第1199話 ど仮面の騎士さんと潜入タルタロス学園

【前回のあらすじ】


 場面変わってダイナモ市の学園前。

 人物も変わって仮面の騎士と少年勇者の二人組。

 神造遺物【ダブルオーの衣】を求めてこんな似合わないところにやって来た二人。そんな二人を出迎えたのは、これまたファンタジーには似合わない人物だった。


「おいお前!! そんな所で何をしている!! ここは学校だぞ!!」


「おん? 協力者か?」


「さてはお前、最近うわさになっている不審者だな!!」


 生活指導の体育教師!!

 赤いジャージを着て動物みたいな顔を着た奴!!

 ゴ○先!!


「またそんな旬な漫画を擦っていく……」


 平日の学校の前をいい歳したおっさんたちが通り過ぎれば、声かけされるのは仕方がない。そしてそういうことをするのはどんな世界でも――赤いジャージを着た体育教師(生活指導)なのだ!!


 はたしてパロ元と同じように、いきった仮面の騎士にあしらわれたジャージ男。

 しかし、頭から地面にたたき付けられても意外にも、いや、お約束のようにピンピンしている。いったいこの体育教師何者なのか。


 答えは簡単。


「うん? こいつの着ている服ってまさか……?」


「あ……確か資料で見た……」


 彼こそが仮面の騎士達が求めている【ダブルオーの衣】の持ち主。赤いジャージになったそれを纏っているELFであった。


◇ ◇ ◇ ◇


「なんだお前さん達、海外からの転校生だったのか。それならそうと早く言ってくれよ。いや、私も軽率なことをしてしまった」


「いえいえ、全然そんなことは……」


 平謝りするジャージ男に仮面の騎士に変わって少年勇者が応対する。

 年下の方が頼りになるというのはいささか情けないが、オラついた所がある仮面の騎士では話にならない。


 いや、というよりも格好がつかない。

 ぶすっとした顔でそっぽを向く仮面の騎士。


「ったくなんだよ、反則だろ【ダブルオーの衣】。こんな冴えないおっさんがなんで俺よりも強いんだよ。意味がわかんねーぜ」


 ジャージ男にあっさりと自分の攻撃を無効化されてしまったのが、地味にショックですねていた。そんな彼に冷静な応対など不可能。


 どうもすまんと頭を下げるジャージ男から顔を背ける仮面の騎士。

 大人げないその態度に、少年勇者もちょっとフォローを戸惑うのだった。


 そんないざこざもありながら、なんとか話は一段落。


「まぁ、そういうことならあい分かった。職員室まで案内するから着いてきなさい」


「「はーい」」


 ジャージの男に誘われて仮面の騎士達は学校の中へと入るのだった。

 ただまぁ、問題点がひとつある。


「もう【ダブルオーの衣】の在処が分かったんだから、別に中に入る必要ないんじゃないかこれ?」


「なに言ってるんですかセイソさん。こんなに親切にしてくれる人から、どうやって衣服を奪えって言うんですか。良心がないんですか」


「いやまぁ、それはそうかもしれないけれど……」


 仮面の騎士と少年勇者がここを訪れた目的は既に達成された。

 神聖遺物【ダブルオーの衣】を持っている――というより着ているのは、目の前のジャージ男。彼が身につけた紅色のジャージこそがまさしくそれだ。


 校内をくまなく探し回る必要もない。

 あとはこの男がその服を脱ぐタイミングを見定めて回収すれば終わりだ。


 だが、脱ぐタイミングなんてものが本当にあるのかという疑問がある。そんな確証の持てないものを待つ余裕が仮面の騎士達にはなかった。


 さらに言えば。


「……着用済みとか聞いてないぞ【ダブルオーの衣】」


「ちょっと持っていくのに抵抗が出ちゃいましたね」


「ちょっと所じゃねえよ。なんであんな汗臭いおっさんが着た服を手に入れなくちゃならないんだ。勘弁してくれよまったく」


 衣を着ている人間がちょっとワイルド。むくつけきおっさん。野性味溢れる感じのゴ○先キャラだったからだ。

 暑苦しく堅苦しい体育教師を年頃の生徒が忌避するような感覚で、二人はちょっと失礼な視線をジャージ男に向ける。そんな視線に少しも気づかず、ジャージ男は意気揚々と学校の校門の扉をひいた。


 さあさあ中へと誘われる二人。

 扉を潜ればまずは玄関。ここは上履きを使っていないのだろう。広々としたエントランスが広がっている。突き当たりには掲示板。その横には二階に上がる階段。左右に分かれて廊下が続いている。


 その左手側に折れると、すぐに職員室と掲示されたプレートが見えた。


「いやしかし、この時期に転校生だなんて珍しいなぁ」


「……いやまぁ、なにぶんこっちも急なことでして」


「まぁ、親御さんの都合とかもあるだろう。心配するな、うちの生徒は気の良い奴らばかりだから。君たちもすぐに友達ができるだろう」


「ちょいちょい良い先生なのが腹立つなこいつ」


 ゴ○先系体育教師ってのはそういうものだから仕方ないの。

 金髪でひねくれかえった性格をしている仮面の騎士にはなおさら鼻につくのだろう。金髪と不良教師の確執はいかんともし難いモノがあった。


 そんなジャージ男が職員室の扉を横にひく。


 授業中だからだろう室内に人影は少ない。そんな数少ない先生達が、ジャージ男が入ってきたのに気がついて顔を上げる。すぐさま出迎えの視線は、彼の後ろを歩いていた仮面の騎士と少年勇者に浴びせかけられた。


「おや、合力先生どうされました? 校内の見回り中では? というか、後ろの彼らはいったい……?」


「あぁ、なんでも今日から転校してきた生徒だそうで。見回りの途中でばったりと出会いましてな、職員室まで連れてきた次第です」


「……転校生?」


 はてと首をかしげたのはバーコードヘッドの老教師。

 苦労がにじみ出た頭頂部と顔には深い皺が刻まれていた。

 学校に通った経験は無くとも、仮面の騎士も少年勇者も組織に属したことのある人間だから分かる。この手の顔をしている人間は組織の重鎮――えらい人。


 そんな人が顔をしかめた。どうやら二人のことを疑っているようだ。


 そりゃそうだ、だって転校だなんて口から出任せなんだもの。

 どうやって誤魔化すと黙り込む二人。ジャージ男に取り入るために吐いた嘘だったが、この際は逆に彼らにとって足かせになってしまった――。


 重苦しく粘っこい沈黙が漂う。


「すまないね、ちょっと向こうで話を聞かせてもらってもいいかな?」


「あ、いや、その……」


「いいから着いてきたまえ二人とも」


 老教師がこちらへと仮面の騎士達を首をしゃくって呼ぶ。

 どうすると顔を見合わせた二人だったが、職員室中の人間から見られている状況では分が悪い。ここはひとつ、老教師の提案に乗ることにした。


 向かうは職員室から扉ひとつで隔てた部屋。

 扉の上には『校長室』と書かれた小さなプレートが掲げられていた。

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