第1186話 どエルフさんと地下駅の魔
【前回のあらすじ】
イーグル市表層部へと向かう列車に乗っていた女エルフたち。
ひょんな事から列車を操縦することになった彼女達に、思いがけない分岐が現れる。二つに分かれた道――どちらかが脱線して、どちらかの線路に人が横たわっているという訳ではないが、彼女達は進むべき道を選択することになった。
「この先、どうやら地下駅がありますね。もうちょっとで表層です」
「地下駅?」
表層にほど近い場所に存在する地下駅。
このまま、すんなりと当初の目的地に到着すれば、そこで女エルフ達は娼婦ELFとして活動しなくてはならない。それよりは放棄された地下駅に入って、そこから地表を目指した方が行動の幅は広がるのではないか――。
考えたら即行動、女エルフは地下駅へ向かうことを独断で決定する。
はたしてこの選択の先に待っているのは何なのか。
今週もタイトルで不穏の種をこっそりまきつつ、どエルフさんはじまります。
「いやけど、地下駅に魔なんてあるかしら? 現代ファンタジーならまだしも?」
◇ ◇ ◇ ◇
「……焦った。あのまま壁にぶつかるんじゃないかと思った。ブレーキが間に合って助かったわ」
「大丈夫ですマスター。その時は、私が列車の前に飛び降りて押して止めます」
「それはそれで怖いわよリリエル」
移動を終えて地下駅。
駅のホームに入る前になんとか列車を減速させた女エルフ達は、ホーム壁面ぎりぎりで列車を停車させた。といっても、侵入禁止に設けられた柵を壊してのオーバーラン。かなりきわどい所ではあったが。
列車全体を揺らした騒音に、最後尾の車両に隠れていた仲間達も起き出す。
大丈夫ですかと慌てる
下手な村くらいの規模がある地下都市。
見上げると首が痛くなるような天井。幾つもそびえ立つ巨大な塔。列車が走っていた道は幾つにも分かれて、細い枝のような小道へと入っている。人の気配はないが、ぼんやりと明るい光がそこかしこに灯っており、地下だというのに視界は悪くない。
毎度のことだが破壊神たちの科学力の高さに圧倒される。
暗い地下駅の街並みを見渡して女エルフが重たいため息を吐き出した。
「……それで、ここからどうやって表層部に上がれるのリリエル?」
「上水道を経由して参りましょう。その前に、都市の詳細な地図を手に入れられるかもしれません。ちょっとこの地下駅内を探索しましょう」
手分けしてと行きたい所だが、アタッカーの少ない女エルフパーティーではそうは行かない。とりあえず、一番可能性が高そうな所ということで、真っ先に目が行ったのは――。
「この長い馬車が走っていた道の先にある倉庫が怪しいわね」
「なるほど車庫ですか。本当は事務所とかの方が良いんですが、それもどこにあるか分かりませんしね。いい考えかもしれません」
走行を終えた列車が格納されている車庫だ。
女エルフ達が乗ってきた列車は駅のホームに入ったが、それから少し逸れた場所に転車台(列車を載せてくるくる回る奴)とそこから扇状に広がっている車庫があった。もちろん、女エルフ達にそれがなにか判別できる知識はないのだが、扇状に建物が並んでいるというのはなかなかの景色だ。
そこに加えて倉庫の入り口には大きな門。
これでは冒険者に気にするなという方が無理だろう。
さっそく線路を辿って女エルフは車庫の前へ。転車台の上に立った彼女達は、まずは扇台の中央にある車庫の扉に手をかけた。数人がかりで開閉しなくてはならないだろう大きな扉に手をかけると、うんと手前に引く。全てを開ける必要はない。人が一人通れる程度の隙間を作ると、そこからするりと中に入った。
暗く、錆びた匂いのする部屋。二階建くらいの高さがある倉庫だが天井は高く、二階に相当する部分は無いようだ。屋台骨にカンテラのようなものがぶら下がっているのが見えるが、どうしてそんな火を灯すのに苦労しそうな場所に置いているのか、女エルフ達には分からなかった。
足下は土。色あせた赤土に砂利が多く混じっている。穀物用の倉庫にしては天井が高いのがよくわからない。農具を入れておくのにもだ。なら、家畜用の小屋かと言うと生き物の気配もない。工房という感じでもない。
「いったいここはどういう用途の場所なのかしら」
「車庫ですからね、さっき乗ってきた列車をここに格納するんですよ。ただ、こんな古めかしい車庫はなかなか珍しいですけれど」
「だぞ? あの乗り物をしまっておくんだぞ? そんな大事な乗り物なんだぞ?」
「えぇまぁ。と言っても、機関車だけですがね。牛でも馬でも、馬車を引くような大切な労働力は、ちゃんとした小屋で飼育するでしょう? それと同じですよ」
こんな風にねとELF娘。いつの間に持っていたのかカンテラに火を灯すと、それを車庫の中の闇へと浴びせかける。白い光にわっと女エルフ達が目が眩む。
急にやめてよと文句を垂れながら女エルフが光になれた目を開けると――。
「うわぎゃぁっ!? でかい顔!?」
「あははは。列車ですよ、驚きすぎですってマスター」
女エルフの前にあったのは、先ほど彼女が乗ってきた機関車。それと同じ車両。
しかもフロントに大きな白い顔がある特徴的な奴が置かれていた。
まるで真実の口のような青白い顔を、女エルフが怪訝な瞳で眺める。すると、ぎょろりとその瞼が上がり、つぶらな瞳が光の中に煌めいた。
同じくその下で白い歯も踊る。
「やぁ!! 僕は機関車トマース!!」
「き、機関車トマース!?」
「そう!! このイーグル市の伏魔殿――廃棄鉄道696の牢名主さ!! よくも、こんな都市の掃きだめのような場所にやって来たな、君たち!!」
「フレンドリーな口ぶりに反して単語が不穏だわ!!」
機関車が喋ったこと自体はどうでもいいのだろうか。
急にしゃべり出した鉄の塊に、なんの違和感もなく対応するファンタジー世界の住人たち。この程度のことで驚いていては、冒険者稼業は務まらなかった。
驚かそうと思っていたのだろう、ちょっとELF娘が残念そうな顔をする。
「とまぁ、こんな感じで。ここには先ほどの列車をひいていた機関車たちが集まっているんですよ。彼らが喋るのはまぁ、お約束ってことで」
「お約束って」
「なんにしても、イーグル市の地下を駆け巡っている彼らなら、都市の地図についての情報も知っているかもしれません。少し、尋ねて見ましょう」
と、ELF娘が機関車の方を向く。
頼られるのが嬉しいのか、機嫌良さそうに機関車が微笑む。
「なんだい君たち僕に聞きたいことがあるのかい? しょうがないな、特別だよ!! HAHAHAHA!!」
やけに上機嫌。ムダにハイテンション。
外国人の気さくなノリで接してくる彼に、女エルフがちょっとイラッとした顔をした。元ネタのノリだが仕方ない。主人公からしてかなりのトラブルメーカー、今思うとたいがいな奴しかいなかったよな――という作品のパロキャラを前に、彼女達は怒りを堪えるのだった。
「……なんだろう、トマースというよりマウースのような」
「モーラさん、余計なことを言うのはやめておきましょう、こんなしょうも無いことで作品がBANされたら嫌でしょう」
「いや、今更じゃない? もうこの作品数え役満で、いつ消されてもおかしくないでしょ?」
メタネタやめてもろて。
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