第1144話 女エルフとあかたん新女王
【前回のあらすじ】
新女王――ついに自らの中に眠る魔神の力に飲み込まれてしまう。
遠い祖先が魔神シリコーンの巫女を務めていた新女王。その身体の中には、魔神の悪しき力が封じられていることを今の今まですっかりと忘れていた。その力が、彼女の中に渦巻いた負の感情を糧にして今ここに顕現する。
はたして新人格に身体を乗っ取られてしまった新女王。
彼女の身体を操って、魔神の力から生まれた少女は何をしようというのか――。
「かわいいよぉー!! わぁーっ、ケティおねーたんこの服に合うだろうなって、エリィ思ってたの!! 思った通りかわいいー!! きゃぁーっ!!」
「だぞ!! ちょっとエリィ、抱きつかないで欲しいんだぞ!!」
「やだもーん!! おねえたんがかわいいからいけないんだよ!!」
本当に何をしているのか?
何故かワンコ教授を捕まえて甘えだす新女王。
その素振りは完全に幼女のそれ。自分より年下――かどうかは不明だが、先輩にあたるワンコ教授をおもちゃにして弄ぶ。
これが彼女の中に眠っていた暗い欲望なのか。
いや、というかそもそも――。
『もしかして、あかたんってなの?』
今まさに、生まれたばかりの人格に、大人びた行動なんてできるわけない。
だって、あかたんなんだから。
新女王の内側から生まれ出た第二の人格は、この世界を闇にたたき落とすどころか、周りに力を借りないと生きていけないくらいのベイビーなのだった。
これはこれで、厄介なことになってしまった――。
◇ ◇ ◇ ◇
「ちょっと、どうしたのケティ!! なんか悲鳴が聞こえてきたけれど!!」
「なにかあったんですか、ケティさんエリザベートさん!!」
「だぞぉっ!! モーラにコーネリア!! 助けてなんだぞ!! エリィが、エリィがぁ……!!」
「あー、モーラおねえたまに、コーネリアおねえたまだ!!」
「「何事!?」」
一度二度の悲鳴ならいざ知らず、ぎゃーすか騒いでいたら流石に女エルフ達も感づく。新女王とワンコ教授の悲鳴に駆けつけた二人。そこで彼女達が目にしたのは、ワンコ教授をお着替えさせて嬉々として喜ぶ新女王だった。
どういう状況なのだろうか。
いや、その前に、彼女の自分たちの呼び方が引っかかる。お姉さまとはよく女エルフのことを呼んでいるが、おねえたまというのは初めての響き。女エルフ、ちょっとその呼び方が受け入れきれずに目をしばたたかせた。
そんな彼女に、わあいと新女王は無遠慮に飛びつく。
隙を見せれば新女王が彼女に甘えるのはいつものことだが――今の彼女がちょっと尋常ならざる状態なのに、女エルフはすぐに気がついた。
ここまでフットワークが軽いことはない。普段の彼女ならもうちょっと葛藤があるはずだ。甘え上手に見せかけた甘えベタ。それが新女王の本質。
「……貴方、いったい誰なの?」
「誰って、おねえたんエリィのこと忘れちゃったの?」
「いや、おねえたんって。エリィは私のことはそんな風には」
「わすれたったのぉおお?」
幼子みたいに目をうるうるさせて問いかけてくる新女王。
女エルフのノミの心臓レベルの良心がギリギリと痛んだ。別に何も悪い事をしている訳ではないのに、この耐えがたい罪悪感はいったいどうしてだ。
ぐっと胸を押さえて女エルフがその場に膝をつく。
大丈夫ですかと彼女の肩を抱いた
相変わらず服を着ていないすっぽんぽん状態の新女王。
その姿からしても異常は明らか。ステータス異常の治療は彼女の専門、すぐにロッドをかざすと彼女はその状態を確認した。
するとはっと女修道士が目を見開く。
「こ、これは!! バッドステータス【幼児退行】!!」
「なっ、なんなのそれはコーネリア!?」
「だぞ!! エリィが赤ちゃんみたいになってるのは、そのバッドステータスのせいなんだぞ!! コーネリア、いったいそれがどういうものなのか、説明して欲しいんだぞ!!」
息をのむ女エルフ達。一人だけ、気ままな感じの新女王。
女エルフパーティに緊張が走る中、気まずそうに女修道士が口を開く。
「いわゆる、恐怖系に代表される精神状態のバッドステータスです。恐怖で思うように行動ができなくなるほか、逃げ腰になってしまうのがバッドステータス【恐怖】ですが、これはさらにもう一つ進んだ状態」
「だぞ。たしかに、恐怖より一段進んでいる気がするんだぞ」
「むしろこっちが恐怖よね」
「あまりの恐怖に逃げる気力も失ってしまい、行動不能に予測不能の混乱が加わったのが【幼児退行】。つまり、赤ちゃんみたいに本能的な行動を取ってしまう、そういう精神状態なんですよ、今のエリザベートさんは」
「コーネリアおねえたん、あそんでー!!」
説明途中にもかかわらず、
これまで彼女とは同行していた期間も短ければ、お互いの公的な立場もあって女エルフほどの親しさはなかった。なので、こんな風に甘えることはまずなかった。
そんな希少な状況が、ますます先ほどの
いつものエリザベートでは説明できない状態に彼女はなっている。
バッドステータス【幼児退行】。
彼女は恐怖に飲み込まれてしまったのだ。
「コーネリアおねえたんのおっぱいやわやわだー。あったかーい」
「ちょっと待ってください!! ダメですよエリザベートさん!! 私の胸をそのように乱暴に――あぁん!!」
「えへへー、あんしんするー、これエリィのー」
「……なんてことなの!! ここまで一度も、そういうキャラなのにセクハラ展開のなかったコーネリアが、たじろいでいるですって!!」
「……お、おそろしいんだぞ」
女修道士を押し倒し、その胸にうずくまってごろごろと甘える新女王。
完全にあかたんのムーブだが、大人の身体でそれをやると同性でもちょっと危うい。そして、
精神状態が子供だと思えば、叱ることも注意することも難しい。まっこと、バッドステータス【幼児退行】とはおそろしいものだった。
ものだったが。
「けどまぁ、命に別状はなさそうだし、このままでも問題ないか」
「だぞ。注意して戦闘から遠ざけていれば、なんとかなりそうなんだぞ」
「そんな!! 皆さんいくらなんでも楽観し過ぎですよ!! 襲われている私の身にもなって――あぁちょっと、何を服の中に手を突っ込んで!!」
「エリィおなかすいたー、おっぱいのむー!!」
「出ませんよそんなの!!」
「「え、出ないの?」だぞ?」
実害が今のところ、
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