第1145話 どエルフさんとはじめての子守

【前回のあらすじ】


 幼児退行した新女王が女エルフ達を襲う。

 しょうがないでしょあかたんなんだから理論で、しっちゃかめっちゃかかき回す。


 これまでエロコメの中のエロキャラとして君臨しながら、一度もスケベな目に会うのを回避してきた女修道士シスターを、突然のボディタッチが襲う。おそるべしエロに目覚めた赤子。やっぱりエッチなハプニングには幼児化が一番なんだな。


 ばぶばぶ。(筆者の心の叫び)


「いや、お前が幼児化してどないするんじゃい」


 もうなんていうか、人生何もうまくいかないので、みんなに甘えるだけ甘えようかなと開き直っていまして。リアルで頼れる人がいないので、支えてくれる人がいるなら支えていただきたいんですよ。


 ほんと、二度目の失業は心に来る――。


 三度目はなんとかして回避したいけど、仕事ないない過ぎてツラたん。


「いや、全部自業自得じゃないのよ」


 やっぱり人間嫌なことがあっても我慢して食いしばった方がいいんですかね。逃げて逃げてここ(35歳)まで来た人間にはようわからんとです。なんとかなれと思ってなんともならない人生だったので、ほんと後は楽に生きたい――。


 はぁー、書籍バカ売れしてくれて大作家になれねーかな。


「ダメだこいつ、小説稼業を舐めくさっている」


 とまぁ、そんな甘えんぼ作者が書く、甘えんぼ王女が今後は大暴れ。女エルフパーティの旅路に、また一つ暗雲が立ちこめるのでした――。


◇ ◇ ◇ ◇


「やぁーっ!! なんでエリィのことみんな構ってくれないのぉ!! やだやだやだやだぁっ!! おねーたんたちのいじわるーっ!!」


「うーん、まさかエリィが幼児退行するとこんなことになるだなんて」


「だぞ。ちょっとなんていうか、予想外というよりも厄介な感じなんだぞ」


「うぅっ、まさかエリザベートさんに襲われるだなんて予想外でした。そんなことはしない人だと信じていましたのに」


「もっと甘えるぅ!! エリィを甘やかしてぇっ!!」


「「「なんというわがままプリンセスっぷり」」」


 あかたんに加えておひめさま。そりゃワガママになるのは当然といえば当然、ある意味ではシナジーのあるバッドステータスだった。

 とはいえ、流石にこの調子では困る。


 先ほど女エルフがかかった【まことののろい】よりも、こっちの方が数段タチの悪いステータス異常。あっちがまだ口調だけで実際にはそこまで傍若無人なあかたんではないことを考えれば、実害がでるレベルのこっちの方があきらかに酷かった。


 本当にどうしたものかしらと、女エルフ達が息を吐く。


「そうだ、ダック先輩がこれにも効くのでは?」


「嫌よ。これを外したら、また私がなのらになっちゃうでしょ」


『セコっ!! このエルフ、自分の事しか考えていやしねえグワッ!!』


 うるさいわねと脇に抱えた人形を女エルフがぎちぎちと羽交い締めにする。

 そういえばすんなりと呪われたドレスを彼女は脱いでいた。


 長いこと装備を身につけていたからだろうか。それとも、白衣と人形が効いたのか。メカクレの彼に促されるまま、軽い感じで衣装チェンジをした女エルフ。

 だが、まだ完全に呪いの効果が消えたかは怪しい。

 ステータスを確認して貰って表示されていないのは把握しているが、どういう理屈でなったのか分からないこともあり、まだ女エルフは警戒していた。


 それでなくても、二つの装備はあくまで【まことののろい】を緩和するためのアイテム。また違う原因と思われる、新女王のステータス異常に効果があるかは怪しい。


「うーん、服を着ていない所を考えると、装備によるバッドステータスって感じじゃななさそうね」


「だぞだぞだぞ。急におかしくなったんだぞ。きっと心労から来るものなんだぞ」


「エリザベートさん。ここのところ良いところがなにもなくって、随分落ち込んでいらしたから。それでついに……」


 それにしたってこんなことになるだろうか。

 全裸で床に転がってやだやだと駄々をこねる新女王に、女エルフ達は少し冷ややかな視線を向けた。いや、追い込まれていたのには違いないが……。


 うぅん、と、女エルフが唸る。


 女エルフと新女王はパーティー内で一番親しい間柄。

 ここは自分が面倒をみるしかあるまい。そんな責任感から彼女は新女王に近づくと、手近に落ちていた赤いドレスを彼女に着せた。

 手を挙げて足を通してと事細かに指示する女エルフ。

 その指示にもぐずる新女王。


 子育てをした経験はない女エルフだが――これは幼子の反応だなぁと困ったように眉根を寄せた。そんな彼女の表情を察知して新女王が「ふぇ」と声を漏らす。


「おねえたん、もしかしてエリィのこときらいなの?」


「そ、そんなことないわよエリィ。エリィはどんなことになっても、どういう状態になっても、私の大切な義妹なんだから。心配しないで」


「ほんとぉ? あかたんでもエリィのこと好きぃ?」


「……本当よ?」


 一瞬、迷ってしまった自分にちょっと自己嫌悪。

 女エルフがいけないわねと唇を結ぶ。そんな難しい顔に、よりいっそう警戒心を強めた新女王。少し女エルフから身を引いた。


 迷っていてはいけないと強く自分に言い聞かせる女エルフ。

 普段の彼女なら、新女王との過度なスキンシップにはちょっと気が引けるのだが、ここはぐっと堪えてその問いに笑顔を向けた。不安そうにこちらを見る新女王を引き寄せて、その背中を軽く叩けば安心したように新女王が彼女の身体を抱き返した。


「大丈夫よエリィ。心配しないで。貴方はよく頑張っているわ。今はちょっと巡り合わせが悪いだけ。もう少ししたら、きっと落ち着くはずだから」


「ほんとぉー? もぉ、つらいないなるのー?」


「ないなるから。だから大丈夫。それまでは、私がお義姉ちゃんとして、貴方のことを守ってあげるからね」


「えへへー、おねえたんだいすきぃー」


 だから、早く服を着ましょうねと女エルフ。新女王の身体にいそいそと赤い衣をまとわせる。幾分素直になった新女王がそれを身につければ、ようやくほっとした顔で女エルフが彼女から距離を取った。


 真紅のナイトドレス。キングエルフが身につけたのとはまた違う形状のそれは、まるで彼女の身体に合わせてしつらえられたかのように似合っている。


「おねえたん、どうかなぁ、似合ってるかなぁ? エリィきれいなったぁ?」


「えぇ、とっても綺麗よ。お姉ちゃんみたいだわ」


「……モーラさん」


「……だぞ。なんだかモーラも辛そうなんだぞ」


 屈託なく笑う新女王に微笑みながらも、どこか肩を重たげに沈める女エルフ。

 大事な妹分をみすみす幼児退行させたことを気に病んでいるのだろう。とはいえ、今は頼りになるのは自分より他にいない。


 失って初めて思い知る、パーティーリーダーの重要性。

 自分たちを男騎士がどれだけ巧くケアしていたのか、その偉大さを思い知りながらも、女エルフはぐっと歯を食いしばるのだった――。

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