第1193話 どエルフさんとニーベルゲンの指輪的な

【前回のあらすじ】


 分からないなら聞けば良い、それが近代都市の社会システム。

 高度に分業化された社会は人間たちの助け合いによって機能しているのだ。


 というたいそうなお題目はさておき。女エルフ、イーグル市の地図を求めて異世界ビッ○カメラの店員さんに声をかける。


 きさくに応じてくれた店員さんはちょっと背の高いボーイッシュな少女。

 王子様みたいながっちりとした体つきと甘いマスクで迫られると、アラスリといえドキッとしてしまう。女エルフと女修道士シスターも緊張してしまうのだった。


 さて、甲斐甲斐しく駆けつけてくれた彼女だったが――。


「実はイーグル市の地図を探しているんですが」


「地図ですか? うーん、ちょっと分からないですねぇ……」


「え? なんでも揃うって聞いたんですけれど?」


「まぁはい、どこかにはあると思います。ただ、地図を売っているとしたらテナントなので……。ちょっとお時間いただいてもよろしいですか?」


 店員とて店の全てを知っている訳ではない。詳しい人に聞いてみようと、女店員はヘルプを呼ぶ。てっきり他の店員が来るのかと思いきや、彼女が呼んだのは――。


「あ、もしもし、おにーちゃん。うん、今ね、バイト中。えっとね、ちょっと聞きたいことがあるんだけれどいいかな?」


「あら、知り合いってお兄さんなんですね」


 なぜかなんだかお兄ちゃんなのだった。


 という感じで、久しぶりですが他作品からのゲスト出演。

 ちょうどこれを書いている前後に脱稿した、あのえちえちサキュバス小説から、ヒロインと主人公の登場でございます。


◇ ◇ ◇ ◇


「来たよ咲ちゃん。この人たちを案内してあげればいいの?」


「ごめんねお兄ちゃん。駆けつけてくれてありがとー、助かるよー」


 本当に来たという顔で女店員とその兄を見つめる女エルフと女修道士シスター

 駆けつけたのはちょっと身長低めの優男。ちょっと頼りなさげではあるが、妹も彼女も大事にしそうなおとなしめ系男子だった。

 なるほどこれは女店員さんが懐くのも納得と女エルフが溜飲を下げる。


 すると、そんな彼女達の見守る前で――そっと女店員の兄がその手を妹の腰に回した。なんというかちょっと親密な感じで。

 あれ、これって妹にすることかなと女エルフ達が目を剥く。


「というか咲ちゃん。お仕事中にこんなことして大丈夫なの? バイトリーダーさんとか居るか分からないけれど、勝手に電話なんかして怒られるんじゃない?」


「だって、お客さん困ってたから」


「それならお店の仲間に相談するべきでしょ。僕を呼ぶのはおかしくない?」


「だってお兄ちゃん、私がここで働いてるって言ったのに、いつまで経っても様子見に来てくれないから……」


 なるほど兄貴を自分の店に呼ぶためのダシに使われたのか。

 女エルフと女修道士シスターが、女店員の狡猾な手口に舌を巻く。

 そして「なんでそんなことを……」と、怒ればいいのに、女店員の兄貴はため息と共に、さらに妹に密着した。太ももが触れあうくらい、ぴたっとくっつくのはいくらなんでも兄妹の距離じゃない。


 エッチだ。男と女のエッチな距離感だ。


 女エルフ達は少女と少年のやらしい距離感にはわわと年甲斐もなく狼狽えた。


「もうっ、だからってこんなことしちゃダメでしょ」


「いいじゃない、誰も困ってないんだから。だいたいお兄ちゃんがすぐに会いに来てくれればよかっただけだわ。ふんっ!!」


「拗ねないの。仕方ないでしょ、僕だって……そりゃ見に行きたかったけれども。ほら、やっぱりなんか理由がないと格好がつかないから」


「……ふぅん、見に来たかったんだ。へぇ」


 言質を取ったという感じにニマニマと笑う女店員。

 言うんじゃなかったとついと視線を逸らした女店員の兄。


 兄妹なのに底知れない男女のエッチな感じに、ついつい口に手を当てて見入る、淑女ムーブが身に染みついた感じの女エルフに女修道士シスター


 ちょっと過激なラブコメは彼女達も大好物。ここまでとんちきでおぼこな恋愛模様を見せつけられてきたけれど、この子達は関係性も展開もちょっと大人向け。

 実の兄妹でラブラブなんてそんなのいけないわと二人が顔を見合わせる。


 けど、止めない。

 だって禁断の恋こそ燃え上がるから――。


 ちょっと煮え切らない感じのお兄ちゃん。そんな彼を強引に振り向かせると、ぴとりと胸を腕に寄せた女店員。積極的なひっつき攻撃に「ぬなっ!」と、お兄ちゃんが変な声を出す。女エルフ達が「きゃー!」と無言の悲鳴をあげる。


「お兄ちゃんが言ってくれれば、家でいくらでも制服姿になってあげるのになぁ?」


「バカ。なに言ってんだよ」


「見たかったんでしょ? 私の制服姿?」


「違うよ。咲ちゃんがちゃんと働いてるか心配ってだけで」


「ちゃんと働いてるって? もしかして、バイト仲間といけないことしてないかとか、店長さんに悪戯されてないかとか、妄想しちゃったの?」


「ちょっと、咲ちゃん!!」


 攻める。

 この妹、ガンガン攻める。


 初心でねんねんなことしか言わないお兄ちゃん。それを良いことに、性的にからかってくる。なんというポジティブなからかいっぷり。これには、本作品のセンシティブ二大巨頭も、少しぎょっとした顔をした。


 まだあどけない感じなのになんという魔性だろうか。

 大きな身体に小さな胸。けれど、それを駆使して男に迫る巧みさに、女エルフも女修道士シスターもすっかり感心してしまう。

 これができる大人の男女のやり取り。


「いいわねこれ。今度ティトとやるときに参考にさせて貰おう」


「いけません!! ハレンチです!! もうっ、ダメですよそんな実の兄妹で!!」


「あ、大丈夫でーす!! 私たち、こう見えて実は義理の兄妹でー!!」


「「ぎ、義理の兄妹いちばんおいしいせっていだって!!」」


「ちょっと咲ちゃん、そういうの外でぺらぺら言うことじゃないよ!!」


 ピースサインをこちらに向ける女店員さん。もう、仕事中がどうとかお構いなしのはっちゃけぶりである。お兄ちゃんもちょっと取り乱している。

 しかし、一番取り乱しているのは女エルフと女修道士。


「嘘でしょ!! 一番盛り上がる関係性じゃない!! 義理の兄と妹!!」


「親の再婚でも、拾い子でも、兄妹の結婚でもどれでも美味しい……物語において、丁度良い男女の距離感!!」


「そうなんですか? よく分かりませんけれど?」


「「そうなんです!!」」


 古い世界。もといファンタジーに生きる女エルフ達。

 彼女達にとって、義理の兄妹での恋愛というのは――なかなかにキャッチーな内容なのだった。故に、彼女達の心にズブリとブチ刺さった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る