第1187話 どエルフさんと超特急たち

【前回のあらすじ】


 イーグル市の地下に張り巡らされた地下線路。その行き着く先にあった地下駅および地下街にたどり着いた女エルフ達。表層部へと向かう前に、そこでちょっと情報収集と、彼女達は廃棄された駅内を探索しはじめた。


 向かったのは彼女達がやって来た線路の突き当たり。

 転車台の前に扇形に広がっている車庫だった。


 こちらの世界の知識がない女エルフ達。こんな大きな倉庫、いったい何にどのように使うのか。そんな風に訝しんだ矢先、ELF娘が照らし出した闇の中に、ぼんやりと白い顔が浮かび上がる。


 まるでローマの真実の口のようなそれは――。


「やぁ!! 僕は機関車トマース!!」


「き、機関車トマース!?」


 またしてもなんか権利関係がヤバそうなパロ。

 正面に顔が浮かび上がってるという独特な機関車だった。

 やたら陽気でハイテンション、終始フレンドリーなそいつにすっかりと調子を崩される女エルフ。元ネタからしてそんな奴だが――たいそう面倒くさい。


 はたしてこんな調子で大丈夫なのか。

 そして、うじゃうじゃとこんなヤベー奴らが他にもいるのか。

 どんどん出てこい働く機関車。近未来機関車擬人化地獄どエルフさん。次に出てくるのはあの車両かもしれない。


◇ ◇ ◇ ◇


「うーん、イーグル市の地図ね。悪いけれどもちょっと分からないな」


「ありゃ、なんかアテが外れたわね」


「僕も長いことここに閉じ込められて久しいからね。イーグル市は今やリモートワークが全盛の時代。日常的に出歩く必要がなくなったから交通機関はどうしても衰退して、僕たちみたいなのはお払い箱さ。この駅だって、昔は地下労働者の輸送に使われていたけれど、今はさっぱりだよ」


「……言ってる意味は半分も分からないけれど、なんだか大変そうね」


 とほほと笑う機関車男。女エルフがその境遇に同情してこくこくと頷く。

 後ろで聞いていた女修道士達シスターたちも同じ様子。社会の変化について行けないはみ出しモノに優しいのは、自身もそういう側面があるから。

 冒険者も所詮は社会が生み出した落伍者なのだ――。


「だぞ!! そんな弱気じゃダメなんだぞ!! 人間、生きていたらきっとどこかに自分の居場所はあるはずなんだぞ!!」


「そうですよぉ!! トマースさん諦めるのが早すぎます!! もっと自信を持ってください!! きっとどうにかなりますよ!!」


「「うーん、死体蹴り」」


 そして、そういう社会の厳しさがちょっと分からぬワンコ教授と新女王が、無自覚でキツいことを言う。げんなりとした顔で落ち込む機関車男。子供にはお見せできないマジベコみに、気にしなくていいからと女エルフがすかさずフォローした。


 なんにしても、機関車男からたいした情報は得られなかった。

 ちょっと持っている情報が古い。これだけの近代都市。少し閉じこもっていれば、街の様相なんてあっという間に変わる。こんな所に居る時点でそれはお察しだった。


 ただし――。


「地下鉄内部ならそう変わっていないかもしれない。ここの車庫のメンバーに、もしかすると地下鉄を走っていた機関車がいるかもしれないから、探してみなよ?」


「なるほど。総当たりって訳か」


「まだこの倉庫は幾つもありましたものね」


「だぞ!! 一人くらいは今のイーグル市の地下の地図を知ってる機関車がいるかもしれないんだぞ!!」


「手分けをして探すのー!!」


 機関車男が知らないだけで、他の機関車なら知っているかもしれない。

 という訳で、ここは手分けして当たろうと女エルフ達は左右に分かれて車庫を巡ることにしたのだった。一応、アタッカーがばらけるように、女エルフとELF娘を中心にメンバーを組み替える。


「だぞ。モーラと巡るのはなんだか久しぶりな気がするんだぞ」


「頼んだわよケティ。なんだかんだで、貴方の研究者としての知識には私も一目置いているんだから」


 女エルフとワンコ教授ペア。

 ELF娘と女修道士&新女王チーム。

 ちょっと珍しい組み合わせとなった。


 そんなチーム分けを終えた女エルフパーティに、そうだと機関車男が声をかける。


「一応言っておくと、右に行くほどデフォルメが効いて、左に行くほどリアル志向になっていくから。そこだけ気をつけてね」


「……デフォルメ? リアル志向? よく、言っている意味が?」


「まぁ、見てもらった方が早いよ」


 なんのこっちゃと女エルフとワンコ教授が顔を見合わせる。まぁ、確かにその方が早いかと女エルフ達はさっさと隣の車庫へ向かった。


 女エルフペアが車庫に向かって右側。

 ELF娘チームが左側へ。


「はてさて、どんな機関車が待っていることやら」


「だぞ。楽しみなんだぞ」


 そんなことを呟いて中に入ればそこには――白い流線型をした竜の首のような機関車が待っていた。しかも、二足歩行に手まで伸ばして。


 きらめくつぶらな瞳と女エルフの支線が交わる。

 すると闇に蠢く機関車は、足を後ろに引き手を前に出してポーズを決めた。


 まるでヒーローかなにかのように。


「……光の超特急!! ノゾミアン!!」


「「ほんぎゃぁーーーっ!!」」


 想像の斜め上を行くデフォルメ機関車。

 女エルフとワンコ教授がたまらずその場に尻餅をついた。


 無理もない。

 先ほど会った機関車男は、なんだかんだで乗り物という形をしていた。

 けれどもこれは違う。

 何か違う。


 乗り物というよりロボ。

 ロボだけれどもあまりに人型とかけ離れている。

 デフォルメされたスーパーロボットでもまだ人間状態を残している。半飛行形態のロボットという感じでもない。


 どうなっているのか。

 絶句する女エルフ達。


「……光の超特急ノゾミアン!!」


「「二回言うな!! 分かったから、黙れバカ!!」」


 女エルフ達が自分の名乗りに気がついていないとでも勘ぐったのだろうか、もう一度ポーズを決める新幹線男。雄々しくポーズを決めれば、なるほどかっこ良く見えなくもないけれど――ちょっと人を選ぶ感じのかっこよさだった。


「どうしよう、この20年後にはすっかりとその存在を忘れ去られていそうなSDっぷり。あと、東海地方でしか認知されていなさそうなこの感じ」


「だぞ、作者の育った環境がモロに分かるパロなんだぞ……」


「最近こんなローカルネタばかりよ。ほんと、どうしてこんな身バレするようなことばかり……」


 いや、ヒカ○アンはローカルねたじゃにゃーでしょうよ。

 おかしなこというでにゃーよ。

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