第1194話 ど女店員さんと泥棒猫

【お詫び】


 すみません。エッ……なゲームを夜通していて更新を忘れておりました。(正直)エッ……なゲームはほどほどにします。(賢者)


【前回のあらすじ】


 異世界ビッ○カメラで女店員に助けを求めた女エルフ達。

 さらに女店員は、どういう理由か助けに兄を呼んだ。


「なんで僕を呼んだのさ? 話がおかしくない?」


「だってお兄ちゃん、私がここで働いてるって言ったのに、いつまで経っても様子見に来てくれないから……」


 なるほど兄貴を自分の店に呼ぶためのダシに使われたのか。

 女エルフと女修道士シスターが、女店員の狡猾な手口に舌を巻く。

 唐突に繰り広げられる、男女の心の奥ゆかしい駆け引きに、一気に二人はメロドラマ空間に引きずり混まれる。


 さらにさらに――。


「いいわねこれ。今度ティトとやるときに参考にさせて貰おう」


「いけません!! ハレンチです!! もうっ、ダメですよそんな実の兄妹で!!」


「あ、大丈夫でーす!! 私たち、こう見えて実は義理の兄妹でー!!」


「「ぎ、義理の兄妹いちばんおいしいせっていだって!!」」


 古くから伝わる物語で人気のシチュエーション。

 義理の兄妹で恋に落ちる奴。日本の昔話には少ないが、海の向こうではけっこう聞く奴。むしろ実の兄妹まである。ファンタジー世界では一番ときめくシチュエーションに、ちょと女エルフたちの心が揺れるのであった。


 週の頭からいきなりお色気展開。

 この作品は、そういうのをギャグで濁すんじゃなかったのかどエルフさん。

 筆者がお色気作家としてデビューしたことで、今後もその余波がでそうな感じを匂わせつつ、今週もはじまります……。


◇ ◇ ◇ ◇


「という訳で、お兄ちゃんがばっちり皆さんを地図がある場所まで案内してくれますので、どうぞご安心を!! それじゃお兄ちゃん、後は任せたよ!!」


「うえぇ、丸投げじゃないか。ちょっと、酷いよ咲ちゃん」


「……なんだこれからおっぱじまるのかと期待していたのに」


「……人の目もはばからずイチャイチャパラダイスかとスタンバイしましたのに」


「「いや、流石にそこまではしませんて」」


 スタンバイしたのに肩透かし。

 なんだちぇと顔で嘆いて臨戦態勢をとく女エルフと女修道士シスター。濃厚なラブコメの気配に、二人ともすっかりとまた当初の目的を忘れていた。

 しかし、義兄妹イチャイチャが始まってしまえばそれもやむなし。


 途中で終ってしまったが良い物を見せてもらったわと満足げな女エルフと女修道士。二人は「しっかり頑張るのよ!!」と女店員を激励すると、兄と一緒に目的の地図がある場所へと向かうのだった。


 なんだかなとちょっと複雑な感じの女店員の兄。

 気苦労の多そうな男である――。


「いやぁ、すみません咲ちゃんがなんかご迷惑を」


「あ、いえ。むしろ助けていただいているのはこっちですので」


「いい娘なんですけれど、ちょっと強引な所があって。まぁ、そういう所が可愛かったりするんですけれども」


「ナチュラルにノロケよる」


「これはもう行くところまで行ってる感じの奴ですね」


 お幸せにどうぞと真顔で応じる淑女二人。

 良い物を見せてもらったと満足顔。別れてしまったというのに、その余韻でもしっかりラブコメを楽しむ。女エルフがこの手の話が大好物なのは、前々から言っているけれども、なんだかんだで女修道士シスターもこの手の話に目がなかった。


 なので、当然のように世間話もそっちの方向に行く。


「ねえねえ、どうなの? 妹ちゃんとは正式に付き合ってるの?」


「親御さんは知ってるんですか? 兄妹で想い合っていることについて」


「えぇ、ちょっと勘弁してくださいよ……」


「いいじゃない。こういうのは逆に事情をよく知らない間柄の方が相談しやすいってものよ」


「そうですそうです。さぁ、何か困っていることなどありませんか。こう見えて、私も教会勤めでそのような相談事にはなれております。きっと、貴方のお力になれると思いますよ。ですから、どうぞ遠慮無く」


「うえぇ……ぐいぐいくる、なんなのこの人たち……」


 性質の悪い耳年増に捕まってしまった。

 振り返れば、によによと薄ら寒い笑顔を浮かべたおばさんたち。

 若い身空の少年には少しショッキングな絵面だった。


 ラブコメ大好きおばさん自重しろ。


 逃げるように女店員の兄がエスカレーターへと足を運ぶ。そのままぐんぐんと上の階に向かって気がつけば屋上。どうやら上の階は専門店街が入っているらしく、そこも電気屋ではなく本屋のようだった。


「ここにまぁ、冊子でこの辺りの地図が載ったものが置いてあると思います」


「へー。ていうか、これもしかして全部が本なの?」


「すごい……。これだけの蔵書は、王立図書館でもちょっと見かけませんよ?」


「みなさん、いったいどちらからいらっしゃったんです? これくらい普通だと思うんですけれど……」


 つい口を滑らせてしまった女エルフ達。

 お兄ちゃんの怪しむ視線を笑って誤魔化す。


 それじゃその地図が載っている本がある所へ案内して欲しい――と、いいかけた所で、男の背後に人影が近づいてきた。ふわりと揺れる亜麻色の髪に、女エルフにも負けじと白い素肌をしたそれは、お年頃の女の子。


 彼女はそっとお兄ちゃんの背中にもたれかかると、そのままお腹に腕を回す。


「やっほー、謙太!! こんな所で会うなんて奇遇だねぇー!!」


「……あ、杏美!?」


「そうだよ、君の愛しい奥さまこと、杏美ちゃんだよ。どうしたのさこんな所で。出不精の君にしては珍しいじゃないか」


 これはいったいどういうことだと真顔になる女エルフと女修道士シスター

 おかしい。彼のお相手は義妹ではなかったのか。どうしてこんな親しげに接してくるような女の子がもう一人居るんだ。

 しかもこの様子――さっきの義妹よりもちょっと親密だ。


 鬱陶しそうに振り払おうとするも、背後を取られてはどうしようもない。そのままえいと壁に追い込まれたお兄ちゃんは、上目遣いにその女の子に迫られる。

 やはり距離が近い。鼻先が触れそうな距離で見つめ合う二人。

 ドキドキするのは彼ら――よりも女エルフたち。


「やだ、コーネリアさま!! 修羅場の予感でしてよ!!」


「たまりませんねモーラ氏!! やはりラブコメは、ヒロインの立場を奪うのではないかという、強烈なライバルキャラがいてこそというもの!!」


 ほんほんと楽しそうに息巻く彼女達。

 突如現れた泥棒猫をすっと受け入れるこの胆力。これが淑女の実力か。結構不穏な展開だというのに、によによと満足げに笑う女エルフ達。


「なに、不満そうじゃない? いいのかな、謙太ってばそんな態度とって……」


「いいのかなってお前。別に、僕とお前はなんでも」


「へぇ、なんでもないんだ。君にとって、私たちって」


 すりすりと彼女がお兄ちゃんのお腹を怪しくさする。

 ドキリとひきつった顔をすれば、まさかと食いつく女エルフ。


 ちょっと待って、さっき義妹と良い感じだったというのに、この男もしかして――とラブコメ大好きおばさんたちは目を見開いた。


「あー、可哀想だなぁ。捨てられちゃったー、どうしよっかなー。私までなんだか悲しくなってきちゃったよー」


「おい、杏美」


「酷い男だよね謙太ってさ。だって、こんなに可愛い子を、関係ないとか言って切り捨てちゃうんだもの。ほんと、とんでもないろくでなしだなぁ。あぁ、可哀想かわいそう。可哀想な僕ちゃん……」


 発言の意味深さに、いよいよ言葉も出なくなる女エルフ達。

 すみませんちょっといろいろありましてと、女店員の兄は取り繕おうとしたが――詳しく説明してくれという淑女顔に、すぐに諦めたように白目を剥くのだった。


 いったいなにがどうなっているんだってばよ。

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