでも、お前らダイナモ市に住んでるELFを助けるために来てるんだから」


「いちいち細かい奴じゃのう。別にお前さんに助けてくれと頼んだ覚えなぞないわ」


「だからー、やめてくださいってセイソさん。校長さんも」


「なんだおー、爺、やるかてめぇー!!」


「上等じゃこのクソガキャ!! ワシは今から、お前達を殴っちゃうもんね!!」


「……とんだとばっちりだ!!」


 血気盛んな爺校長に、これみよがしに食いつく仮面の騎士。

 どうやらこの男、相当に教師という存在と相性が悪いらしい。


 まぁ、仮面の騎士が怒るのも無理はない。いささか校長の手は後手後手に回りすぎた。もうちょっと早く彼が出て来てくれればよかったのに――と文句のひとつも言いたくなるのは仕方ない。


 唾を吐き捨てて眉を顰める仮面の騎士。

 この潜入任務に入ってからというもの、この調子ですっかり使い物にならない彼に変わって、やっぱりここでも少年勇者が交渉の矢面にたった。

 とはいえ、先にも言ったようにもう目的がはっきりとしている。


「えっと、校長先生。さっきの僕たちを職員室まで案内してくれた方ですが」


「あぁそうな。合力先生な。お前さん達が察したとおり、彼が現在の【ダブルオーの衣】の持ち主じゃて。あやつが今来ているジャージをなんとかして脱がして持ち帰って貰おうと思っていたんじゃが」


「嫌だよあんな汗臭いおっさんが着ていた服なんて。なんでそんなもんを持って帰らなくちゃいけないんだ。意味がわかんないぜ」


「セイソさん、だからそれはもう我慢するしかありませんって……」


 問題はどうやってジャージ男からジャージを引っぺがすか。

 強硬な手段はなるべく取りたくない。けれども、普段着なんてどうやったら脱ぐのだろうか。仕事中にそんなものを脱ぐイメージが想像できない。


 家まで尾行して家屋に侵入する――なんて、犯罪めいたこともノーサンキュー。


 仮面の騎士と少年勇者がごくりと喉を鳴らす。

 どうもこうも、この任務思った以上に難易度が高い。てっきりどこかに保管されている衣服をひとつ持ち帰るだけだと思っていたら、その番人として思いがけない強敵が現れてしまった。


 すると老教師が、「まぁ任せなさい」と腕を組む。


「脱ぐ機会が無いのなら、脱ぐ機会を作ってやればいいだけのこと。合力先生に、あのジャージから着替えなくてはいけない仕事を私が振ればいいのじゃよ」


「なるほど。爺、なんだよやればできるじゃないか」


「けど、ジャージを脱ぐような仕事ってあります?」


「あるんじゃよ。真面目な少年漫画でも、ちょっとお色気青年漫画でも、ガッツリえちえち成年向け漫画でも、男の妄想炸裂同人漫画でも――体育教師がジャージを脱ぐ瞬間というモノがな!!」


 キリッと顔に気合いを入れればその肩に後光が差す。

 この気迫は間違いない。本当にそんな瞬間があるんだ――と、よく分からない動揺が仮面の騎士と少年勇者を襲う。


 しんと静まりかえった校長室。


 仮面の騎士が「もったいつけないではやく言えよ」と少し焦ったように口にすると、思わせぶりに頭の薄い毛を撫でて老教師は口を開いた。


「プールじゃよ」


「……プール?」


「……水浴びのことですか?」


「そうじゃ。プール回ではもれなく、体育教師はブーメランパンツで笑いを誘う格好になるのじゃ。つまりじゃ、プールの授業を開いてしまえば、合力先生もジャージを脱がずにはいられない」


「つまりそれは……」


「もしかして……」


 ためにためて老教師が頷く。

 顔の皺をいっそう深めて、少し濁った瞳をぎょろりと剥くと、彼は満を持してその言葉を口にした。


 少年勇者が。

 仮面の騎士が。


 そして読者待ち望んだその言葉を――。


「次回!! 待望のプール回!!」


「「やったー!! どエルフ300歳以外のスク水カットだ!!」」

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