第1182話 どエレガンス&どビューティフォー

【前回のあらすじ】


 女エルフ達に迫る魔の手!


 イーグル市の地下を行く貨物列車を襲う列車強盗たち。

 地下と表層部の取引は公に出来ないモノ。そんな取引を悪人達が狙わないわけがない。運悪く、列車強盗達に目をつけられた女エルフたちが乗る列車。


「兄貴、あったぜ娼婦型ELFだ!! すげえ10体もある!! ハーレムだ!!」


「そうがっつくなよ。みんなで仲良く山分けといこうじゃないか。じっくりと、具合を確かめさせてもらってからな」


 高価なELFが目をつけられるのもまたやむなし。

 あわれ娼館に行くつもりが列車強盗達の慰み者になってしまうのか。女エルフたちにこれまでで最大のエロハプニングが訪れる――。


 とは、当然ならない。


『エレガンス&ビューティフォー!!』


「「「「!???!???!???!」」」」


 突然の濃霧噴射。暗い列車の天井に飛ぶ色とりどりの光源。

 そしてやかましいミュージック。


 突如として騒がしくなった列車の最後尾。のぼりたつ二つの女のシルエット。


「エレガンスELFゥゥウウウ!! ビーナス!!」


「ビューティフォーELFゥゥウウ!! アフロ!!」


「「二人揃ってビーナス&アフロ!! フゥウウウSEXYYYYY!!」」


「「「「どどど、どういうことだってばよ!?!??!???!」」」」


 どういうことなんでしょうか。(大混乱)

 ノリと勢いでギャグをかますのは馴れていたはずですが、ちょっと久しぶりに加減を間違ったかなと反省中。ちょっと書いた作者の手にも余るような大暴走ぶりの、女エルフとELF娘。


 いったい彼女たちに何があったのか。


 とりあえず、ちっともエレガンスでもビューティフルでもない、貧相&貧乳のダブル貧しいコンビの明日はどっちだ――。


「「誰がダブル貧しいコンビじゃい!!」」


◇ ◇ ◇ ◇


 時はちょっと遡って列車強盗が強襲する直前。

 女エルフとELF娘は、仲良く同じ段ボールの中に収まっていた。


「うぅっ、なんでこの娘と一緒なのよ。狭い……」


「仕方ないじゃないですかマスター。私ら、姉妹っていう設定のELFなんですから。別々の箱に入っているより、一緒に入っていた方がそれっぽいでしょ?」


「いや、姉妹って言っても、そんなに似てないじゃない」


「まぁ、共通しているのは胸とエルフってことだけですね」


「思ってても言わないでよ。悲しくなるから……」


 入れ替わったELFの設定上、一緒に段ボールにすし詰めになっている二人。

 無理矢理結んだ主従関係では、まだ絆も何もない。表面上は女エルフに従っている感じのELF娘も、ちょっと生意気というか調子のいい所がある。

 そんな彼女達だ、仲良く時間を過ごすことなど難しい。


 そんな訳で、出発してからこっち、人気がないのを良いことに二人は段ボールの中で言い合いをしている。身動きの取れない苦しさに女エルフが文句を言うこの流れもこれで何度目かの事。

 隣の段ボールに収まっている女修道士シスターが「またか……」と小声で呟いたのも無理はなかった。


「はぁーもう、いったいこのままどれだけ待たなくちゃいけないの。まさか、丸一日かかるとかじゃないわよね?」


「距離的には、地下から表層部までは歩いてたら三日はかかる距離ですからね。普通に、丸一日乗りっぱなしってのはあるかもしれないですよ」


「……マジで? 一回ちょっと箱から出て休憩したいんだけれど」


「ダメですよ。箱が動いた形跡があったら怪しまれますって」


「言うてもう中で結構動いちゃってるけれどね」


 なんて言ってため息を吐こうにも、女エルフの視界には発泡スチロールの玉が溢れている。ちょっとでも動こうモノなら、それがきゅっと鳴って耳障り、意外と精神的にこれが堪えるのを、女エルフはこの短い段ボール生活で思い知っていた。

 身動きを取らない方が楽。楽だけれどもしんどいじれんま。


 どうにかならないかなと思ったその時――。


「兄貴、あったぜ娼婦型ELFだ!! すげえ10体もある!! ハーレムだ!!」


「……うん?」


 がらりと車両の扉の開く音。それと共に女エルフ達が入っている段ボールの下部がどすどすと揺れる。声と共に響く足音――何者かが車両に入ってきたのだ。

 注意されたチェックの人員という感じではない。


 まさか――野盗に襲われたのかとすぐに女エルフは状況を正しく把握した。

 同時に参ったなと目を瞑る。


「嘘でしょ。荷運びの途中で野盗に襲われるのはよくあることだけれど、まさかこんな所で!?(小声)」


「うえぇっ!? どどど、どうしますかマスター!? 野盗にこのまま持ってかれたら、私たちなにされるか分かりませんよ!?(小声)」


「落ち着きなさいリリエル。えっと、こういう時はあれよ――相手をうまく威嚇しつつ、こっちがイニシアチブを取って(小声)」


「もたもたしてる場合じゃないですよ!! マスター、指示を出してください!!(小声)」


「あぁーもう、仕方ないわね!!(小声)」


 えいやと女エルフが魔法を使う。

 放ったのは目くらまし――スモークの魔法。たちまちにその場に煙が立ちこめる。

 そしてさらに、重ねて光源の魔法を放つ。これもまた目くらまし。自分達の目を姿を隠しつつ、相手の目を潰すという二段構えの攪乱攻撃だった。


 そう、ここまでなら戦闘開始前の小競り合い、ちょっとしたイニシアチブ巡りのやり取りだったのだが――。


『エレガンス&ビューティフォー!!』


「「「「!???!???!???!」」」」


 突如、妙な音声が箱の中から響く。

 なになに何事と焦る女エルフ。その脚が、何やら硬いものを箱の中で蹴った。

 なんだろうかとたぐり寄せれば――それは小型の蓄音機。


『説明しよう!! ビーナス&アフロとは、立てばラフレシアス、座ればウツボカズラ、歩く姿はハエトリソウ――美しき食虫植物のような肉食系エレガンス姉妹である!! 彼女達が街を歩けば、男達の視線はもう釘付け――』


「なにか始まったんだけれど!?」


「もーっ、なにやってるんですかマスター!! こんな時に、変な装置のスイッチ入れるとかドジにも程がありますよ!!」


「仕方ないじゃない!! 分かんなかったんだから!!」


「それより、このままもたもたしててもやられるだけです!! 勢いに乗じて出ちゃいますよ!! つべこべ言ってる時間も勿体ないです!!」


「分かったわ……えぇい、こんにゃろーっ!!」


 飛び出す女エルフとELF娘。

 そこに合わせて、名乗りを上げる小型の蓄音機。


「エレガンスELFゥゥウウウ!! ビーナス!!」


「ビューティフォーELFゥゥウウ!! アフロ!!」


「「二人揃ってビーナス&アフロ!! フゥウウウSEXYYYYY!!」」


((いったい、どうなってんのこれぇえええ……!!))


 ドンピシャ名乗りのタイミングと飛び出すタイミングが被ってしまったからもうおしまいよ。二人はいきなり西海岸系ELF姉妹ロールを強要されてしまうのだった。

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