第1138話 どエルフさんと謎の遺跡
【前回のあらすじ】
悲しい過去を背負い、二度と絶望しないために覇道を行くことを選んだ仮面の騎士。そんな彼の前に過去が音もなく忍び寄る。
みなさんは覚えているだろうか。
少年勇者の身の上を。
暗黒大陸から西の王国に流れ着いた少年の物語を。
そして彼の名前を。
勘違いなどではない。
仮面の騎士と少年勇者は過去に出会っていた。
かつて仮面の騎士は少年勇者を胸に抱き、彼を救うために生きようと決意した。生き別れた、彼らは義理の兄妹だったのだ――。
その証拠に。
「ニュータイプだというのか」
「なに言ってんですか」
少年勇者のナニは親父譲りの巨星サイズだった。
「って、こんなん気づくわけないでしょ!!」
身体的特徴で過去の因縁に気づくのはこの手の小説の王道的展開。なのにそれがちん○だとなんでこんな文句を言われなくてはいけないのか。
世の中は理不尽、本当に理不尽。
こういう理不尽を、小説を通して世の中に訴えていきたい。
そんな使命感で僕は小説を書いているんだな――。(大嘘)
「はいはい。そういうのいいから、さっさと本編はじめなさいよ」
そんな感じで、思わぬ所で繋がった仮面の騎士と少年勇者。二人の過去の因縁が分かった所で、今週は女エルフの方に視点が移ります。
なにがしたかったのかって、それは今週分かるはず――。
おそらく。
「不安な展開になってきたなぁ」
◇ ◇ ◇ ◇
「だぞ。さっきのダイナモ市と比べると小さいけれど、ここも街だったんだぞ。明らかに人が住んでた形跡があるんだぞ」
「……どうして滅んでしまったんでしょうか?」
「さぁ、分かんないわよそんなの。さっさと地図でもなんでも探して、こんな不気味な場所おさらばしましょう。何が出てくるか分かったモノじゃないわ」
「え、エリィは大丈夫です……ヒィッ!!」
茂みからひょっこりと顔を出したのは機械の犬。「ピィ、ガガガ」と唸ったそいつはメタリックな身体を揺らして、街を奥へと駆けて行く。
飼い主がいるのかは分からない。
壊れた足からはケーブルが伸びている。それがどういうものか女エルフ達には分からないが、どうにも寂しい気持ちで彼女達は犬の背中を眺めた。
街が滅んでから随分と時間が経っているのだろう。
崩れ落ちた建物の間からは木々が生い茂り、街は森と一体化する最中だった。それでも、人の営みの痕跡というのは消せないもの。ジャングルには異質なその空間を、女エルフたちはおそるおそると歩いていた。
目的は先にも言ったようにこの辺りの地図を手に入れるためだ――。
「とはいえ、どこに行けばいいか分からないわね」
「だぞ。ちょっと街が広すぎるんだぞ」
道の途中で女エルフ達が立ち止まる。さきほどのダイナモ市と比べれば、敷地は随分と狭い。街の果てが見えるくらいの規模だ。
とはいえ、歩いて回るにはちと広い。
ぼやぼやしてしまうと日が暮れてしまいそう。
そこに加えて、この大陸の都市は三次元的な広がりがある。二階三階はもちろんのこと、地下にも居住区があることを考えると、闇雲に探すのは気が引けた。
何かとっかかりになるような建物や街の見取り図などないか。
そんなことを思って辺りを見回した女エルフが、ふと小綺麗な建物を見つけた。この崩壊した街の中で、唯一今でも人が住めそうな形を残したそこは、薄紅色の外壁をした一戸建て住宅だった。
正面入り口にはでかでかとした看板――。
「異世界呉服屋シーマ村」
「……へぇ、服屋さんですか?」
「だぞ。こんな街でも服なんて売っているんだぞ。意外なんだぞ」
「なんにしても、ようやく情報が聞けそうですね。店員さんがいるといいんですけれど……」
どこに行けばいいのかも分からないのだ、とりあえず入ってみようと女エルフ達はその服屋へと向かう。
扉はガラス張り。
女エルフ達が前に立ったのを察知して扉が左右に開く。
どうやらまだ電力周りも生きているらしい――とは、流石に文明が違うので気がつかない女エルフ達だった。
中に入れば、割と豪勢な品揃え。机や棚に並べられた、上着にスカート、ズボンにとよりどりみどりの状況に思わずため息が漏れる。冒険者と言っても女性である、お洒落にはどうしても興味は引かれた。
「うわぁ、なにこれ。見たことない縫製方法。どうやって作るのかしら」
「だぞ!! だぞ!! 縫い方もだけれど服の材質も不思議なんだぞ!!」
「これは相当お値段が張るんではないでしょうか」
「王室御用達の呉服屋でもこのような品は滅多に出て来ませんでしたね。うーん、少し着てみたいような」
思い思い、気になる衣服を手にしてはしゃぐエルフ達。
するとそんな所に、のっそりと奥から影が近づいてきた。
赤いエプロンに黄色いマフラー。なんだか風に靡いたような髪型をしたその青年は、女エルフ達を見るなりふむと首をかしげた。
女エルフ達もそんな男の登場に、服をその場に置いてふむと首をかしげる。
しばらく、沈黙が続いた後――。
「きゃ、客!? 数千年ここでアルバイトしているけれど初めて来た!?」
「「「「うぇっ!? 店員!?」」」」
どちらともなく驚いて飛び退いた。
胸に手を当てて深呼吸を繰り返す変な髪型の青年。メカクレの彼は、妙に劇画チックな表情を女エルフに向けると、額からねばっこい汗を流した。
そんな彼に、女エルフが静かにスタッフの先を向ける。
「貴方、この街の住人ね? ちょっと聞きたいことがあるんだけれど?」
「……はぁはぁ!! どうする!! どうするんだシーマ村GIO!! こいつらは本当に客なのか!! 客を装った敵なんじゃないのか!! けれど、敵じゃなくってもし客だったら、とんでもなく失礼なことをしているんじゃないのか!!」
「……大丈夫?」
なんだかいまいち噛み合わない会話に女エルフが顔をしかめる。
そんな彼女の表情を意に介さない感じで、一人自分の世界に浸るメカクレの彼。
えぇいままよと叫んだ彼は、その場に飛び上がる。まさか先制攻撃かと、女エルフが火炎魔法の詠唱準備に入った。
けれども、彼は――そのまま地面に頭をこすりつけて平伏する。
「いらっしゃいませ―!! 異世界呉服屋シーマ村へようこそーっ!!」
なかなかダイナミックかつ大げさな入店の挨拶だった。
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