第1139話 どエルフさんとシーマ村
【前回のあらすじ】
視点は戻って女エルフたち。
彼女達は廃墟の街をイーグル市への地図を求めて彷徨っていた。既にうち捨てられ、ぼろぼろに壊れた街は森との同化が始まっている。
なかなか終末感のある探索の最中、彼女達は特徴的な建物にたどり着いた。
「異世界呉服屋シーマ村」
「……へぇ、服屋さんですか?」
「だぞ。こんな街でも服なんて売っているんだぞ。意外なんだぞ」
そう異世界シーマ村。
なんとも不穏な響きの建物。破壊神の流れで考えれば加速装置だし、宇宙世紀の流れで考えたら女海賊。はたして、入っていいようなお店なのだろうか。
とはいえそんな事情なんてしらない女エルフ達は、さっさと中に入ってしまう。
異なる文明の衣服に、ちょっとテンションが上がる女性陣。
すると、そこに店員がひょっこりと現われる。赤いエプロンに黄色いマフラー、そしてなんだか風に吹かれているような髪型。メカクレの彼は、女エルフ達を見るやいきなりダイビング土下座で入店の挨拶を繰り出すのだった。
はたして、彼の正体やいかに――。
これ、怒られませんかね?
「今更何をびくついてるのよ……」
流石に多くの女性を冥府魔道にたたき込んだ美青年キャラを弄るのは、勇気がいるんですよ――。
◇ ◇ ◇ ◇
「なるほど!! するとみなさん、この大陸の外からやって来たと!! はぁー、なるほどそれで変わった格好をされているんですね!! びっくりしたなぁ!!」
「話してみると意外に気さくねコイツ」
「ちょっとなれなれしいくらいですね。うぅん、ちょっと残念です」
「だぞ!! そんなのいいからちょっと話を聞かせるんだぞ!!」
衝撃のフライング土下座邂逅からちょっと経って。
女エルフ達はメカクレの彼とすっかりと打ち解けていた。
初手土下座はコミュニケーションとして意外と効果的だったか。女エルフたちの男への警戒はすっかりと解けているようだった。
メカクレの彼の名前はシーマ村GIO。
呉服屋の唯一の店員にして、アルバイト店長という奇特な出自のELFだった。
学生気分が抜けないのか、それとも素なのか、ちょっと抜けた感じの彼。
「いやー、このお店で働き出してからはじめてのお客さんですよ。僕はてっきり、人類もELFも滅んでしまって、気づかないまま働いているのかと」
「……うぅん、そ、そうね」
(((本当のことを言いづらい感じの現地人だ……)))
そして実際どこかちょっと抜けている感じだった。
人類の創造を巡る争いは既に決着がついている。それを知らずにこの大陸の街は動いている。メカクレの彼の反応も当たり前なのだが――それにしたってやりにくい。
どう対応したものだろうかと女エルフたちが顔を見合わせる。
不安げな顔をする彼女達をよそに、軽い感じでメカクレの彼は破顔した。
なんだか元ネタと随分と違う。こんな見るからなギャグキャラで良いのだろうか。
最初のあの葛藤はどこへやら爽やかに笑うと、彼は女エルフに手を差し出した。
「あらためまして、ここ呉服屋シーマ村を預かっているシーマ村GIOです。これも何かの縁だと思いますので、どうかひとつよろしく」
「……よ、よろしく」
握りしめた手をぶんぶんと振り回すメカクレの彼。
なんというか今になってみると、破壊神というより破壊神大好き絶叫系――いや、やめておこう。とりあえず違う店長感のある男だった。
閑話休題。
敵じゃないことが分かってお互いにホッとする女エルフ達。
とはいえ、絶妙にこちらの事情が伝わっていないのも事実。どうこれから話をしたものかなと彼女は首を捻った。何か妙案があるかしらと
そんなことをしていると、そうだせっかくだからとメカクレの彼が手を叩く。
「なにやら随分と動きづらそうな衣服を着ているみたいだ。せっかくなので、ここでちょっと装備を調えていきませんか?」
「えぇ? またコスチュームチェンジ?」
「なんだか最近多いですね。いったいどういう風の吹き回しでしょうか」
「だぞ、作者が変な趣味に目覚めたんだぞ」
はいそこメタいこと言わないの。
ここは呉服屋。ゆっくりしていってくださいねのノリで、衣装チェンジを女エルフ達は打診された。
確かにメカクレの彼が言うとおり、旅装にしてはちょっとキツい格好をしている。コスプレ衣装でダンジョンに潜るだなんて、冒険を舐めているとしか言いようがない。たとえ普段来ている衣装がコスプレのように見えても――そこはやっぱりちゃんとした装備。普段着と冒険用の服には歴とした違いがあった。
「と言っても、ここに置いてあるのも普段着でしょ」
「いくら安くて丈夫と言っても、冒険に耐えられる装備はなかなかありませんよ」
「いえいえ、そんなことありませんよ。ここは呉服屋、お客様のニーズに合わせてさまざまな衣服を用意しておりますとも。安くて丈夫なものから、その逆――」
「高くて粗末なモノでも売っているの?」
揚げ足を取った女エルフに、チッチッと指を振るメカクレの彼。ちょっと、ジョーはそんなことしないと文句言われそうな素振りだった。
呆れる女エルフたちの前で、パチリとメカクレの彼が指を鳴らす。
すると――奥からいかにも運搬用ロボット、下半身が四輪車になった奴らが服を手にしてこちらにやって来た。
差し出されたのはなんとまぁ、原色鮮やかなレザーメイル。
そこはかとなくそこからは魔力が漂っていた。
なるほど――。
「高くて薄いけれど魔力のこもった装備って訳ね」
「そういうことです。冒険者用旅装、なかなか人気商品なんですよ。なんだったら、お客様たちが普段来ている服に合わせて素材だけ同じで新調することもできます」
魅力的な提案だった。
先ほどの脱出劇のせいで、女エルフ達の格好は既に割れてしまっている。
イーグル市に侵入する前に変装しておいた方がいいかもしれない。そして、普段使いの衣服が丈夫になるのなら、それは逆に願ったり叶ったりだった。
お願いしようかしらと女エルフがメンバーをチラ見する。
特に異存はない感じで、
ちょっともったいつけて、「そうね」と女エルフ。
「せっかくだからお願いしようかしら。けど、あまりお高いのは持ち合わせがないから無理よ」
「お支払いが難しいなら、働いて返していただいても構いませんよ。そろそろ冬物の入れ替えの時期で、人手が欲しかったところですから」
「……ほんと、シリアスな漫画の主人公みたいな顔して、出てくるセリフがどうしてこうもトンチキなのよ」
けらけらと笑うメカクレの彼。
敵地の中を追っ手から逃げながら彷徨っているというのに、ちょっと女エルフたちの肩から緊張が抜けた。
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