第1188話 どエルフさんとヨ○くん

【前回のあらすじ】


 イーグル市の地図を求めて地下駅内にある車庫を巡ることになった女エルフ達。

 機関車男よろしく、各車庫にいる機関車のロボット達に話を聞いて回るのだ。

 機関車男は残念ながらイーグル市の地図を知らなかったが、他の彼らなら知っているかもしれない。そんな淡い期待に女エルフ達はかけた。


「一応言っておくと、右に行くほどデフォルメが効いて、左に行くほどリアル志向になっていくから。そこだけ気をつけてね」


「……デフォルメ? リアル志向? よく、言っている意味が?」


 フリはあった。

 電車ロボものには色んなバリエーションがある。

 しっかりデフォルメが効いた子供向けから、ガチガチの王道ロボット勇者シリーズまで。古今東西、機関車はいろんなロボットに変身してきたのだ。

 しかしその事実を、異世界に住んでいる女エルフ達は知らない――。


 知るはずがないのだ。


 だから彼女達は驚いた。

 隣の車庫の中で待っていた、そのデフォルメが最大級に効いた機関車――というか新幹線デフォルメロボに腰を抜かした。


「……光の超特急!! ノゾミアン!!」


「「ほんぎゃぁーーーっ!!」」


 ヒカ○アンってそんなマイナーなロボットじゃないですよね?

 SDガンダムの次くらいにメジャーな気が――僕だけでしょうか?


◇ ◇ ◇ ◇


「びっくりしたぁ。なにあの兆生命体トラン○フォーマー」


「だぞ。違うんだぞ。光の超特急ノゾミアンなんだぞ」


「どっちでも変わらないわよ。はぁー、この南の大陸にいるのはELFだけじゃないの。どうやってあんな不思議ワクワク生命体を作り出してんのよ。身体が鋼のように固いのに、めっちゃぬるぬる動くのなんなわけ?」


「だぞ、破壊神さまの神秘の技術なんだぞ」


 機関車男の右隣の車庫。光の超特急ノゾミアンさんとお話をした女エルフとワンコ教授は、どっと疲れた顔で車庫から出た。ファンタジー世界の人間に、現代社会の先の先に存在する、未来のロボットはちょっとハードルが高かったようだ。


 脂汗を流してぜえぜえと息を切らす女エルフ。彼女は縋るように、さらにもう一つ隣の車庫の扉に手をかけた。


「しかし、意外と気さくな奴だったわね、ノゾミアン」


「だぞだぞ。落ち着いていて喋りやすかったんだぞ。形はともかく常識人ではあったんだぞ。勿体ないんだぞ」


「次に出てくる奴も、そういう奴だと良いんだけれども――」


 そう言って女エルフが扉を開く。

 右に行けば行くほどデフォルメが効いていくという車庫の中の機関車たち。さっきのノゾミアンの時点で、既に極限までデフォルメが効いていたようにも感じるが、はたして今度はどんな列車が待っているのか。


 暗闇の中に目をこらす女エルフとワンコ教授。

 すると、先ほど光の超特急が居たの同じくらいの場所に、ぽつねんと緑の車体の機関車が佇んでいた。


 いや、機関車というよりもそれは――。


「ヨド○シカメラ!!」


「「また、よく分かんないのが出た!!」」


「ヨド○シカメラは安い!! 電化製品なんでも取りそろえ!! 良い物安い、お客様大満足のヨド○シカメラ!!」


「「やめろ!! そんな宣伝みたいなこと言うんじゃない!! どこの回しもんだよ!! ここはKAD○KAWAの庭ぞ!!」」


 光の超特急も唐突だったけれどもこいつも唐突。

 どうして機関車という奴は、話のペースが独特なのだろう。


 光の超特急と違って脚がなく、代わりににょきりと植物の枝のような腕が生えているそいつは、ぎょろりとその丸い目玉を動かした。愛嬌があるというより、何を考えているのか分からない感じ。


 これが異文化コミュニケーション。

 南の大陸に来てから三日目。もうすっかりとこちらの文化にも馴染んだ気でいた女エルフたちには強烈な刺客だった。


 そんなこんなで。


「いやー、すみません。久しぶりのお客さまに、ついつい元商売人の血が騒いでしまいました。私、こう見えてイーグル市の環状線をぐるぐる回っておりまして。それが終ったら西口駅の前のお店でマスコットキャラやってたんですよね」


「いや、知らんがな」


「だぞ。いいから、そういうややっこしくなりそうなパロネタは控えてなんだぞ」


「ついついお客様相手にサービス精神が滾ってしまう。いやー、三つ子の魂なんとやらですね。あはははは」


 なんとか落ち着いた緑の機関車。

 名を「ヨ○くん」というらしいが、現在もこちらの世界で現役で活躍しており、主要都市の駅前に行けば必ずみかける緑のマスコットをおいそれと呼び捨てにすることは難しい。「緑の」と、女エルフ達は彼の事をよぶことにした。


 落ち着いた「緑の」がてへてへと頭を掻く。

 落ち着けば話せない相手ではない、彼もまたこれまで会った機関車たちと同じく、大人しい性格の奴だった。


 暴走さえさせなければ大丈夫だろう。そう判断した女エルフ達は、さっそくイーグル市の地図について彼に尋ねた。


 すると――。


「あ、はい分かりますよ」


「え、分かるの!?」


「本年度最新版のイーグル市の地図についてですよね。カーナビから本の地図まで、ヨド○シならなんでも取りそろえております。私でよければ売り場まで案内させていただきますよ」


「いや、売り場って……」


 ズレた答えが返ってきたのに女エルフが思わず拍子抜けする。

 けれども、それにワンコ教授がちょっと待つんだぞと食いついた。


「そのヨド○シって所に行けば、この街の地図は手に入るんだぞ?」


「えぇ、ヨド○シならなんでも取りそろえて居ますよ。洗濯機、冷蔵庫、家電、液晶TV、オーディオ、ホビー、自転車、車、警戒用ドローン、娼婦型ELF、小型汎用機械鎧からオーダーメイドまで。異世界ヨド○シに揃えられないものはありません」


「なによそれ……ちょっと物騒ね」


「だぞ!! じゃぁ、そこに行けば、イーグル市の上空にある【MM砲】に行く方法も分かるんだぞ!?」


「やってみないと分かりませんが、おそらく分かると思いますよ。優秀な店内スタッフを揃えておりますので。彼らに聞けば教えてくれるはずです」


 にこっと笑う「緑の」。彼は地図について知らなかったが、地図を手に入れる方法については知っていた。ようやく次に何をすればいいのか見えてきたなと、女エルフとワンコ教授が頷き合う。


 目指すは異世界ヨド○シカメラ。

 そこで、イーグル市の地図と【MM砲】への行き方を手に入れる。


「ようやく具体的なアクションが見えてきたわ」


「だぞ!! 今度はこっちが攻める番なんだぞ!!」


 女エルフ達はようやく、この無間地獄のような南の大陸タウンアドベンチャーの突破口を一つ見つけたようだった。

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